米政府、エクソンのロシア制裁免除申請を却下

協調減産の行く末とシェールオイルの増産動向とが綱引きをしている原油市場、昨日(4月21日)3週間ぶりに50ドル(WTI)を割り込んだ。リバランス(需要と供給が均衡すること)はゆっくりと進んでおり、市場は何か新たな刺激を求めているようだ。

そんな中、FTが目を引く見出しの記事を掲載していた(”US turns down Exxon request for Russia sanctions waiver” around 5:00am on Apr 22, 2017)。サブタイトルは “Unusual Treasury disclosure about decision made ‘in consultation’ with President Trump” となっており、この種の話が報道されること自体が通常ではないことを報じている。

申請そのものはオバマ政権時代の2015年になされており、イタリアのENIなどには許されている黒海における掘削をエクソンにも許可して欲しい、という内容だ。この「申請」事実をウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が4月20日(木)に報じたことから、トランプ政権としても即座に反応する必要を感じたらしい、ということのようだ。

何はともあれ、記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

・ムニューチン財務長官は金曜日、ロシア制裁の免除を求めたエクソンの申請を許可しない、と発表した。エクソンは、ロシア政府が過半数を有するロスネフチと共に黒海で掘削作業を再開することの許可を申請していた。ロスネフチは現在、イタリアのENIと深海の探鉱プログラムを進めているとみられている。

・ムニューチン長官名の一行のプレスリリースは「トランプ大統領と協議の上」この結論に達した、となっている。エクソンは、現在国務長官になっているティラーソンが最高経営責任者だった2015年に、オバマ政権下の財務省海外資産管理室に申請していた。この申請は、木曜日にWSJが報じたことから明るみに出、財務省が通常行わないプレスリリースを行うこととなった。

・「財務省がこれほど早く却下したこと、およびプレスリリースを行ったことは、前例のないことだ」と制裁問題に詳しい弁護士のDoug Jacobsonはいう。「財務省や海外資産管理室は、通常個別の申請についてコメントすることはない」。

・今回の通常でない取り扱いは、トランプ大統領とロシアとの関連に関し、政権が神経質になっていることの反映だ。今年に入って米国の情報筋は、ロシアが昨年の大統領選に介入したことを非難している。上下院の情報特別委員会が独自に捜査を進めているが、FBIは、ロシア政府代表と前リアリティ番組のスターの関係者との共謀疑念を調査している。

・今週、エクソンが免除申請をしていたことが明るみに出ると、即座に主要な議員たちから反対の声が上がった。たとえば上院軍事委員会委員長のジョン・マケイン議員は「気が狂ったのか?」とツィートした。

・トランプ氏は何度も和解への希望を表明していたが、最近、米ロ関係は悪化している。かつての冷戦のライバルはシリア内乱への対応を巡って対立している。今週にはロシアの爆撃機がアラスカ沿岸を飛行し、何度か追い払う事態も発生している。

・2014年3月、ロシアがウクライナからクリミア半島を併合したことに対し米国は金融制裁を課しているが、(ビザ拒否や資産凍結などの対象となる)ブラックリストにはプーチンの盟友でロスネフチ社長のイゴール・セチンも含まれている、ロシア支援のウクライナ東部の分裂主義者たちがマレーシア航空機を撃墜した後には、新たな制裁が追加された。

・エクソンは、2015年に制裁免除の許可申請を行ったのは、「欧州の競争相手が作業を許可されている地域」において、「ロシアとの合弁契約に基づく契約上の義務を達成できるようにするため」だと述べていた。

・エクソンが2011~13年にロスネフチと締結した契約は、世界最大の石油・ガスの埋蔵量をもつロシアの成長の機会をもたらすものだ。この契約に基づき両社は、北極海や西シベリアでのシェールを含む地域でJVを設立した。これは生産量増加に苦闘していたエクソンにとって重要なものだった。だがロシアがクリミアに侵攻し、ウクライナ東部に介入したため、欧米が制裁を課し、西側の石油会社はロシアにおける主要なプロジェクトを中止せざるを得ず、エクソンの希望は凍結されてしまった。

・制裁には、深海における掘削も含まれており、エクソンは深度1,000ftを越えている黒海での掘削を中止せざるを得なくなっている。限られた事務的作業を行うことは、オバマ政権時代に制裁免除されている。

・エクソンの申請内容の詳細は公になっていないが、政府が背後にいるロシア企業と共に掘削を再開することが免除される可能性はほぼない。

若干補足しておくと、石油・ガス事業に関する米国政府の制裁とは、金融に関する制限以外に、深海や北極「海」、あるいはシェール「オイル」(ガスは対象外)に関する資機材の提供は、否認されることを前提に、事前申請すること、となっている。

つまり、当面西側石油会社がすべての資金負担をして探鉱開発作業を進める、という抜け道を押さえ込んでいるものだ。またブラックリストは個人のみならず企業も対象であり、エネルギー企業としてはロスネフチ以外にガスプロムやノバテック(ヤマルLNGの主体。昨年、中国から資金供与を受け、プロジェクトは進み始めた)などが入っている。

はてさて「予測不可能な」トランプ大統領は、「IQが歴代最高」の閣僚メンバーに乗っかって、ロシアとの関係をどちらに導いて行くのだろうか。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年4月22日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。