ご婚約の内定から採用内定を考える

秋篠宮ご夫妻の長女・眞子さまと、大学時代の同級生・小室 圭さんとの婚約内定が、7月8日に発表されることになりました。おめでとうございます。

ところで、この報道を目にして、「婚約の内定」ってどういう意味だろうと考えた就活生がいたのではないでしょうか?法律関係の仕事をしている人たちの中にも、この表現に疑問を抱いた人たちがいると思います。

というのは、婚約というのは「双方が結婚しよう」と約束する結婚の予約契約です。結納や指輪は婚約成立の要件ではなく、双方が”真摯に結婚の約束”をするだけで婚約は成立するのです。

おそらく、法律関係の仕事をしている方々の疑問は、「婚約」は「結婚」を前提とした”予約の成立”なのに、なぜ”内定”というもう一つの前段階が必要なのだろう?屋上屋を架すようなものではないか?というものと推測されます。

皇族の眞子さまの場合、(われわれ一般庶民と異なり)「納采の儀」によって婚約が正式に成立するので、内定は「納采の儀」を行う約束ということになるのでしょう。双方が”真摯に結婚の約束”をするだけでは、婚約は成立しないのでしょう。

ところで、「内定」というのは法律用語ではありません。就活の場合の「内定」は、法律用語上は「採用内定」とされています(あくまで有斐閣の「法律学小辞典」上です)。

余談ながら、条文の文言にない法律用語に正解はなく、学者の考えた「定義」や「文言」を金科玉条のように考えるのは誤りです。法律学は”条文”の解釈学であり、”条文”にない用語は解釈をする上で便宜的に使用されるだけで、学者によって異なった表現をすることが多々あるのです。

ついでにと言っては何ですが、「採用内定」について考えてみましょう。
「採用内定」とは、”始期付解除権留保付労働契約”と捉えるのが現在の通説・判例です。企業が就活生に内定通知を出すと、条件付きとはいえ”労働契約”が成立してしまうのです。

”始期付”とは、労務提供の開始日が学校を卒業して入社してからという意味で、”解除条件付”とは、採用内定通知書または誓約書に記載されている採用内定取消事由が生じた場合は解約できるという意味です。

内定取消事由は広範囲で漠然とした表現が多いのですが、判例は社会通念上相当な事由がない限り内定取消しを違法と判断しています。例えば、「提出書類への虚偽記入」という取消事由があったケースでも、「虚偽記入の内容・程度が重大なもので、それによって従業員としての不適格性あるいは不信義性が判明したことを要する」として内定取消しを違法としています。

経済変動による経営悪化に際しての内定取消しについても、整理解雇に準じた検討(必要性、回避努力、人選、説明)を必要としています。

逆に、内定を受けた学生がこの労働契約を解除するについては、民法627条が適用され、少なくとも2週間の予告をおけば自由に解約できるとされています(あまりひどい場合は損害賠償義務が発生することもありますが…)。

いつの間にか、婚約内定の話から「採用内定」の説明に流れていってしまいました(汗)。
ともあれ、「採用内定」は企業側にとても重い義務を課すのに対し、就活生の義務はほとんどありません。情報の非対称性(就活生自身の情報は企業側よりも就活生の方が圧倒的に多く持っている)も斟酌すれば、企業側としては、(いかに人出不足の折とはいえ)内定通知を軽々と出してしまわないよう留意する必要があると考えます。

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荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年6月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。