日本医療研究開発機構に問う;審査員の質を評価せよ!

今、羽田空港にいる。シカゴに戻るのは1週間後で、これから台湾に行くためだ。台北医科大学の客員教授をしており、1年に一度は台北を訪問している。今週の始めに夏風邪を引いてしまい、半ばあたりは、体調が最悪だったので、少し厳しいものがあるが、今日の午後と明日は、ゆっくりと休養に充てたい。1日だけでもずらしたいのが本音だが、チケットは変更できないので、今日の出発は仕方がない。

今回は、複数の要件があり、日本に少し長く滞在しているが、この機会を利用して、かつて一緒に仕事をしていた仲間たちと会食を共にすることができた。十数年ぶりにお会いした方もいたし、シカゴに異動して以来、5年半ぶりにお会いした方もいた。当然ながら、時の流れの速さを実感した。そして、日本の現状を見聞きして、このままでいいはずがないと改めて感じた。

それと同時に、6年前、津波・地震被害者の方々に何も貢献できなかった自分への後悔・無力感が、フラッシュバックのように蘇ってきた。心の傷は、簡単には治らないものだと痛感する。シカゴに移る前の2年間は人生の中で最も波乱に富んだ期間だったが、あの当時と別の生き方・選択をしていれば、もっとがん患者や被災者の方々に寄与できていたのでは思いは残る。しかし、タイムマシンで戻っても、私の生き方は変えられないだろうし、一旦戻っても、また、同じ立ち位置の自分を見ることになるような気がする。

未来は、今の自分の判断・決断で決定される。残された時間は有限であり、患者さんに貢献するために、ひとつひとつ間違えることなく、最善の選択をしなければならない。しかも、時間との闘いは重要で、決断を躊躇していれば、絶対に人との競争には勝てない。悩ましげだが、覚悟を決めて人生に臨むしかない。

医学では基礎研究の成果を臨床に還元するにも、時間は大切だ。日本の研究成果が生かされてこないのは、評価制度に大きな問題があることは、このブログでも再三再四語ってきた。評価する側が無責任で的外れの評価をしても、日本ではそれに反論する機会は与えられない。役人や大ボスの意向が忖度されて、それが反映されることが少なからず起こる。そして、公平な審査をする能力のない研究者が、杜撰な審査をして、その対価に高給を受け取っている。これで日本がよくなるはずがない。

私の弟子の一人が、AMEDに研究費を応募申請した。蛋白と蛋白の相互作用を阻害する新しいタイプのペプチドを利用した、ホルモン陽性乳がんに対する新しい治療法だ。ペプチド内のアミノ酸をホチキスでつないで安定させて分解を抑える方法で新規性は高い。

これに対しての評価の中は

(1)「BIG3 が高発現・活性化した乳癌細胞においてのみ有効であるように思われるが、BIG3 も含めた有効性を予測できるバイオマーカーについての検討が必要である」

(2)「CTL 誘導を指標とした開発アプローチについては、新規性は高くないように思われる」

などがあった。

(1)に関しては、内容をしっかりと読んでいないに違いない。BIG3は乳がんの80-90で高いレベルで発現しているし、BIG3そのものがバイオマーカーだ。すべての乳がんに有効な薬などあるはずがないし、あまりにも見識に欠けるコメントだ。このレベルの研究者が審査していることが、日本の問題だ。さらにひどいのは2番目の審査員だ。

この人は、タイトルとキーワードしか読んでいないと断言できる、あまりにも無責任で救い難い内容のコメントだ。この審査員の評価は、ゼロ以下、マイナス100だ。審査する資格はない。申請内容のどこをどう読めば「CTL 誘導を指標とした開発アプローチ」が関係することになるのだ。蛋白―蛋白相互作用の阻害のどこにCTLが出てくるのだ。いい加減さもここまでくると救いようがない。申請に時間をかけた研究者を愚弄する内容だ。ペプチドという言葉から短絡的に、ペプチドワクチン、そして、CTLと勝手に「妄想」したひどいもので科学のかけらもない!

こんな内容も読まず、無責任極まりない審査をしていても、何の責任を負わない能天気な状況だから、日本は変わらないのだ。どこが、日本医療研究開発機構だ。このままでは、日本を沈没に導く日本沈没誘導機構だ。猛省を求めたい。

読者の皆さんの中に、理不尽なコメントに憤っている人がおられたら、申請内容と理不尽な評価内容を私に送ってください。このブログで、日本の審査体制のずさんさを順次公開させていただきたいと思います。日本を変えるには、しっかりとした評価体制を構築するしかありません。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年6月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。