政治家が突然、やる気を失う時

オーストリア連立政権のラインホルト・ミッテルレーナー副首相が10日、突然辞職表明した。同副首相は社会民主党との連立政権のジュニア政党、中道右派政党「国民党」の党首だ。同党首は同日、14日に党幹部会を開き、そこで全ての役職から正式に降りると述べ、「地位にしがみ付く気持ちはなく、(地位に固守する)喜びも意義も感じない」と語った。

▲辞任を表明したミッテルレ―ナ―副首相(国民党の公式サイトから)

▲辞任を表明したミッテルレ―ナ―副首相(国民党の公式サイトから)

同党首の辞職表明は決してサプライズではなかったが、やはり大きな衝撃を国民党や連立政権内に投じた。同党首は、①社民党との連立政権で改革案が阻止され、実行できないことへの不満、②国民党内の不協和音、③国営放送の9日夜のニュース番組が同副首相個人への中傷ニュースを流したことに、「本来中立であるべき国営放送の一方的な中傷報道に激しい怒りが出た」と吐露し、辞職への決意を固めたと明らかにしている。

そういえば、ミッテルレ―ナ―党首の前任者、シュピンデルエッガー副首相兼財務相も2014年8月、突然、記者会見を開き、「辞職」を表明したことを思いだす。オーストリアでは指導者が突然、白旗を掲げて職務を放棄するケースが少なくない。政治家のバーンアウト現象(燃え尽き症候群)といえるかもしれないが、社民党と国民党という政治信条も異なる2大政党の連立政権が機能できないことを改めて実証しているわけだ。国民党は過去10年間で4人の党首が辞職に追い込まれている。同党では党首交代は一種の伝統といわれるほどだ。

社民党の政治、経済政策と、独「キリスト教民主同盟」(CDU)の姉妹政党、国民党のそれとの間にはやはり大きな違いがある。一方は労働者の政党を自認し、他方は経済界のロビー政党と受け取られているから、当然かもしれない。

社民党ファイマン首相の後任にオーストリア連邦鉄道トップマネージャーのケルン現首相が就任して今月17日で丸1年目を迎える。連立政権内でもそろそろ選挙の時を迎えたという声が聞かれる。ケルン首相はここにきてピザ屋の出前役を演じ、国民の家を突然訪問するパフォーマンスを見せたばかりだ。また、ウィーン市内のナッシュマルクト(青空市場)にホイプル市長と一緒に視察するなど、既に選挙モードに入っている。

一方、国民党では、連立政権の任期2018年秋まで政権を維持すべきだという声と、国民的人気の高いクルツ外相を党首に担ぎ出し、早期総選挙に入るべきだという声で分かれている。ソボトカ内相(国民党)はケルン首相の政策をあからさまに批判するなど、社民党と国民党2大政党の連立政権は対立が表面化している。

国民党のクルツ外相はまだ30歳と若い上、同外相自身はケルン首相の下で副首相として連立政権を維持する気持ちはまったくないといわれる。すなわち、クルツ外相が国民党の新党首に就任した場合、即解散、総選挙となる可能性が高い。クルツ外相の代わりにシェ―リンガー財務相を暫定党首にし、時期が来ればクルツ外相が登場するといった暫定案も聞かれる。

同国の複数世論調査ではクルツ外相の人気は高く、国民党が躍進する唯一の道はクルツ外相を新党首に担ぎ出して選挙戦に打って出るシナリオだ。一方、社民党はクルツ外相のもとでの国民党との戦いとなれば、苦戦を強いられる。また、選挙のために躍進してきた野党第1党の極右政党「自由党」にしても、クルツ外相の登場は願わしくない。同外相は自由党以上の厳格な難民政策を表明して、自由党に流れた国民の票を奪っているからだ。

それにして、ミッテルレ―ナ―副首相の辞職を受け、オーストリアでも2大政党からなる現連立政権の寿命は文字通り切れた。早期総選挙は避けられないだろう。あとはクルツ外相の国民党党首の就任表明を待つのみとなった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。