やっぱりトランプ大統領にはエネルギー政策はなかった

2017年05月24日 11:30

目下、中東歴訪中のトランプ氏。22日は米国の現職大統領として初めてエルサレムの「嘆きの壁」を訪問したが…(ホワイトハウスFBより:編集部)

OPEC総会を2日後に控えた5月23日(火)夕方、トランプ大統領が議会に提出する予算案に「戦略備蓄を半量(3億4,400万バレル)、10年間かけて売却し、165億ドルの収入を得る」という計画が盛り込まれていることが判明し、原油市場は数十セント下落する反応を見せた(FTの記事、”Trump hits oil price with reported plan to sell half of strategic reserves” around 17:00 on May 23, 2017 Tokyo time参照)。

筆者はこのニュースに接し「やっぱりトランプ大統領にはエネルギー政策はないのだ」と一人頷いていた。

トランプ大統領のエネルギー政策については、ホワイトハウスHPに公表された「アメリカ・ファーストのエネルギー計画(An America First Energy Plan)」に集約されている、と理解されている。だがこの計画も、昨年10月大統領選終盤に「就任100日以内に実行する」と発表した「有権者との契約」同様、選挙民に「受け」のいい美辞麗句を並べたもので、とても「エネルギー政策」とは言えないものだ。なぜならこの「エネルギー政策」なるものは、アメリカの大地には膨大なエネルギー資源が眠っており、未来永劫「不足」を心配する必要はない、との大前提に立っているからだ。

弊著『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』(文春新書、2014年9月)で説明したとおり、「埋蔵量」とは技術水準と経済条件によって大きく増減するものだ。だから、未来永劫不足しない、とは誰にも言えない。1970年代のオイルショックの教訓から、先進国はIEA(国際エネルギー機関)を創設し、IEAでの取り決めに呼応する形でアメリカでも「戦略備蓄」がなされているし、日本にも「国家備蓄」があるのだ。またIEAメンバーではない中国も急ピッチで「国家備蓄」を増強している。
一時的にも「不足」が生じた場合どうするのか、それをもカバーしてこそ「エネルギー政策」なのである。
財政収入確保のために「戦略備蓄」を取り崩すとは、何をか況やである。

またトランプ大統領のエネルギー政策のキーワードとして喧伝されている「エネルギー自立」も、「アメリカ・ファーストのエネルギー計画」における該当箇所はこうなっている。

President Trump is committed to achieving energy independence from OPEC cartel and any nations hostile to our interests.

直訳すると「トランプ大統領は、カルテルとしてのOPECと我々の利害に敵対的な如何なる国からも、エネルギー面での自立を達成することを約束する」となる。いわゆる「エネルギー自立」とは一言も言っていない。

読者の皆さんもご存知のとおり、輸入先としてOPECなど特定の国を規定しても意味はない。どこから輸入しても、輸入は輸入で、自立したことにはならないのだ。アメリカのエネルギー政策にとって、現行のNAFTAに基づくカナダとメキシコ(アメリカ原油輸入の52%=385万BD、2015年、BP統計集)との自由貿易はきわめて重要なのではないだろうか。

なおFT記事によれば「10年間で戦略備蓄の半量」とは9万4,000BDに相当するので、9,600万BDの世界全体の生産量を考えると、インパクトは小さい、また、そもそもこの計画が下院で承認されるかどうかは不明だ、としている。

さらにクゥエート石油相の言として、今週末のOPECおよび非OPECの減産協議に、サウジの呼びかけに応える形で、これまで未参加の非OPEC産油国トルクメニスタン、ノルウエーおよびエジプトが参加する意向だとも伝えている。
こちらは「予想外」のことは起こらないだろうな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年5月23日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。

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岩瀬 昇
エネルギーアナリスト

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