「安くていい」医療はありえない!国の負担はもう限界 --- 松村 むつみ

2017年06月03日 06:00

2015年には、厚生労働省の有識者会議は「健康医療2035」という政策提言書を出しています。来るべき少子高齢化の2035年に向けて、保健医療のあるべきビジョンを示した提言書で、有識者会議の真摯な危機感と前向きさが伝わって来る提言書です。

その中に、「2035年のビジョンを実現するためのアクション」という箇所があり、項目のひとつとして、「より良い医療をより安く享受できる」ために、費用対効果の測定などがアクションとしてあげられています。

膨れ上がる医療費の問題点を理解すべきだ

近年問題になっているように、医療費は増加の一途をたどっています。2016年度の医療費はまだ発表されていませんが、2015年度は41.5兆円であり、前年度に比べて3.8%増となっています。

出典:厚生労働省資料

1961年に国民皆保険が達成されて以来、わたしたちはこれまで、高水準の医療を比較的安価な料金で享受してきました。少し前までは、大学病院を紹介状なしで受診することもできましたし、今でも、基本的には受診する病院を自分で選ぶことができます。

厚生労働省が2016年に「医療費の伸びの要因分解」という資料を出していますが、それによると、医療費の伸びは主に高齢化と、治療の進歩などに起因していることが示されています。特に伸び率が大きいのは薬剤費です。

昨年、肺がん治療薬オプジーボが高額薬剤として話題になったのは記憶に新しいところです(当初の価格設定では、体重60kgの人が一ヶ月使用すると270万円かかると試算されていました。その後、緊急薬価改定が行われ、二分の一の価格に再設定されています)。

今後も、このような医療費の増大は続くでしょう。現在の国民皆保険が機能しなくなる日もあまり遠くはないかもしれません。そのために現在、先述の提言書にもあったように、さまざまなことが試みられています。

高額新薬の費用対効果の算定、病院再編や専門医制度の見直しなどです。一時期話題になった小泉進次郎議員らの提案し物議をかもした「健康ゴールド免許」も、医療費削減を目的のひとつとして生まれた提言です。

ドイツの社会保険料は日本より高い

日本は社会保険制度をドイツを真似て作りましたが、現在のドイツも日本と同様に国民皆保険の国(公的保険への加入は義務付けられているが、民間保険での代替が可能であることが特徴)ですが、介護保険、健康保険などからなる社会保険料は日本よりも高く、給与から2割以上引かれます

消費税に当たるVAT(これはEU共通の仕組みです)も19%、食品などは軽減税率7%です。ドイツは、医療費に税金を投入する日本とは異なり、医療費は原則保険料のみで運営していますが、高福祉を望むのであれば、日本においても高い保険料や税金を納めなければならないのは明白なことだと思われます。

日本人はいまのところ、問題を先送りにしていますが、早晩結論を出さなければならないタイミングがやってきます。高福祉を望む場合には、高負担を受け入れねばならないでしょう。

選択を迫られたとき、「低負担、低福祉」を選ぶのもひとつのかもしれません。医療、福祉に対する国の負担を減らし、民間業者の参入を容易にし、様々な規制を緩和する試みもなされる必要があるでしょう。

これは決して、「弱者切り捨て」と断じられるほど単純な問題ではありません。国民のひとりひとりが、責任ある選択ができるよう、日頃からよく考えておく必要があるかもしれません。


松村 むつみ
放射線科医、人口問題及び医療・介護政策ウォッチャー
アゴラ出版道場二期生

東海地方の国立大学医学部卒業、首都圏の公立大学放射線医学講座助教を得て、現在、横浜市や関東地方の複数の病院で勤務。二児の母。乳腺・核医学を専門とし、日常診療に重きを置くごく普通の医師だったが、子育ての過程で社会問題に興味を抱き、医療政策をウォッチするようになる。日本医療政策機構医療政策講座修了。日々、医療や政策についてわかりやすく伝えることを心がけている。

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