都議選が「大坂の陣」でなく「応仁の乱」と化す危惧(追記あり)

2017年05月01日 06:00

早川忠孝さんはアゴラ執筆陣の中でもいまや少数となった“小池派”だが、その早川さんのマネを一言だけさせてもらうと、「都議選は“大坂の陣”だと思ったら、アレレ、蓋を開けてみると“応仁の乱”になってしまったぞ」という事態になりやしないか、筆者は、ここ最近、危惧を抱いている。

千代田区長選では圧勝だったが…(小池氏Facebookより)

「関ヶ原」千代田区長選で小池陣営大勝も、メディアの論調に変化の兆し

2月の千代田区長選までの小池陣営は、関ヶ原を制した徳川方を彷彿とさせる時の勢いを得ていた。自民党都連が推す候補者の選対事務所には、区議の相当数が出入りしながら、彼らの持ち票にすら程遠い数しか集められず、小池陣営が推す現職がトリプルスコアで圧勝。自民候補者陣営の戦いぶりが、史実で戦場で動かぬ者、裏切る者が相次いだ西軍を想起させ、“関ヶ原”の次は“大坂の陣”たる都議選で決着をつける流れのはずだった。

本当に「関ヶ原」と化した千代田区長選。現職地滑り的圧勝

しかし、豊洲市場移転問題で百条委員会が設置され、石原元知事や浜渦元副知事を呼びつけた割に、自民党サイドがぐうの音も出ないほどの決定的かつ犯罪性のある「悪事」が暴露されたわけではなかった。小池知事をヒロインに仕立て上げるワイドショーの勧善懲悪報道を嫌気したネット民の間でアンチ小池世論がじわじわ広がり始めると、小池知事の政局ありきの姿勢に一般都民にも違和感が広がったのか、4月頭には朝日新聞の情勢調査で、知事支持率は74%と高止まりしているものの、都議選での投票先で自民が都民ファーストを上回った。

朝日新聞の都民世論調査:朝日新聞デジタル 

その後、連合東京との政策協定が決まると、脱・既成政党を志向していた都知事選当時の小池支持層にも「既成勢力との妥協」が一層強まったように見えたはずだ。そして、民進党離党者たちの糾合やリベラル系の地域政党との政策協定締結など“左傾化”が目立ち始めると、保守的傾向があるネット民の怒りを増幅させただけでなく、これまで小池陣営の「味方」をしていたはずの保守系メディアの論調も変わりつつある。その代表的な夕刊フジのこの記事は最近の異変を象徴するように感じた。

小池塾の左傾化警戒 塾生からは不満の声、都議選「“偽装保守”議員出るのでは」 – ZAKZAK

2月の千代田区長選の時、夕刊フジは明らかに“小池派”だった。自民党候補が「日の丸を的当てにしていた」として、ネット上で受けたネガティブキャンペーンの拡散装置になる記事を掲載していた頃と比べると、かなりの様変わりようだ。

小池氏、日の丸的あてゲーム騒動に激怒「信じられない!」 千代田区長選ドン派候補・与謝野氏直撃「全然違う」 – ZAKZAK

テレビも一部でバランス感覚が働き始めた兆し

テレビ局の動きを見ていても潮目の変化を感じる。これまで、テレビの番組、特にバラエティは小池派のおときた幹事長の独壇場という番組もあったのが、BSやTOKYO MXでは、アゴラ執筆陣で唯一の自民党都議でもある川松真一朗氏(元テレ朝アナ)がスタジオに出る機会が増えてきた(TOKYO MX「田村淳の訊きたい放題!」)。テレビ局の現場でも一部では、バランス感覚が働き始めたように思える。

川松氏が都議では単独でゲスト出演した「田村淳の訊きたい放題!」(番組サイトより)

主要政党が水面下で実施する最新の情勢調査をみていないので、肌感覚の話になって恐縮だが、メディアの報道の変化を見ていると、選挙ドットコムで一時期、単独過半数、60議席超えと予測したときほどの勢いからは落ちてきているのではないか。実際、同サイトの調査でも小池支持率は3月時点の85.25%から4月は77.14%とわずかに減らした。自民都連の肩を持つわけではないが、都議会自民党が、豊洲の件でぶれずに移転の「正論」を主張してきたことが、ボディブローのようにじわじわと効果が出ている。

もちろん、そうは言っても、テレビのワイドショーが、「勧善懲悪」方式で小池氏と自民都連の神経戦を報じていくのが情報戦の基調であることに変わりはない。テレビのパワーは、ヘビー級のストレートパンチだけに、それに対抗できるだけの情報発信の浸透力を、いまの都議会自民党は持ち合わせていない。また、副編集長の一人が異様に小池氏に肩入れするプレジデントのように“小池派”のメディアも少なくない。(追記あり後述)

テレビを中心に小池知事の露出が増え続ける限り、千代田区長選の時のように、投票率が10ポイント程度上がると、久々に投票所に足を運ぶ有権者の多数派が、都民ファーストの会の公認や推薦候補に一票を投じる基本的な傾向が続く可能性はまだ強い。

“左傾化”で維新・旧みんな支持層の離反を招くか

しかし、ここのところの小池氏、野田数氏の“左傾化”を見ていると、都知事選で小池氏を支持した291万票のうち、維新や旧みんなの党支持層(都内には、少なくとも120万票の第三極票あり)たちを失望させる可能性が大きくなっている。第三極支持層は「脱既成政党」志向だけに持って行き方を誤ると、小池支持から離反しかねない。

また、渡瀬裕哉さんが辛口の記事で離党を勧めているように、都民ファーストの会のオリジナルメンバーである、おときた氏ら旧みんなの党の都議の立場が複雑なものになりつつある。選挙後もこれまで通り小池陣営の主力をなすのか。都民ファーストの会の副代表に、落選浪人中の元民進党都議が就任するなど、都議選後にオリジナルメンバーが冷遇される可能性を指摘する声をここのところ、よく耳にする。

冷遇だけならまだしも、万が一にも小池氏や野田氏が「おときた切り」に走った場合、どうなるのか。おときた氏らが反撃に転じて「真・都民ファーストの会」を立ち上げなんかしたら、この夏の都議選は誰が勝者で、誰が敗者なのか。あるいは、誰が改革派で、誰が守旧派なのか、もう何がなんだかわからなくなる。

真如堂縁起絵巻より

都民ファーストが将来内紛なら現代版“応仁の乱”に突入!?

カオス状態のバトルといえば昨今話題の「応仁の乱」だ。累計30万部を超えたブームを読み解く背景として、NHKのニュース特集では、現代の日本社会にも通じる「複雑さ」へのシンパシーを挙げていた。以前、アゴラの合宿のゲストにも来ていただいた著者の呉座勇一さんのコメントはこうある。

「何のために戦っているのか、誰にもわからない状況になってしまった。応仁の乱という、英雄的な登場人物がまるで出てこない、1人も出てこないような歴史に興味を持つ人がいるというのは、今までとは歴史に求めるものが違ってきているのかなと。」

都議選で小池派が過半数に届くかどうかの規模、一方の自民党も議席を減らす中途半端な状態になり、小池派の誰が切り崩されるか予断を許さない情勢になる。そうした状況で、前述のような展開で選挙後に都民ファーストの会が内部抗争を繰り広げるような事態になれば、2017年の都議選は後になって「勝者なき不毛な政争」と評価されてしまうだろう。そこに、国政の野党再編の動向とも絡んだ複雑怪奇なものになれば、もうグチャグチャだ。都民ファーストどころか、都民は戦火で焼け出された京都の庶民たちと同様、翻弄されるばかりで置き去りだ。

世相をとらえているとも言われる“応仁の乱” 。呉座さんのコメントをパクれば「何のために選挙をやったのか、都民の誰にもわからない状況になってしまった」というオチになるのだけは、ごめんこうむりたい。

(追記①12:40)けさの日経に世論調査の結果が掲載。投票先は自民が最多の32%、都民ファーストが17%と、やはり失速が目立っている模様だ。(有料記事リンク先

(追記②16:30)当該部分に関してプレジデント側から「プレジデントは中立で、どちらの意見も載せている。一方的に誰かに肩入れをしている事実はない」との抗議があった旨、追記しておく。抗議メールにおいて、小池氏を手厳しく批判している飯島勲氏の新刊を出すことや橋下徹氏の連載を掲載していることなどを理由に「中立」を強調している。当方としては「都議会議員選挙」全選挙区予想」等の都議会自民党への辛辣な過去の報道内容や、プレジデントの報道姿勢に対して自民党都連内において問題視されていたことなどを踏まえた論評であり、見解の相違だ。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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