シェアリングエコノミーから見た都議選の意外な光景

2017年06月04日 06:01

米国のような“シェアリングシティ”は東京で実現するのか(出典:Open Grid Scheduler /flickr)

6月最初の週末を迎え、都内各地で、各党が決起大会や街頭活動を繰り広げ、世の中が「都議選」モードに入ってきた。イノベーション政策を投票の判断材料の一つにし、また、個人会社のほうで都内地方議員の「シェアリングエコノミー」(共有型経済、以下シェアエコ)に関する政策調査を手伝ったこともある筆者としては、この都議選でシェアエコを政策に掲げる政党があるのか、注目してきた。

国政の自民、地方自治体で先行のシェアエコ政策

本編に入る前に、政治・行政のシェアエコの取り組みについて簡単に振り返ろう。

政党では、自民党が先月、議員連盟を発足させるなど頭一つ抜けており、自治体では、東京などの都市部よりも、先進的な首長がいる田舎の地方自治体が先行しているところが目立つ。というのは、安倍政権の目下の地方創生・一億総活躍政策と相性がいいからだ。地方に投入できる公費に余裕がない財政状況下にあって、ヒトやモノの眠っている可能性を引き出し、新しい雇用や経済効果につなげられるという期待があるわけだ。

国レベルではすでに昨年6月に閣議決定された日本再興戦略の中に、シェアエコの発展が盛り込まれ、検討会議を経て、今年1月には内閣官房に「シェアリングエコノミー促進室」を設置。地方創生政策の司令塔でもある内閣官房では、「地域活性化伝道師」という地方創生のエバンジェリストを公認したのと同じように、IT系のシェアエコ事業者で働く人材などを「シェアリングエコノミー伝道師」に任命し、普及に力を入れている。

そして現場となる地方では、自治体と民間企業がコラボし、雇用、観光、子育てなど「シェアリングシティ」の試みが始まっており、千葉市や長崎県島原市などがモデル事例として注目されている。

東京は行政の「シェアリングシティ」施策は遅れ気味

さて、(ローカルとしての)東京はどうか。シェアエコの推進企業の拠点は、大半が東京にあり、メルカリに代表されるように、スマホでECサイトを使い個人間取引が盛んになるなど、シェアエコ経済圏はいわずもがな隆盛している。ただし、行政の取り組みとなると、先行している地方都市に比べ遅れ気味なのは否めない。

港区自転車サイクリングサイトより

23区レベルでは、千代田や港など6区で自転車シェアリングの広域実験が行われているような事例があるものの、東京都が、たとえば韓国ソウル市のように「シェアリングシティ」を大々的に打ち出し、渋滞や貧困などの都市問題解決にシェアエコのノウハウを活用した施策を展開しているというわけではない。

では、都議選に参戦する各党の公約を見てみよう。この手のイノベーション政策の打ち出しといえば、都民ファーストの会が最初に浮かぶ。いわずもがな、クールビズをはじめ、新しい政策をオシャレに見せるのが十八番の小池知事なら食いつきそうだ。都知事選の時も、「スマートシティ」を掲げ、フィンテックの活用を含め、東京版グラミン金融(小口無担保融資)推進を公約にしていた。知事就任後の昨年末には一般社団法人シェアリングエコノミー協会から陳情を受け、「シェアリングシティ東京」構想を提案されている(同協会サイトより)。

都民ファーストの「意外」な中身。辛うじて自転車シェアを盛り込んだ党が…

都民ファーストの会公式サイト

先ごろ、開設された都民ファーストの会の公式サイトにアクセス。政策ページの詳細版がPDFで見づらいのは我慢しつつ精査すると……あれ?「シェアリングエコノミー」の文字は一つもない。目を皿のようにしてみたが、やはり見当たらず、肩透かしで実に意外だった。

TOKYO自民党サイト

次に、都民ファーストと真っ向対決となる自民党だ。国政レベルでは積極的に取り組んでいるが、都連や都議会のほうは、インターネットやイノベーションに明るくないイメージがある。また、シェアエコは、ライドシェアや民泊に代表されるように既存事業者との衝突も付き物。伝統的な業界団体を票田にしている自民党と相性は良くなさそうだが、党本部の熱心な取り組みもあるので薄々期待しながら、選挙向けにリニューアルされた都連サイト政策ページ(PDF版)をみると、予想通り、シェアエコ的な要素を感じさせる公約は記載されていなかった。

公明党、共産党のそれぞれの都議選サイトをみても、やはりというか、言及されていなかった。

そして民主党時代に都議会で第1党にもなった民進党。党本部でも最近シェアエコの勉強会がやっと発足したばかり。松井孝治、鈴木寛両氏が去った近年はイノベーション政策の感度が鈍くなった印象が強いが、都連サイトの公約(PDF)によると、環境対策「自転車シェアリングスポットの増設」だけ辛うじて盛り込んでいた。まあ、党の瓦解を止めるのに手一杯で、シェアエコどころではなさそうだ。

さて、ここまでくると、シェアエコ政策を前面に掲げた都議会の政党は壊滅かと思われそうだが、実は2つある。一つは、東京・生活者ネットワーク。リベラル派の地域政党として都議会に現有3議席を持ち、さきごろ小池知事と政策協定を結んだ。

踏み込んだのが、維新と生活者ネット

生活者ネットのサイト「Your Voice 2020」より

4月には、有権者らを集めたワークショップを開き、その知見も踏まえてシェアリングエコノミーの政策を発表。都議選向けのサイトによると、都施設の遊休空間の利活用、シェア図書館、ITスキルの低い高齢者に変わってシルバー人材センターを活用して、家事や育児のニーズがある人を結びつけることなどを掲げている。このあたりはリベラル政党らしい弱者目線を感じさせる。ただ、生活者ネットは、ライドシェアや民泊には慎重な構えだ。

その点、対照的なのが日本維新の会だ。数日前、都議選に向けて発表した政策集の中で、ライドシェアと民泊の解禁を含めた「大胆な規制緩和」策を掲げている。民泊はまさに、やながせ都議のお膝元である大田区が特区になって先行しているが、ライドシェアについては、東京の場合、Uberの本場、サンフランシスコと異なり、流しのタクシーがつかまりやすいことなどの国情の違いもあり、安全対策を含めた議論の余地がありそうだが、それなりに興味深い。

東京維新の会、都議選サイトより

一方で維新は、待機児童で「いま困っている世帯」向けの対策としてベビーシッター助成も盛り込んでおり、ここら辺は、シェアエコ的には、経沢香保子さんのキッズラインあたりの事業者の利用も可能というのであれば、面白い提案とは思う。

シェアエコを掲げた生活者ネットと維新に共通するのは、大きな政党と違って、お付き合い先の業界の都合といったしがらみが少ないことだろう。前者は生活クラブ生協を母体にしているが、IT系のシェアエコ事業者と競合する領域は今のところ見当たらない。後者は、そもそも後ろ盾となる業界団体もない(だから選挙で苦戦が予想されてはいる)。

シェアエコが各党の“リトマス試験紙”に⁈

さて、シェアエコという観点のみでみれば(あくまで)、私の投票先は、生活者ネットか維新かになるところだが、私の住んでいる港区には両党から候補者が出る予定はない。

共産には入れるわけがないので必然的に都民ファーストか、自民党かになるわけだが、自民党の地方議員の支持層は、シェアエコと対立する業界も少なくないだろうから、シェアエコ政策推進への期待は難しいだろう。一方で港区は、外資や新興企業に勤める区民も多く、先進的な政策への感度がどこまで高いのかも判断材料の一つになる土地柄。万が一、「シェアリングエコノミーって何だべ」などと田舎くさいことを言っているようであれば、感度の高い有権者には受けないだろう(それは港区に限ったことではないが)。

むしろ、イノベーティブなイメージがあり、しがらみがなかったはずの都民ファーストの会がシェアリングシティ政策を打ち出していないのが不思議だ。「そんなマイナーな分野の政策まで手が回らない」という台所事情なのか、それとも、「連合東京の推薦を新たに受け、お付き合い先の業界ができたことで、既存業界と衝突の恐れのあるシェアエコには慎重にならざるを得ない」というお家事情によるものなのか。ちなみに、シェアエコ業界の知人は、後者の可能性を疑っている。

もちろん、シェアエコへの意欲だけが投票判断になるわけではないが、それをフィルターにして都議選を展望すると、マスコミでは報じられないような意外な風景が見えてくる(各党関係者から異論なり、公約に入っていない細かい取り組みなり、指摘は歓迎だ)。

ほかにもさまざまな政策トピックをリトマス紙にすることで、時流への対応力、どこの層をみて政策をつくっているのかなど、さまざまな色が滲み出てくるだろう。各分野の専門的な知見がある人は、どんどん論評して政策論議の材料を増やしてもらえればと思う。

 

小池さんの選挙関連ということで、ついでに拙著もよろしく。

蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた? - 初の女性首相候補、ネット世論で分かれた明暗 - (ワニブックスPLUS新書)
新田 哲史
ワニブックス
2016-12-08
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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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