首相は正攻法で学園問題の説明をせよ

首相官邸サイトより(編集部)

何もかもが真っ黒なのか

安倍政権がもがいている加計学園と森友学園という2つの問題は、最終的に、何が事実なのかにたどりつけないまま幕が引かれるような気がします。特に安倍政権、関係官僚がどう動いたか、どのような影響力を行使したかという政治的な側面について、首相が正攻法で説明をしたら、解消する疑問もあるはずです。

政権側が正攻法ではっきり説明をすれば、「そういうことなのか」と、周囲が納得するところもあるはずです。それを避けるから、「指示があったかなかったか」、「便宜を図ったか否か」、「怪文書が存在したのか否か」が焦点になってしまい、森友学園、加計学園に関係することは、何もかも「やはり怪しい」という展開になっているような気がします。

加計学園の獣医学部の認可問題の核心は、獣医の数が充足しているのか、不足しているのかでしょう。不足しているなら、獣医学部を新設しても問題はないはずです。「充足しているから、50年も獣医学部の新設を認可してこなかった。それなのに、友人の加計学園を特別扱いして認可した」が安倍批判の一つの根拠です。

獣医が不足か否かの説明が不足

獣医師会は競争相手が増えると困るので、学部新設に反対してきたと思われます。50年間も新設なしは、既得権擁護のせいかもしれません。そうだとするならば、官邸側は「実際は不足している。ペット相手の病院に獣医が流れ、ライフサイエンスなど将来性の高い分野に取り組む獣医は不足している」と、なぜ明言しないのでしょうか。首相や官房長官が正攻法の説明をしたら、「そういうことなのか」と、解釈する人もでてくるでしょう。

さらに、親しい友人の学園理事長から「支援を頼む」くらいのことを、首相が言われていないはずはありません。2人の関係を考えると、言われないほうが不自然です。首相側は「依頼はあった。ただし、認可は厳正にした。依頼があったとしても、ただちに不正行為とはならない」と、言えばいいのです。

政治家は支援者から協力の依頼、要請を受けるのが仕事の1つです。要請を受けても、担当部署につなげても、公正な判断のもとで決定すれば、問題はないはずです。首相は無傷でいようとするあまり、「働きかけていない。働きかけていたら責任をとる」と、述べました。こんなことをいうのは逆効果で、「やはり怪しい」となるのでしょう。

また、獣医学部開設をめぐり、政権側にあっせん利得、賄賂など金銭の授受の疑いはまずないでしょう。「友人を特別扱いしたとすると、公平、公正な扱いを原則にしなければならない政治道義には反する。ただし、それは犯罪にはならない。事件にはならない」と、誰も言わないのがまた不思議です。

無意味な調査だから疑われる

「総理の意向」と記された文書が浮上しました。文科省関係者による作成で、複数の官僚が文書を共有しているとされます。文科省側の調査結果は「パソコンの共有ファイルをチェックし、存在していないことが判明」でした。ひそかに共有する文書なら「共有ファイル」を使うはずはありません。なぜこんな無意味な調査をするのでしょうか。

しかも、真偽を確かめる前に、菅官房長官があわてて「怪文書みたいな文書で、出所不明」と、発言しました。さらに「調べた結果、存在していない」が正解なのに、「確認されていない」で終わりですからからね。こんなことを繰り返しているから、内部文書の存在の有無が疑惑の焦点になってしまうのです。

森友学園への首相の寄付問題もそうでした。私費で寄付をすれば違法ではありません。首相の思想、信条に親近感を持っている支持者を支援することは、政治家ならありえます。「寄付はしていないし、していたとしても違法性はまったくない」と、正攻法でなぜ言わなかったのか。無傷でいようとする気持ちが強すぎるのです。

学園用地の払い下げで、近畿財務局が価格交渉で便宜を図ったすれば、そこは問題です。官邸側の意向を忖度したに違いない財務官僚にしてみれば、人事権を握られている官邸の意向に背くわけにはいきません。弱い立場にある財務官僚を叩くのは簡単です。せめて首相側は「学園側の話を聞いてやってくれと、近畿財務局に話をした」くらいのことを言うべきです。そのうえで「周辺の国有地も格安で売却した例がある。学園だけを特別扱いしてはいない」と、説明すべきです。

官僚に責任を押し付けて、官邸は無傷でいようという思惑があるのかもしれません。そのことが問題の性質を必要以上に複雑にしているのではないかと考えます。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年5月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。