トランプ政権の税制改革に立ちはだかる壁

2017年05月01日 06:00

バロンズ誌、今週のカバーは資本財メーカー大手キャタピラーを挙げる。4月24日週に決算発表を行った同社の株価は通期見通しを引き上げたため株価は8%上昇し、2014年12月以来となる3桁台の102ドルを超えて引けた。同社は業績見通しで商品価格の回復や中国からの受注改善に加え、インフラ投資拡大や税制改革などを掲げるトランプ政権発足に伴うビジネス重視の政策期待が奏功し 米国内からの需要の上向きを指摘。バロンズ誌は、同社が増益・株価上昇トレンドをひた走る可能性を見込む。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週はトランプ政権の税制改革に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

トランプの税制改革へ向けた大いなる挑戦=Trump’s Big Tax Challenge.

就任100日を振り返り、トランプ大統領はロイターとのインタビューで「(大統領就任)以前の人生が大好きだった。あらゆることが上手くいっていた」。しかし、1月20日で全てが変わった。トランプ大統領は「かつての人生よりやるべきことが多い。容易だと考えていたのに」と語る。

選挙中に公約として挙げていた政策の変更は、ほとんど成し遂げられていない。例えば就任初日に中国を”為替操作国”と認定すると発言していたが、北朝鮮問題で中国の習近平首席と協力している。

政府機関の閉鎖は、少なくとも1週間にわたって回避された。税制改革は1ヵ月以上の遅れを経て、ムニューシン財務長官と国家経済会議(NEC)のコーン議長が1ページの基本方針を表明。内容は選挙中での公約に沿い税基盤を広げるとともに税率を引き下げつつ、詳細には触れていない。得税については7つの区分から10%、25%、35%の3区分へ簡素化し、基礎控除を2倍に引き上げ、住宅金利や寄付、退職後の貯蓄を除き項目別税控除を廃止する。医療保険制度改革(オバマケア)の収入源として課された、高所得者層の投資収益に対する3.8%の付加税も撤廃。法人税をめぐっては、現状の35%から15%の引き下げを提案した。

一連の内容は、鈍い経済を刺激する上でサプライサイドに着目した処方箋の基本であると共に、民主党がトリクルダウン・エコノミーの失敗だと冷笑する手段だ。州税と地方税の税控除廃止には州税が高いニューヨーク州やニュージャージー州、カリフォルニア州を中心に共和党議員を含め反対してくるだろう。

税制改革に関わる数字はコストと合わせて検討すべきで、たとえコストを含んでいたとしても修正に直面するに違いない。レーガン元大統領1期目で財務長官を務めたドナルド・リーガン氏は、税制改革案がワープロで作成されたと語ったが、これは修正される運命を示唆していた。

グラスキン・シェフのチーフエコノミスト、デビッド・ローゼンバーグ氏いわくトランプ政権では、レーガン元政権が直面しなかった3つのDすなわち、Debt(債務)、Deflation(デフレ)、Demographics(人口動態、高齢化を指す)に対応する必要がある。債務をめぐってはレーガン元大統領が就任した直後の連邦債務は国内総生産(GDP)比25%にとどまったものの、足元では80%近い。マッキンゼーの調査では、連邦債務をGDP比で25%削減させるには6〜7年かかる。現状で債務縮小は民間で進んだが、政府ではまだ始まってもいない。

米国の連邦債務、GDP比の推移。

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(作成:My Big Apple NY)

ケインズ派の教科書が示す通り、債務は経済を刺激するというより鈍い成長と関係がある。債務は価格に下方圧力を与え、携帯料金にまで及び始めた。デフレ圧力は、残存していると言えよう。

2016年と言えばBREXITと米大統領選が想起されるだろうが、レーガン元政権時に消費と所得のピークを迎えていたベビーブーマー世代が70代に差し掛かった年でもある。人口動態で米国は高齢化を迎えるなか、貯蓄不足を背景に65歳以上の労働人口はどの年齢層より速いペースで増加中だ。

財政より経済に影響を与える金融政策は、正常化の最中にある。5月2〜3日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを控えようが、市場は6月13〜14日開催のFOMCでの利上げを織り込む状況だ。利上げは経済成長が鈍化するなかで進められる見通しで、米1〜3月期GDP速報値は3年ぶりの低水準にとどまった。トランプ政権の税制改革やインフラ投資拡大の見通しに関わらず、米国の成長は鈍いままだ。しかも金融市場でのリスクが高まり、向こう2年以内での景気後退すら視野に入るとあって、金利正常化の過程にあるものの過去と比較して低金利の状態は続きうる。

——引き続き、同コラムの執筆者であるランダル・フォーサイス氏はトランプ政権の政策に慎重な見方を維持しています。4月26日の税制改革案公表後、米株が伸び悩むだけに余計でしょう。トランプ大統領と懇意のルパート・マードック氏率いるニューズコープ傘下ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙の論説欄は、わざわざホワイトハウスが引用するほど評価していました。同ニューヨーク・ポスト紙も、”Team Trump unveils sweeping tax reform plan”と伝えます。一方で英ガーディアン紙は”Trump unveils ‘most significant tax reforms since 1986′, but experts sceptical –as it happened”、Voxは”We waited seven months for Trump’s tax plan, and we got … this?”、CBSは”Is Trump’s tax cut the biggest ever? Probably not”とヘッドラインを掲げ、特にCBSはレーガン1期目の減税額がGDP比2.9%だったところトランプ政権下では2.5%にとどまると報じています。

また今回の税制改革では国境調整税を盛り込まず財政赤字削減には成長率3%を掲げるのみで、法人税15%をフリーダム・コーカスを含め共和党保守派が認めるかは不透明。ピーター・ロスカム下院議員のほか一部はサプライサイドの刺激を重視したトランプ政権の税制改革を受け入れる半面、財政規律を重んじるコンコルド・コーリションの政策ディレクターはミッチ・マコーネル上院院内総務やポール・ライアン下院議長が”税制中立”を確約したと語ります。今回の税制改革自体、1ページのみの概要だっただけに今後は様々な修正が加えられるに違いありません。

(カバー写真:Ken Lund/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年4月30日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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