受動喫煙法案をめぐる意見対立からみる本当の社会問題 --- 本元 勝

現在、受動喫煙に関する対策の厚労省案について、国会の過半数を持つ与党自民が反対しているとあり、民間でも多くの議論を呼んでいる。

まず、タバコが健康を害するというのは、今の世界の定説であり、常識ともなっている。
現在、喫煙についての公共施設などにおける諸外国のルールを見てみると、「完全禁煙」「完全分煙」「緩やかな分煙」の概ね3つに集約されている。

今回の厚労省案については、現在の2003年に施行された所謂「緩やかな分煙」から「完全分煙」への移行を徹底するものであるといえるだろう。

しかし、これに与党である自民議員の多くが猛反対しているのである。
言い分は、中小零細の多い飲食店などに対し、大手同様の一律の規制を掛け強要するのは、営業の自由を奪い、喫煙を可能にしていることで独自の客を呼び込めている店や分煙が状況的に困難な業者を廃業に追い込んでしまう恐れがあるという。また、煙草が嫌な人は喫煙可能な店は利用せず、禁煙の店を利用すれば解決出来るという意見も出ている。

一方で、賛成派は、諸外国の中で最も緩いと評されたWHOレポートや、政府方針である「煙草の無いオリンピック」を御旗に、一気に完全禁煙までを求める意見も多い。また、「近隣住宅受動喫煙被害者の会」なるものが発足したという話題も上がっている。なにやら、マンションなどの近隣住宅のベランダで喫煙されたおかげで、健康被害を被ったので、これらを禁止する規則や法律を作りたいと訴える団体らしい。

まず反対派の意見についてであるが、ひとつは飲食店を禁煙にしたら本当に客足が遠のくか、ということだ。既に公共施設については、ほぼ禁煙である。飲食店についても禁煙・分煙としている飲食店は多く、むしろ適応できる、またそれらを気にしない喫煙顧客の方が圧倒的に多いのではないだろうか。

そして次に、日本の新たな産業として急成長の訪日外国人観光客の状況を考えれば、世界の情勢に合わせ調整していくことは妥当な判断であろう。ちなみに、環境や健康についての認識が相当遅れていると言われる、お隣の中国の北京市は2015年に、また上海市については、今年3月1日に世界一厳格な禁煙条例と囁かれた条例がそれぞれ施行されている。

本稿執筆に際し、筆者は3月1日の施行日を含め、この2か月半の間、4回の渡航で30日以上、上海市内の飲食店や街のいたる所で喫煙状況を検証したが、安価な宿泊施設や街の小さな食堂に至るまで完全禁煙は遵守され、特に大きな問題や混乱を目にしたことはない。自民幹部の本法案に対する主張は、自国民のモラルを少し侮りすぎていないかとも感じてしまう。

一方で、賛成派にとっては、がんなど重度の健康被害に直結するといわれる受動喫煙を被るような喫煙行為は迷惑以外の何物でもない。特に喘息などを持つ人や子供を持つ家庭では、神経質になる気持ちは当然であろう。しかし煙草とは、世界中のどこの国でも違法薬物認定等を受けていない合法の嗜好品である。よって喫煙は違法行為でも迷惑行為でもないといえるのである。また、受動喫煙を嫌がるあまりに、他人の占有権内であるベランダについてまで干渉するのは、少し行き過ぎた対応であるとも感じざるを得ない。万一、これらが禁止されることになれば、戸建ての両隣の庭先や換気扇の煙も対象にしてほしいと訴える声も出るだろう。

この議論における双方の意見は、新規の幼稚園や保育所の設置の際に出る、賛成・反対の議論と酷似しているような気がしてならない。

子供のいない家は、大勢の子供の声が一日中鳴り響くのは公害であると考え、大勢の子供が近隣にいることは生活を脅かす様々なリスクがあると訴える。反対に子供を預けたい家庭や設置許可が欲しい運営団体や企業は、その必要性と窮状について必死に訴える。両者の溝については裁定以外で結論が出ることはないのが現状である。

これらの議論において酷似する点は、意見や考えを醸成する論理構成が他者批判を軸に立脚されているからであるといえる。しかし、そもそも社会生活とは、なんらかの協調が前提条件として成り立っているものである。協調とは、他人に迷惑を掛けないことであり、他人を理解・許容することでもあるのだ。それがモラルと言われるものでもあるのだ。

これらの議論で見られる本当の社会問題は、国民の多くが自己主張よりも他者批判することに躍起になっていることが最も根深い問題といえるのではないだろうか。

消費生活マーケティングコンサルタント
本元 勝