国民の知る権利から当局を守る防波堤、記者クラブは駄目だってよ

清谷 信一

首相官邸の記者会見場(鳩山内閣時代の内閣広報室撮影:編集部)

記者クラブ加盟の新聞、テレビは情報操作をして自分たちに都合の悪い情報を隠蔽しております。
こういう政府との癒着・談合団体を、我が国では「社会の木鐸」と呼ぶそうです。

「記者クラブ廃止」「独立機関設立」…国連特別報告者が提言 大手メディアはほぼ無視(楊井人文) – Y!ニュース

表現の自由に関する日本の状況を来日調査した国連の特別報告者、デビッド・ケイ氏が4月19日、暫定的な調査報告(以下「暫定報告」)を発表し、外国特派員協会で記者会見を行った。これについて新聞・テレビの大手メディアがどう報道したか調べたところ、案の定というべきか、肝心なメッセージが抜け落ちていた。

デビッド氏は、暫定報告の「メディアの独立性」(Media Independence)という節で、こう指摘した。
もし日本のジャーナリストが独立、団結、自主規制のためのプロフェッショナルなメディア横断組織をもっていたなら、政府の影響力行使に容易に抵抗することができたであろう。しかし、彼らはそうしない。いわゆる「記者クラブ」制度はアクセスと排除を重んじ、フリーランスやオンラインジャーナリズムに害を与えている。

記者クラブについても、「アクセスジャーナリズム」(引用注:取材対象と癒着した不健全なジャーナリズム)を促進し、メディアの独立性を阻害し、国民の知る権利を制約していると批判し、明確に「廃止すべき」(should be abolished)との考えを表明した(会見動画45:09~)。

ところが、4月25日までの在京6紙の報道を調べたところ、記者クラブ廃止の提言については、東京新聞(20日付朝刊3面)と朝日新聞(デジタル版)が少し触れた程度で、毎日、読売、産経は全く触れていなかった(日経は、デビッド氏の来日調査について報じた記事がゼロ)。朝日はデジタル版記事で、デビッド氏が「記者クラブの排他性も指摘し『記者クラブは廃止すべきだ。情報へのアクセスを制限し、メディアの独立を妨害している制度だ』と批判した」と報じていたのに、なぜか紙面版記事では提言の部分がカットされていた。

テレビはどうだったか。NHKや民放の主なニュースを調べたが、デビッド氏の来日調査についてのニュースは扱い自体が非常に小さく、記者クラブ廃止やメディア横断組織の提言を報じたものは一つも見つからなかった。

ぼくは昨年まで約3年ほど防衛省記者会見に出ておりました。
それは外国メディアの代表として外務省のパスをとり、外国特派員の団体、FPIJに加盟していたから可能でした。これは民主党時代に岡田外相時代にできたシステムです。これだけは民主党政権の成果です。

通常のフリーランスや雑誌の記者は記者会見に出られません。防衛省では市ヶ谷クラブという専門媒体の第2記者クラブがありますが、色々と差別的な扱いがあります。記者クラブが白人ならば、市ヶ谷クラブは黒人、我々フリーランスや雑誌の記者は人間扱いされないということです。

防衛省では大臣や各幕僚長の記者会見は外国メディアでも参加できますが、次官の会見、その他記者クラブ会員のキャップや論説員クラスだけが参加できる会見は我々には解放されていませんでした。

更に、各種のセミナーや勉強会、自衛官との意見交換の懇親会なども記者クラブ以外参加できないものが殆どです。何しろ通知があるのは記者クラブ内の掲示板ですから記者クラブ会員以外は知ることは極め困難です。

どれだけ記者クラブが当局へのアクセスを独占してるか分かるでしょう。

ところが記者クラブの記者たちは殆どがその道の「シロウト」です。ぼくは防衛関連の原稿を書くようになって、四半世紀が過ぎております。海外での取材、特に人があまり行かない中東や南アフリカにも繰り返し行ってきました。また我々の業界では評価の高いジェーズの媒体の仕事もしてきました。

ところが、防衛省担当の記者は若手が殆どで、キャップクラスでもぼくからみれば「小僧、嬢ちゃん」です。これは単に若いからということではありません。軍事の知識が欠如していることを問題だといっているわけです。単に会社の都合のローテーションで防衛省という役所の担当になっただけです。

つまり、記者会見はシロウトが独占してその道の専門家であるジャーナリストを排除する団体ということです。

彼らは取材をしても原稿を書いても内向きで防衛省、自衛隊、それと在日米軍の視点からでしか思考ができません。軍事というフレームで思考ができません。また外国の軍隊と比べてるということができません。ですから、衛生が全くお子様レベルとか、装備調達が事実上計画がないということが如何に問題であるか理解できません。

それにレクチャーを受ける相手が、世界の軍隊の実態を知らず、月刊軍事研究すら読んでいないような井戸の底身に住んでいる蛙みたいな自衛官ばかりですから、まともな情報を持っているわけがありません。

基本リリースや、会見で大臣がどういうことを述べたかということ、つまりは当局が伝えたいことを伝えるのがお仕事です。間違ってもぼくのように防衛省が納税者に伝えたくないことをしつこく聞くことはしません。「大臣、沖縄の感情をどう思われますか」とか無難な情緒を聞いたりします。
これを発表ジャーナリズムといいます。 つまりは政府の広報のアシスタントをしているだけです。

だから、装備調達の初度費がついたことも知りませんでした。
だって、防衛省がリリースもくれず、レクチャーも開いてくれなかったからです。
つまり、防衛省が知らせたくない情報だったわけです。でもこっそりと防衛白書はHPの書類の欄外などに初度費の存在を記載していました。

まあ、アリバイ工作という奴です。公開はしたのだから、読まない奴が悪いと。
だからぼくが初度費について報じるまで、記者クラブは誰も知りませんでした。しかも防衛省の説明は間違っていました。

初度費は初期費用と説明していますが、実は延々と払い続けることができ、装備調達のコストを不透明にしております。ですから、防衛省の発表しているライフサイクルコスト報告書も眉につばをつけて読む必要があります。こういう取材を記者クラブの皆さんは積極的にしません。

ぼくが記者会見に出ている時に、大臣や幕僚長が困るような質問は聞いたことがありませんでした(たまに声を荒げる人はおりましたが内容はねえ、という感じ)。

そしてぼくは常に大臣や幕僚長が困るような質問をすることを旨としてきました。無論、一般メディアとぼくら専門記者が専門媒体向けの質問や記事や関心は違います。
ですが、それを割引いても残念な質問が多かったですね。

しかもオスプレイに関して、ぼくがAW609が競合というのはおかしいだろうとか、AAV7でまともな試験していないだろうという一般媒体でも興味がありそうな質問をしても誰も後追いをしませんでした。
フリーランスごときの後追いはしたくないのでしょう。ところが、あいも変わらず、オスプレイに関しては悪意と無知による、土人のような批判記事と提灯記事ばかりでした。

その上、そういう当局が嫌がる質問をすると「皆様のNHK」の防衛省記者クラブキャップだった鈴木哲也記者から、そういう質問をするなとインネンをつけられました。これは取材妨害です。「皆様のNHK」が同業他社の取材を妨害しようとしたわけですが、この件でNHKの広報に連絡を取ろうとしても、電話を「視聴者係」にしかつなぎません。

徹底して自分たちへの批判を無視するのが記者クラブの体質らしいです。
なにしろ防衛記者クラブのコーヒーサーバーでコーヒーをつくるのも防衛省の事務官のお仕事です。これは癒着という奴ではないでしょうかねえ。

こういう組織が官庁などの取材機会を囲い込んでいる訳です。
繰り返しますが、その分野の知見をもった専門記者のアクセスを妨害して、自分たちで独占してるわけです。政府の問題点の追求なんてできるわけがないでしょう。

彼らが重視するのは当局のとの良好な関係です。関係が悪くなると情報をもらえなくなります。
ですから、記者会見でも八百長試合みたいな質問ばかりが出てきます。

ところが、いったんスキャンダルとか事件が起こると、ぼくのような専門ジャーナリストに話を聞きにきます。防衛省の取材機会を独占している君らの、方が詳しいんじゃ無いの?と、嫌みの一つも言って、取材を断ろうかと思うことも多々あるのですが、間違ったことを書かれてもかなわんな、と取材に応じるわけです。

ギャラがでることもでないこともあります。コメントがでても所詮、数千円程度です。自分の時間を数時間も使ってレクチャーするのは納得いかんなあ、とか思うのですがこれもお国のためと(笑

最近真面目に、防衛省か防衛記者クラブを相手に裁判を起こそうかとも思っています。
どうせ裁判所は行政と、メディアよりですからろくな判決はでないでしょうけども、ぼくは今日この商売やめても喰っていけるので、面白いから裁判起こしてみようかなあ、と。

本来こういう訴訟は雑誌を発行している出版社など、カネと兵隊がいるところがやるべきことだとは思いますが、大人の事情があるのでしょう。

いずれにしても記者クラブは国民の知る権利から当局を守る防波堤でしかありません。それで楽な商売をしているギルドです。早急に解体すべきです。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2017年6月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。