【映画評】パトリオット・デイ

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2013年4月15日。ボストン警察の刑事トミーは、アメリカ独立戦争開戦を記念した“愛国者の日(パトリオット・デイ)”に毎年開催されるボストンマラソンの警備にあたっていた。約3万人のランナーと50万人の観客で賑わう中、突如、ゴール付近で大爆発が発生し、歓声は悲鳴へと変わる。FBIはテロと断定。監視カメラに写った、不審な“黒い帽子の男”と“白い帽子の男”の存在が、容疑者として浮上する。多くの負傷者を目の当たりにしたトミーは、犯人への怒りを抱えながら、生存者に丁寧に聞き込みを開始し、手がかりを探していく…。

ボストン・マラソン中に起きた爆弾テロ事件の顛末を描く実録サスペンス・ドラマ「パトリオット・デイ」。ボストン・マラソンで大規模な爆発テロが起こり、犯人はイスラム過激派思想にそまった兄弟だったことは知っていたが、事件解決へ向けて、ボストン市民や警察の数々の勇気ある行動があったことを、本作で初めて詳細に知った。主演のマーク・ウォールバーグとピーター・バーグ監督は3度目のタッグで、すべて実話がベースになっているが、本作が最も出来がいい。

ただ前2作でウォールバーグが演じたのは実在の人物だったが、本作で演じた警察官のトミーは架空の人物。事件解決に奔走した警察の、さまざまな思いや勇気、葛藤や悲しみを体現する人物として描かれている。登場人物は非常に多いのだが、ボストンの街に精通したトミー、立場上慎重に動くFBI捜査官、老保安官のような警察巡査部長など、主要キャラが立っていて分かりやすい。さらには、犯人であるツァルナエフ兄弟、ツァルナエフ兄の妻、事件で大怪我を負うカップルや、人質になる中国系の青年など、周辺の人物たちのドラマも丁寧で、観客は事件を俯瞰しながら、緊迫した犯人逮捕の瞬間へとスムーズに導かれる。

途中で絶妙に挿入されるニュースや監視カメラの映像が緊張感をより高めて、実録サスペンスとしても群像劇としても見事な演出だ。何よりも、テロには決して屈しないと決意したボストン市民が一致団結して戦うクライマックスは感動的である。特殊能力を持つ一人のスーパーヒーローが活躍するのではなく、テロによって傷ついたボストンの街を愛する平凡な市民それぞれが、自分の役割を愚直に果たすことで最大の勇気と奇跡を呼び寄せた。語り継ぐのは悲劇ではなく希望。昨今、何かと評判が悪いアメリカの警察が、正義を守るために命がけで戦う姿にも間違いなく希望がある。ラストに登場する、当事者たちの今の姿とコメントが深く心に響いた。
【70点】
(原題「PATRIOTS DAY」)
(アメリカ/ピーター・バーグ監督/マーク・ウォールバーグ、ケヴィン・ベーコン、J・K・シモンズ、他)(愛国心度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。