コソボ議会選で過激民族派が躍進

日本のプリントメディアの国際面はフランス下院選挙(定数577)の第1回投票結果と18日の第2回投票の見通し記事で溢れている。欧州でも事情はほぼ同じだ。マクロン大統領の新党「共和国前進」が議会過半数(289議席)以上を獲得することはほぼ確実で、400議席を超えるという予測が既に流れている(第1回投票でどの候補も過半数の票を取れなかった場合は、得票率12.5%以上獲得した候補で18日の第2回投票が実施される。大多数の選挙区は第2回投票まで結果は未定)。

コソボ議会の建物(コソボ議会の公式サイトから)

ところで、フランス下院選挙が行われた11日、バルカンのコソボでも議会選挙(有権者数約190万人)が実施された。2008年に独立国家となったコソボでは5月10日、ムスタファ政権(「コソボ民主党」と「コソボ民主連盟」の大連立政権)に対する不信任案が可決され、同政権が解散に追い込まれ、11日の前倒し選挙(定数120)の実施となった。

フランス下院選挙ではマクロン新大統領が結成した新党がどれだけの議席を獲得するかが焦点だった。一方、コソボ議会選では旧ユーゴスラビア戦争戦犯法廷(ICTY)からコソボ紛争(1998~99年)の戦争犯罪容疑で訴えられた「コソボ未来同盟」(AAK)のラムシュ・ハラディナイ党首(2004年に数カ月間、首相に就任)の動向に関心が集まった。同氏が首相に選出されたならば、隣国の大国セルビアとの関係は更に悪化し、バルカン諸国の政情が急速に不安定となることが必至だからだ。

コソボの首都プリシュティナからの情報によれば、集計90%の段階でハシム・サチ大統領が主導する「コソボ民主党」(PDK)、ハラディナイ元首相のAKK、それに「コソボ・イ二シアティブ」(NISWA)の3党の選挙同盟が得票率約34.66%で第1党、それを追って、アルバニア人の民族自決権を求めてきた過激民族派の野党「自己決定運動」(VV)が約26.75%、ムスタファ政権を主導した「コソボ民主連盟」(LDK)の選挙同盟は25.81%に留まっている。

独週刊誌電子版は11日、「ハラディナイ氏が新しいコソボ首相になれば政治的に厄介な問題が生じる」と警告を発している。ハラデイナイ党首はコソボ紛争ではコソボの独立のために戦った「コソボ解放軍」(UCK)の軍司令官の一人だった。同氏には、戦争犯罪だけではなく、麻薬、武器密輸など組織犯罪の関与容疑もある。

コソボ独立(2008年)から9年が経過したが、コソボを主権国家と認知している国の数はまだ114カ国で、ロシアやセルビアを含む80カ国以上がまだ認知していない。

コソボ国民はフラストレーションが高まっている。コソボのアルバニア系住民と少数派民族セルビア系住民の間の対立は依然、解消されていない。国民経済は期待したほど成長できず、腐敗、縁故主義が席巻し、失業率は30%を超えている。多くの国民は将来への見通しを感じることができず、高等教育を受けた青年たちは海外に出かけていく。

フランス下院選ではマクロン新大統領効果で無名の候補者が多数誕生する一方、これまで与党だった社会党は大惨敗を喫するなど、既成政党の後退は顕著だ(「政治のハイパー・パーソナル化」2017年6月4日参考)。一方、コソボ議会選では過激な民族派政治家が再び台頭してきた。

11日に選挙を実施した両国の選挙動向はまったく異なっている。コソボの場合、選挙後の連立工作が難しいだろう。第2党のVVがAKKやPDKとの連立を拒否しているからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。