モーニング娘、AKB48の指導者が語る人間力とは

尾藤 克之

写真は夏まゆみ氏。テレビ東京HPより引用。

「ASAYAN」という番組を知っているだろうか。テレビ東京で1995年10月から2002年3月まで毎週日曜日に放送されていたバラエティ番組である。多くのミュージシャンや芸能人を輩出したが最も人気があったのが、つんく♂がプロデュースした、モーニング娘だろう。

そして、「シャ乱Q女性ロックボーカリストオーディション」の合宿で振付師として指導した、女性ダンスプロデューサーを覚えていないだろうか。指導者として時には厳しく、いっしょに涙を流し、モーニング娘の成長をささえた。

プロデューサーの名前は「夏まゆみ」。読者の皆さまにわかりやすいように、番組オーディションの際の写真を引用する。今回は、夏まゆみ氏の近著『教え子が成長するリーダーは何をしているのか』(サンマーク出版)を紹介したい。

本書はリーダー育成術のノウハウ本である。多くのダンサーやミュージシャンを輩出した実績に裏打ちされた技術は興味深い。しかし私は、人材育成以外のパートに注目してみた。今回は、あえてその部分を紹介したいと思う。

席次表にこめられた感謝の気持ち

――夏まゆみ氏は、本書のなかで、「元モーニング娘の安倍なつみは、自分の披露宴の場で最高の恩返しをしてくれました」と次ぎのように語っている。

「一般的にタレントやアーティストの結婚式は、事務所やマネジャーが取り仕切ることが多いのですが、安倍は夫で俳優の山崎育三郎さんと二人で、自分たちの手で大切に式をつくりあげました。出欠の確認や食べ物の好き嫌いに関するリサーチまで、安倍から直にメールがきたときは『そんなことまで自分でやるのか』と驚いたものです。」(夏まゆみ氏)

「安倍は私に、事務所の社長や会長と同じ、もっとも上座の席を用意してくれました。それはおそらく『夏先生がうちの社長や会長とお話できる機会をつくってあげよう』という安倍の思いやりでもあったのでしょう。」(同)

――高砂席に向かって左側を新郎関係者、右側を新婦関係者席とするが、席数は限られている。来賓席は、誰を座らせるかで新郎と新婦のせめぎ合いになるものだ。披露宴とは新郎新婦の披露宴の意味もあるが、出席者にとっては誰が上座で格上かを知らしめる場でもある。芸能界での席次表だから、一般のそれと比較して大きな意味があったに違いない。

「最後のあいさつのときも、安倍は何度も『先生ありがとうね』と言ってくれました。そればかりか、お相手の山崎さんやご両親まで『夏先生ですかお話はいつも聞いています』と言って深く頭を下げてくれました。山崎さんやご両親とは初対面でしたから、彼らが抱いているイメージは安倍がつくってくれたものです。」(夏まゆみ氏)

「あれだけ深い感謝の気持ちを示してくださったことを思うだけで、私は涙が止まりませんでした。そのときの安倍の包容力とやさしさのオーラには、心から感激しました。」(同)

はだしになり自分を取り戻す

――夏まゆみ氏は、恩返しをしてくれた教え子は他にもいたと次のように語る。

「モーニング娘やAKB48のメンバーには意図的に、容赦なくムチをふるっていたので、一時期はずいぶん煙たがられました。とはいえ、そんな彼女たちも今ではちゃんとわかってくれていて、テレビや雑誌のインタビューなどでいつも『夏先生はすっごくこわかったけど、教わってよかったと思います』なんて言ってくれるのです。」(夏まゆみ氏)

「嫌われたり疎んじられたりしても、相手の成長を思って指導していればわかってもらえる日はかならずやってきます。なぜなら人間はみんな成長し、いつか自身も『教える側』になるからです。」(同)

――最近は、部下を叱れない上司が多いと聞く。言葉が強いと、青菜に塩をかけるように元気なくしおれてしまう。場合によっては「パワハラ」ととらえられて大きなリスクにもなりかねない。接し方には注意が必要だ。

「人を本気で成長させようと思ったら、やさしさだけではなく厳しさも必要であると思います。ちゃんと向き合っていれば、『相手の考えや状態が手にとるようにわかるようになります』。世の中があまりにも便利になったことで、人間本来の力はだんだんと忘れ去られ、埋もれていってしまいました。」(夏まゆみ氏)

「そんな人間本来の力を『学ぶ』というよりも『思い出す』ことで、現代社会のさまざまな問題に立ち向かうことができるのではと考えています。」(同)

――夏まゆみ氏は、「人間力」はダンスと密接な関係があると言う。

「ダンスはもともと人間の持つ生命力そのものを表現しています。はだしで土を感じ、はだかで空気を察知し、太陽を浴びて雨に当たって風に吹かれて生きていく。ダンスには、そんな原始的なよろこびを思い出させる力があります。現代社会において、ダンスは本来の自分を取りもどす最高のツールなのです。」(夏まゆみ氏)

「そんなダンスの力も借りながら『人間力』を思い出すための道筋を、私は『人間力向上学』と名づけました。」(同)

あなたにとって人間力とはなにか

――人間力とは何か?という問いに正解は存在しない。定義するならば、「人間として魅力」「人間の本質力」になるかも知れないし、具体的に落とし込んでいけば、「コミュニケーション力」「リーダーシップ力」「マネジメント力」などがあげられる。最近の流行であれば「俯瞰力」などもあるだろう。

夏まゆみ氏は、ダンスをベースに人間力を解こうとしているがロジックは明快だ。太古の昔から、人は踊り音楽を奏でていた。先祖の霊を敬う儀式的な踊り、狩猟の成功や大漁を祝う踊り、豊作を祝う踊り、婚礼の儀式の際にも踊りは必須だった。「踊り」とは生活の中にある日常的なものであり特別なものではない。

人間力とは画一化されたものではなく、各々の価値観により基準が異なるものである。「いい会社」「いい学校」「いい相手」、あらゆる人に普遍的に存在するものだが優劣を規定することはできない。私たちにとって「人間力」とはなにか考えることで、いま山積する多くの問題を解決するヒントにつながるのかも知れない。

参考書籍
教え子が成長するリーダーは何をしているのか』(サンマーク出版)

尾藤克之
コラムニスト

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