文大統領、法王に「南北の仲介」要請

長谷川 良

バチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」は25日、韓国の文在寅大統領がローマ法王フランシスコ宛てに書簡を送り、その中で「南北間の和解への仲介」を要請したと報じた。

韓国カトリック教会司教会議議長のKim Hee-jong大司教(光州広域市)とSeong Youm元駐バチカン韓国大使は24日、一般謁見の場で文大統領の親書を手渡した。

▲南北間の仲介をバチカンに要請した文在寅大統領

▲南北間の仲介をバチカンに要請した文在寅大統領

バチカン放送(独語電子版)は「韓国、バチカンの仲介を希望」という見出しで文大統領の写真を掲載して大きく報道した。バチカン日刊紙は大統領書簡の内容は詳細には報じていないが、「平和と公平と和解への貢献」に関したものだったという。一方、イタリアのカトリック報道(ACI)によると、「金大司教は『文大統領はローマ法王フランシスコに南北間の仲介を願うために私をローマに派遣した』と説明した」という。

世界に12億人以上の信者を擁するバチカン市国の外交の評価は悪くない。2014年末の米国とキューバ間の外交関係回復の背後にはバチカンの調停役があったといわれている。オバマ大統領(当時)も「米・キューバ間の和解にはバチカンの大きな貢献があった」と認めている。

金大司教は23日、ACIとのインタビューの中で、「米・キューバ間のようなバチカンの調停外交は南北間でも可能と信じている。南北間の真摯な対話を促進できるはずだ。北朝鮮は目下、欧米諸国に対して信頼を失っている」と述べている。

文大統領は、「南北間の軍事境界線で軍事衝突が発生する危険性は現実性を帯びてきた」と警告している。新大統領はわらをも掴む思いであらゆる可能性を模索しているのだろう。バチカン・ルートはその一つだ。ただし、バチカンも南北間の和解仲介は米・キューバのようにはいかないことを知っているはずだ。

国際キリスト教宣教団体「オープン・ドアーズ」によれば、北朝鮮には5万人から7万人のキリスト者が同国内の30以上の強制労働収容所に拘留され、虐待されている。北全土には約40万人のキリスト者が地下活動を強いられている。同団体が公表する宗教迫害国リストでは北朝鮮は毎年、最悪国トップにランクされている。

脱北者の金ヨンソク(Kim Yong Sook)さんによると、「聖書を持っているだけで拘束され、悪くすれば収容所に送られ、強制労働を強いられる。そこでは生きて帰ることが難しい状況だ」という。金女史が幼い時、父親が座って首を垂れている姿をよく目撃した。年をとれば皆あんな風になるのかと思っていたという。実際は、父親は祈っていたのだ。北では祈ることは許されないから、祈っていることが分からないように祈らなければならなかったと証している(「北のクリスチャンの『祈り方』」2015年9月21日参考)。

南北間の調停は誰が演じても容易ではないが、韓国との対話が実利をもたらすと金正恩労働党委員長が判断すれば、バチカンの和解仲介に乗るかもしれない。その意味で、バチカンの南北間の和解外交は朝鮮半島の政情次第だろう。

フランシスコ法王は2014年8月の訪韓時にソウルの明洞大聖堂で「 平和と和解のためのミサ」を執り行い、「和解は先ず、自らその過ちを認めることから始まる。猜疑、対立、競争心といったメンタリティを捨てるべきだ」と語っている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。