パナマが台湾と断交して中国と国交樹立した背景 --- 白石 和幸

2017年06月18日 06:01

パナマ政府サイトより(編集部)

6月13日、中米のパナマ共和国が中国と国交樹立を正式に発表した。「一つの中国」しか認めない中国外交の前に、それは同時に台湾との国交断絶を意味するものである。

この両国の国交樹立の背景には次のような要因がある。パナマ運河の発展がパナマ経済に多大の影響を与えていること。そして、その運河の利用積載量において中国は米国に次ぐ2番目に位置する国で、運河の総積載量の凡そ19%占めるまでに成長しているということ。しかも、コロン自由貿易地区の利用率では中国はNo.1になっている。

処が、両国には正式に国交がない。この実態をパナマ政府は無視できなくなったのである。(telemetro.com)

2016年6月に、スペインの建設会社サシールがコンソーシアムを組んでパナマ運河の拡張工事を完了させた時に、その開通の第一号コンテナー船は中国船であった。その為に、中国の船会社は58万6000ドル(6450万円)をパナマ運河当局に支払ったと推測されている。そもそも中国船が運河開通の幕を切るということ自体に、それは両国の間で国交樹立は間近かであるということを仄めかすサインであった。(clarin.com

2009年にエル・サルバドールとパナマは中国との国交樹立を中国に打診したという。その時は、中国の方からそれを断った。当時、台湾は中国に歩み寄りを示していた馬英九が総統として政権を握っていたからである。しかし、2016年から独立路線を強調する蔡英文総統の政権に成ると、中国はまた台湾の孤立化を図るべく外交を展開して行くのである。

昨年6月に、蔡総統はパナマを訪問して二国間の協力と支援を再確認されたばかりであった。そして、数か月前にはパナマの副外相が「両国の間には変化はない」という声明を発表していた。

処が、2週間程前から台湾政府はパナマ外交当局の態度に変化を感じるようになったというのだ。そして、6月12日にパナマが中国と国交樹立し、台湾とは断交するということを突如発表したのである。(internacional.elpais.com

中国との国交樹立をパナマのバレラ大統領はテレビを通じて正式に発表した際に、「台湾はパナマの偉大なアミーゴであった。国交を結んでいた期間の友好と協力に感謝している」ということも声明の中に加えたのであった。

それに対して、台湾政府の反応は憤慨そのものであったという。そして、不誠実な行動をパナマが取ることを中国が可能にさせたとして総統府は中国を批難したという。(internacional.elpais.com

パナマの断交によって、台湾と外交関係を結んでいる国は20か国になってしまった。その内の12カ国は中米とカリブ海の小国である。これらの国々が今後も台湾と外交関係を維持する為の基本は実利主義に基づいての資金提供である。

中米そしてカリブ海において台湾は最近5年間で毎年5000万ドル(55億円)の返済不要の資金を提供しているという。(bbc.com

例えば、ニカラグアの大統領官邸や多くの政府機関の建物の建設費用は台湾政府が負担している。同じく、中米経済統合銀行にも返済不要の資金を提供している。この資金提供によって、中米及びカリブ海の諸国のインフラ整備の発展や産業化に貢献しているのである。

更に、台湾が外交の柱にしている一つが医学、経済、エンジニア部門において留学生を募り奨学金を提供して修学できる制度を設けていることである。貧しい国の学生でも台湾に留学して勉強できるようにしている。

この制度を利用している外交関係を維持している外国からの大学生は年間で凡そ2000人いるという。台湾政府はその為に1000万ドル(11億円)の予算を組んでいるという。(internacional.elpais.com

台湾と外交を結んでいる国が減少している中で、これらの台湾からの貢献が中米そしてカリブ海で台湾の存在が今も重要となっているのである。

台湾の外交の礎は米国からの支援である。米国からの支援がある限り、台湾の独立性は保たれるとされている。それに加えて、台湾が重要視しているのがバチカンとの外交関係である。バチカンは中国との国交はなく、台湾と国交を結んでいる。フランシスコ法王は中国との国交樹立に関心を示している。

しかし、「一つの中国」を主張する中国の外交姿勢にバチカンは同意できない。しかも、中国には「中国天主教愛国会」という中国政府公認のカトリック教が存在しており、バチカンのカトリック教の神父や信者に弾圧が加えられているという事情もある。それを改善する為にも、フランシスコ法王は中国との国交樹立を望んでいるが、事態は容易ではない。

プロテスタントについても同様に中国政府公認の「中国基督教三自愛運動委員会」という存在が認められているだけである。

台湾外交はこれからも中国に阻められた外交を迫られることになるが、1971年に国連の安保理の席を失ったあとも、中国を無視して台湾との国交を維持している国があるということを忘れてはならない。

白石 和幸(しらいし かずゆき)
貿易コンサルタント
1951年生まれ、広島市出身。スペイン・バレンシア在住40年。商社設立を経て貿易コンサルタントに転身。国際政治外交研究や在バルセロナ日本国総領事館のバレンシアでの業務サポートも手掛ける。著書に『1万キロ離れて観た日本』(文芸社)

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