「胎内記憶」で見た景色を絵にするとこんな感じになる

写真は参考書籍書影

さて、皆さまは「胎内記憶」という言葉をご存知だろうか。妊娠中の赤ちゃんが、様々なことを覚えている時の記憶のことである。少なくとも、大人になり、赤ちゃんの記憶など、すっかり抜け落ちている人にとってはにわかに信じがたいことかも知れない。

今回紹介する書籍は、「胎内記憶」の記憶をもつ子どもにインタビューをして絵にしたものである。胎内記憶の研究の第一人者である池川明医師(医学博士。池川クリニック院長)が行なった調査によると、赤ちゃんの3人に1人が「胎内記憶」を持っているといわれている。

■興味深い調査結果が得られている

――池川明医師は、「胎内記憶」に関心をもったきっかけを次のように答えている。

「私は周産期心理学(胎児期、新生児の心理を研究する学問)に関心を抱くようになりました。そして、赤ちゃんには驚くほどの知覚能力が備わっていること、おなかの中のことや生まれたときのことを覚えている子もいることを知ったのです。」(池川明医師)

「よい子育てを模索するヒントになるかもしれない。そう考えた私は、2000年8月から12月にかけて、私のクリニックや協力してくれる機関で、胎内記憶に関するアンケートをおこないました。すると、79人から『覚えている』という答えが返ってきたのです。」(同)

――2001年、全国保険医協会団体連合会の医療研修会で発表をする。発表した内容が全国紙の記事になり、大きな反響を呼ぶことになった。2002年、長野県諏訪市すべての保育園に通う園児、2003年には長野県塩尻市すべての保育園に通う園児を対象に、アンケート調査を実施した。

諏訪市での調査結果については、2003年、チリのサンチアゴで開催された、第17回「FIGO World Congress of Gynecology and Obstetrics」で発表する。塩尻市の調査結果については、2004年、国立京都国際会館で開催された「日本赤ちゃん学会」(新生児の能力と周産期医療のあり方を探る研究会)で報告する。

いずれの調査も、一般の保育園、幼稚園というごく平均的な親子3601組を対象にしている。調査結果の概要は、胎内記憶は33パーセント、誕生記憶は21パーセントもの子どもが、「ある」と答えていることが明らかになった。

さらに、記憶の保有率に最も大きな影響を及ぼしていたのは、「お母さんがおなかの赤ちゃんに話しかけていたかどうか」だった。お母さんによく話しかけていた子どもは、胎内記憶、誕生記憶とも、その保有率が高い。※『胎内記憶』(池川明著)に詳しい調査結果が紹介されている。

■子どもの教育を模索する機会になる

――さて、本題を「胎内記憶」の絵に戻したい。

著者は、ひだのかな代さん。札幌市在住の絵本作家、イラストレーターである。実際に話を聞き制作し、胎内記憶に関する講演などで映像として流していたものを、各方面からの要望に応えて書籍化したものである。

「胎内記憶」の調査結果を紹介した、池川明医師も、本書作成に協力し次のような言葉を寄せている。「多くの子どもたちから私も実際に聞きました。子どもが覚えている“生まれる前の世界”のお話です」。「胎内記憶」という難しさを感じさせない表現で満たされている。手に取った人は「居心地のよさ」「あたたかさ」を感じるのではないかと思う。

「胎内記憶」は未だ事例が少ないため、発展途上にある研究分野ではないかと思う。よって、医学的にはっきりとした決着はついていない。子どもは不思議な行動をすることがある。もしかしたら、これも過去の記憶と関係があるかも知れない。この関係性がわかれば、子どもの教育を模索する新たな機会になるのではないかと思う。

尾藤克之
コラムニスト

<アゴラ研究所からお知らせ>
―2017年5月6日に開講します―

アゴラ出版道場、第2回は5月6日(土)に開講します(隔週土曜、全4回講義)。「今年こそ出版したい」という貴方をお待ちしています。詳細はバナーをクリックしてください。
追記
アゴラ出版道場に渡瀬裕哉さん、田中健二さん登壇決定」。