ジャポングリッシュで何が悪い

森本 紀行

グローバル化は、理性による一元支配であると同時に、多様なるものの共存である。多様なものは、多様なものとして、相互に尊重しあい、相互に刺激しあい、相互に吸収しあい、相互に働きかけあうことで、新しいものを創造していく。それが人類の進歩であり、世界市民文化の創造的革新であり、経済社会の成長である。

グローバルな理性の支配と、そのもとでの多様性、多様性が作り出す豊かな文化的創造、ああ、理想の世界市民社会・・・。その多様性のなかで、日本的なものが輝く。中国やインドの食文化に刺激を受けて、日本でラーメンやカレーライスが創造されたように、浮世絵がフランス印象派に大きな影響を与えたように、伊万里がマイセンに影響を与えたように。

日本にしかないもの、日本の文化的伝統のなかから生まれてきたもの、日本固有のもの、日本の歴史的体験に根差すもの、日本の個性、日本人各人の個性、要は、日本的な全てのものをグローバルな文化創造の場に提供することによって、日本はグローバル文化の進歩に積極的な貢献ができる。

日本にこだわることは、日本に閉じ籠ることではない。ありとあらゆる非日本的なものを日本的なものに融合させ、そこに、化学反応、いや、爆発を起してこそ、グローバルなわけである。そういう意味で、ラーメンはすごい。

正統な日本料理を海外に普及していこうという発想は少しもグローバルではない。日本料理の技法を全世界のありとあらゆる食材に適用し、日本固有の食材を世界のありとあらゆる調理方法に適用してこそ、グローバルなのである。ならば、正統な英語を学ぶことは少しもグローバルではない。

英語を生得の言語とし正統な英語を話す人々は、世界共通言語としての正統な英語の普及を望み、そうでない人は、正統な英語を身につけたいと願うであろうが、英語が世界共通言語になるとしても、多様な他言語から新しい表現や単語が取り込まれて、正統な英語とはかけ離れた何ものかにならねばならぬ。

日本でグローバル化がいわれるとき、必ず英語教育の問題になるが、正しい英語を語学として習得することは目的ではなく、社会的行動として英語を使って意思を伝えることが目的なのだから、英語教育政策の課題は、英語を教えることではなく、英語を使う機会を作ることになければならない。

どのようにおかしな英語でも、通じることが大事なのである。日本人特有の英語を世界に広めることは、正統な英語を学ぶよりも価値が高い。ジャポングリッシュで何が悪い。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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