ドバイの高層ビルの明かりのためにもカタールのガスが必要

6月5日(月)に突然、サウジ、UAE、エジプト等がカタールと断交した。このニュースに、さまざまな憶測、観測が流されているが、中にはもう少し基本事項を確認してほしいな、と思われるものも少なくない。スコットランドが独立に関する国民投票を行ったときに北海原油に関して流されたものと類似したものだ。しかもそれが、世の中に少々知られた人、あるいは影響力があると思われる人のコメントだったりするから問題はやっかいだ。

一番驚いたのが、今回の断交問題を解決する策として「カタールの首長がギリシアに所有する小島に亡命する」方法があるが、でもその場合「膨大なカタールの天然ガスと石油は誰のものになるのだろうか?」というものだ。やれやれ。

世の中の多くの皆さんが理解しやすいニュースはないものだろうかと思っていたら、6月8日(木)22:23にアップされているBloombergの記事があったので紹介しておこう。”The UAE needs Qatar’s gas to keep Dubai’s lights on” というタイトルのニュースだ。さらにサブタイトルが二つあって、次のようになっている。

-Pipeline spared as imports generate half of UAE’s power

-Without Qatar gas, Dubai & Abu Dhabi might pay more for fuel

記事の中で、現状を次のように伝えている。
・天然ガスについて言えば、カタールがUAEを必要とする以上に、UAEがカタールを必要としている。

・UAEは発電燃料の半分をカタールのガスに依存しているが、この供給は現時点では止まっていない。

・より高価なLNGで代替することも可能だが、もしカタールからのパイプラインによるガス供給が止まったらドバイの高層ビル街は真っ暗になるだろう。
(UAEは最近、FSRU(Floating Storage & Regasfication Unit 浮体式貯蔵再ガス化装置)を備えて、少量のLNG輸入を開始しているが、量的に完全代替は不可能と思われる。なおFSRUに関しては、2016年7月19日付弊ブログ「米国産ガスが中東へ」を参照。シェールガスからのLNGがドバイに運ばれた、というニュースを紹介している。)

・(グラフを読み解くと)IEAデータでは、発電燃料として石油換算約2,900万トン/年が必要だが、約1,600万トン相当を(カタールから)輸入している。

・カタールから約20億立方フィート/日のガスが、ノースドーム・ガス田から約360KMの海底パイプラインでアブダビのTaweelahターミナルまで送られている(BP統計集の換算率を使用すると、年間LNG換算1,500万トン、石油換算1,800万トンになる)。UAEと共にオマーンにも送られている。

・パイプラインの操業主体はDolphine Energy Ltd.で、アブダビの政府系投資ファンドであるMubadala Investment Co.が51%、仏の大手石油会社トタールと米の独立系石油会社オキシデンタルが24.5%ずつ所有しており、2007年から操業を開始している。(Mubadalaは幅広く投資活動を行っており、エネルギー分野でもDolphineの他に、筆者がバンコク勤務時代にタイ沖で生産中の小規模Jasmineガス田を購入したり、スペインの石油会社CEPSAを傘下に収めたりしている。MBSがモデルにしているはこのファンドかもしれない)。

・また出光興産のタンカーが6日(火)にカタール原油を積載したあと7日(水)にアブダビ原油を積み込み、8日(木)現在はサウジのラスタヌラ沖合にいる。UAEは、断交後すべてのカタール関連の船舶の入港を禁止していたが、7日(水)朝には非カタール船舶の入港はOKとなった、だが夜になって再び禁止している。そのためシェルはカタールLNGを積み込むタンカーのバンカーオイル(運送用の燃料油)の手当がUAEで出来なくなって他所に回している、と伝えている。

カタールは米国の中東における軍事拠点だ。一度退去させられたサウジやUAEでは代替できない能力・機能を保持している。だから国務省、米軍は何とか収めたいと思っているのだが、「やっぱり」のトランプ大統領が勝手な発信をするので、事態はさらに混迷を深めているようだ。

サウジやUAEは、カタールとの空路、海路、陸路すべてを閉鎖し、兵糧攻めにして圧力をかけているが、もしカタールからのパイプラインによるガス供給が止まるようになったら、事態はいっぺんにヒートアップすることになるだろう。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年6月10日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。