ブラジルの成長は政治腐敗で足止め。大統領も汚職で政権放棄か

2017年06月12日 06:00

汚職疑惑で先行きが懸念されるブラジル・テメル大統領(Facebookより:編集部)

昨年9月にルセフ大統領が弾劾裁判で罷免されて、副大統領だったテメルが大統領に就任した。今年5月には、そのテメル大統領も汚職に関与している疑いが浮上。折角、経済の回復の兆しが見え始めていた矢先で、またブラジルの政界は汚職に包まれて市民はうんざりしている。

ゼネコンのオデブレヒト社による大規模な汚職事件で、ブラジルの政界は震撼し、それに関与した政治家が次々と逮捕されている。その捜査は遂にルラ元大統領にまで及び、資金洗浄など5つの罪状によって起訴された。そして、モロ判事による法廷での尋問がつい最近行われた。

この汚職事件に追い打ちを掛けるかのように、今度はブラジルの精肉販売を二分する企業BFRとJBSの後者が政治家に賄賂をばら撒いていたことが発覚したのである。

JBSは1953年に設立された食肉取り扱い業者で、150か国と取引し、30万軒の顧客をもっているブラジルの大企業である。

今年3月、世界から注目を集めたブラジル産食肉の不正問題が明るみにされた事件があった。それが起因となり、JBSの業務に不審がもたれるようになり、捜査が入った。この捜査によって同社の汚職の全貌が明らかになったのである。これまでの捜査で、それはオデブレヒトの汚職事件とほぼ同等の規模に発展していたことが判明したのである。

JBSのホールディング会社J&Fの役員の一人リカルド・サウッドの供述によると、ブラジル政界で35ある政党の内の28政党の政治家1829人へ2014年の総選挙資金として政治献金がばら撒かれていたというのである。その献金総額は500億レアル(1兆7000億円)。州知事、国会下院・上院の議員を始め、全国規模で資金がばら撒かれていたという。例えば、州知事の場合は28州ある中で16の州知事がこの献金を受けたとしている。

また、JBSのオーナーのひとりジョエスレイ・バティスタの供述によって、ルラ元大統領に7000万ドル(77億7000万円)、ルセフ前大統領に8000万ドル(88億8000万円)をそれぞれ二人の外国の口座に元経済相のギド・マンテガを介して送金していたことが明るみになった。

そして爆弾発言となったのは、同氏はテメル大統領との会話を密かに録音し、それを証拠材料として判事に渡したことを明らかにしたのである。その録音の中に、テメルが「それを続けねばならない。いいか?」と言ったことが録音されているというのをブラジルの代表紙『O Globo』が特ダネとして報じたのである。

テメルのこの発言となったのは、バティスタがクーニャ元下院議長に口止め料を毎月渡していることをテメルに報告したからである。それにテメルが答えのが上述の発言であった。

クーニャはテメルと同じ民主運動党(PMDB)の議員であるが、収賄罪で禁固15年の判決が下り収監されている。クーニャが下院議長だった時に、ルセフ大統領のインピーチメントを導いたのである。クーニャのお陰で、テメルは大統領に成れた。テメルはクーニャに恩があるのである。しかし、テメルが警戒しているのは、バティスタが同党やテメルが汚職に絡んでいることを熟知していることから、減刑と引き換えで、バティスタが汚職の全貌を明らかにするのではないかということなのである。

更に、バティスタは脱税や日々生じる問題の解決、そしてライバルのBRFと同様に抱えている食肉不正のスキャンダルなどの解決の為に政府による状況説明を受けるべく、毎週16万ドル(1800万円)テメルに支払っていたことも供述したのである。

それに関係した次のような会話が録音されていることも『O Globo』が報じたのである。

テメルはバティスタに「ロドリゴ・ロチャ・ラウレスと話しなさい」と伝えるのである。

バティスタは「彼に全て相談できるのか?」と尋ねた。

テメルは「全てだ」と答えた。

ロドリゴ・ロチャ・ラウレスという人物はテメル大統領が信頼している人物で、彼が50万レアル(1700万円)をトランクに収めているのをバティスタはビデオに隠し撮りしたのも証拠として提出していることも同紙は伝えた。

また、JBSの役員リカルド・サウッドの証言で、テメルが2014年の選挙資金として党議員に配る目的で1500万レアル(5億1000万円)を要求し、テメルはその中から100万レアル(34000万円)を自分の懐に収めたことも明らかにされたのである。

テメルの汚職に纏わる事件が公にされてからテメルへの支持はさらに下降し、僅か4%の国民が支持しているだけになっている。

彼が党首を務める民主運動党の議員や連立政権を維持している他の政党の間でも、彼を見放す事態になっている。5月14日の連立政権を組んでいる他党のリーダーと閣僚を集めて政治危機を分析する目的で召集した大統領公邸アウボラダ宮殿での夕食会も最終的に僅かのメンバーしか集まらないことが分かりキャンセルする羽目になったという。

市街ではテメルの辞任を求める市民のデモが次第に拡大している。そして、前倒し大統領選挙を要求している。しかし、議員の間では労働者党以外は大統領選挙は望んでいない。何故なら、ルラ元大統領の国民からの支持率が今も高いからである。彼も選挙を望んでいる。再び大統領になれば不逮捕特権を利用して現在進行中の裁判を遅らせることが出来るからである。そして、大統領就任中に裁判官の任命にも間接的に関与できるようになる。

勿論、それを望んでいないのは他の政党議員らである。また、テメル大統領の解任を望んだとしても、最終の解任に漕ぎつけるまでに半年は必要である。しかも、弾劾裁判を始めるのに現在の下院議長の承認が必要であるが、ロドリゴ・マイア下院議長はテメルに忠実な議員であるから、インピーチメントも順調には進まないことは明らかである。

そこでテメルを解任させる一番の近道は現在始まっている選挙高裁での審議で2014年の大統領選挙でルセフとテメルのコンビは不正があったとして当選無効にする判決が期待された。そうなるとルセフ前大統領は今後の政治活動が禁止され、テメル大統領も大統領の職務を放棄せねばならなくなるからである。

しかし、6月9日の判決で選挙での不正はなかったという判定が下された。テメル大統領の首がまだ繋がったことになる。彼にはまだ他に不正疑惑の解明が残されている。来年の大統領選挙まで任期を維持できるか非常に難しいところである。

テメル大統領の続投は難しいと見られている状況下で、後任の大統領として国民による直接投票ではなく、2018年まで暫定的に議員による間接選挙で大統領を選ぶという方法が検討材料になっているという。

白石 和幸(しらいし かずゆき)
貿易コンサルタント
1951年生まれ、広島市出身。スペイン・バレンシア在住40年。商社設立を経て貿易コンサルタントに転身。国際政治外交研究や在バルセロナ日本国総領事館のバレンシアでの業務サポートも手掛ける。著書に『1万キロ離れて観た日本』(文芸社)

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