【映画評】ノー・エスケープ 自由への国境

2017年05月12日 06:00

提供・アスミック・エース

メキシコとアメリカの国境地帯。不法入国を試みるモイセスは、15人の仲間と共に国境を越え、自由の国アメリカに入国しようと、灼熱の砂漠地帯を歩き続けていた。だが、突如そこに不法移民たちをライフルで撃ち殺す謎の狙撃者が現れ、仲間は次々に命を落としていく。狙撃者の正体は不明、摂氏50度の砂漠、水も武器も逃げ場もないという極限状況の中、モイセスは何とかして生き延びようと、命懸けで逃走するが…。

不法移民と彼らを狙う謎の狙撃者との攻防を描くサバイバル・スリラー「ノー・エスケープ 自由への国境」。監督は名匠アルフォンソ・キュアロンの息子にして「ゼロ・グラビティ」の脚本家であるホナス・キュアロンだ。本作の製作年は2015年。「ゼロ・グラビティ」より本作の脚本の構想が先だったこと、さらに、今、メキシコ国境との壁建設の問題で揺れているトランプ政権誕生以前の作品ということを思うと、その先見性に感服する。物語はキリリと短い88分で、終始、抜群の緊張感を味わえる。トラックの故障で図らずも徒歩で灼熱の砂漠地帯を横断することになったメキシコ人の移民たちを、人間狩りよろしくライフルで狙い撃ちにするのは、移民を憎悪する謎の白人だ。広大な砂漠は、究極の密室と化し、まったく先読みできないサバイバル劇が繰り広げられる。いきなりの銃撃、獰猛な猟犬による襲撃と、流血のバイオレンス描写は、容赦がない。

提供:アスミック・エース

提供:アスミック・エース

秀逸なのは、移民たちや、謎の狙撃者の背景をほとんど説明せず、最小限のせりふと小道具、表情のみで描き切ったことである。その潔い演出に、ガエル・ガルシア・ベルナル、ジェフリー・ディーン・モーガンら、実力派がきっちりと演技で応え、只事ではない緊迫感を生み出した。不法移民、差別主義、排他性、行き過ぎた自警に人命軽視。社会派ドラマに傾く要素満載だが、本作に説教臭さは皆無で、サバイバルという娯楽作として成立している。不法移民たちが命懸けで目指すアメリカは、本当に“自由の国”なのだろうか。そして砂漠の向こう側に、希望や未来はあるのだろうか。本作で父アルフォンソは製作にまわり、ホナスは商業映画デビューだ。その才能のDNAは確かに受け継がれている。

【75点】
(原題「DESIERTO」)
(メキシコ・仏/ホナス・キュアロン監督/ガエル・ガルシア・ベルナル、ジェフリー・ディーン・モーガン、アロンドラ・イダルゴ、他)
(タイムリー度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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