トランプケア、米上院でカギを握るのはこの面々

医療保険制度改革(オバマケア)撤廃・代替案すなわち米国医療保険法(American Health Care Act、略してAHCA、あるいはトランプケア)は、いよいよ米上院へ向かいます。

こちらでご説明した通り、歳出を抑制するもののメディケイド拡充の段階的廃止を盛り込むなど低所得者層には厳しい内容です。米上院議員の間では、既に火花が飛び交う状況。米下院は保守強硬派フリーダム・コーカスの支持を獲得できましたが、新たな障害が立ちはだかります。

米上院での運命を握るのは、以下の面々です。

1.米上院のトップ:ミッチ・マコーネル米上院院内総務(共、ケンタッキー)
→妻はアジア系女性で初の閣僚となった運輸長官のイレーン・チャオ氏で、口の悪いニューヨーカーは「トランプ政権に妻を人質を取られた」とも。

2.米上院版トランプケアの担い手:ラマー・アレクサンダー議員(共、テネシー)、オリン・ハッチ議員(共、ユタ)
→アレクサンダー議員は米上院健康・教育・労働・年金委員会の委員長。ハッチ議員は82歳とベテランで米上院財政委員会の委員長であり米上院仮議長を務め、米大統領継承順位は3位。両者はオバマケア批判派だが、中間選挙を控える事情もあり融和的姿勢に傾く可能性大。

3.造反者:スーザン・コリンズ議員(共、メイン)、リサ・マーカウスキー議員(共、アラスカ)
→共和党の中道派。トランプ米大統領が教育長官に指名したベッツィ・ディボースの承認で、反旗を翻した過去あり。女性の間で悪名高い避妊具・避妊薬品の連邦政府補助撤廃を始め家族計画に反対し、メディケイド拡充廃止にも慎重。コリンズ議員は米上院健康・教育・労働・年金委員会のメンバーで、既に同委員のビル・キャシディ議員(共、ルイジアナ)と保守派と中道派の歩み寄りを狙った別の選択肢を模索中。

4.保守派・オバマケアを憎悪する男達:テッド・クルーズ(共、テキサス)、マイク・リー(共、ユタ)、ランド・ポール(共、ケンタッキー)
→テッド・クルーズ議員は2016年の米大統領選に出馬しただけでなく、2013年にはオバマケア撤廃を訴えたフィリバスターで政府機関閉鎖に追い込んだティーパーティー系の保守強硬派。2016年の共和党全国委員会で、トランプ氏を支持しない意向を示唆したことは記憶に新しい。ランド・ポール議員は徹底したリバタリアンで知られるロン・ポール元議員の息子

5.メディケイド拡充支持派:ロブ・ポートマン(共、オハイオ)、シェリー・ムーア・カピート(共、ウェストバージニア)、コーリー・ガードナー(共、コロラド)
→オハイオ州は有名だが、ウェストバージニア州やコロラド州も接戦州の色が比較的残り保守系の州と言い切れず。メディケイド拡充を採用し恩恵を受けるだけに以上の3名がメディケイド拡充撤廃を支持するかは微妙な情勢。

50州のうち、上記3州を含む32州(ワシントンD.C.含む)がメディケイド拡充を実施。

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人口が違うので一概に言えないものの、コロラド州やオハイオ州などメディケイド加入者は高水準。

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(出所:Family USA

6.チャック・シューマー米上院院内総務(民、ニューヨーク州)
→中国人民元切り上げを掲げ、リンゼー・グラム議員(共、サウスカロライナ)と手を組み報復関税を盛り込んだ法案を提出した経歴があるものの、オバマケア撤廃・代替案移行には真っ向から反対。

——これだけ役者がそろえば、何も起こらないわけがありません。オバマケア撤廃・代替案移行へのドラマはまだまだ続きます。

(カバー写真:KP Tripathi (kps-photo.com)/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年5月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。