バロンズ:金融危機を予想しないイエレン議長は、正しいのか?

2017年07月03日 06:00

バロンズ誌、今週のカバーはビットコインを掲げる。今年上半期で最もパフォーマンスが良かった投資先と言えばアマゾンやネットフリックス、テスラではなくビットコインだろう。5年前に5ドルで購入した投資家は、2,500ドルへ跳ね上がった時にはミリオネアの仲間入りを果たした。その裏で乱高下が激しいビットコインに投資するにあたって、二の足を踏む投資家も少なくないに違いない。ただし、ビットコインを支えるテクノロジー、ブロックチェーンとなれば話は別だ。本誌では、その詳細に切り込む。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長によるロンドンでの講演にスポットライトを当てる。抄訳は、以下の通り。

イエレン、危機を予想しない見解が話題に:Yellen’s Famous Last Words: No More Crises.

金利正常化に成功した経験を持つイエレンFRB議長は27日、彼女の生涯において金融危機は発生しないと予想した。勇気ある見通しは、皮肉にもFed高官が相次いで資産価格上昇への懸念を表明したタイミングと符号する。イエレンFRB議長は70歳だが、91歳のグリーンスパン元FRB議長や今年90歳になるボルカー元FRB議長まで長生きすれば、予想は外れるかもしれない(ちなみにバーナンキ前FRB議長は、今年64歳でメディケイドの受給資格年齢まであと1年ある)。

恐らく、2007〜08年に直撃した100年に1度の金融危機や1930年代の世界恐慌のような事態は免れるだろう。しかし、筆者が成人になってから既に11回もの危機を経験している。それは、いつも利上げサイクルと共にやってきた。かつての危機と言えば、1970年のペン・セントラルの破綻に始まり、1974年にはフランクリン・ナショナル・バンクとドイツのバンクハウス・ハースタット、1980年にはハント兄弟の銀買い占めによる銀バブル崩壊、1982年にはコンチネンタル・イリノイの破綻、1987年10月19日はブラック・マンデー、1990年には貯蓄・融資(S&L)機関の危機、1994年にはカリフォルニア州オレンジ・カウンティの破綻、メキシコ危機が発生した。1997年の今週にはタイ・バーツが急落しアジア通貨危機が全世界を揺るがし、ロシア危機やLTCM危機の連鎖を招いたものだ。その頃、Fedは1907年のJPモルガンの如く振る舞い、NY連銀を通じLTCMに融資していた14行に最低限の資金を融通するよう指示。併せて、FF金利誘導目標をわずか3ヵ月間で3回引き下げた。

2000年のITバブル崩壊では、グリーンスパンFRB議長(当時)率いるFedが2001年9月11日の同時多発テロ事件も重なって利下げに踏み切った。その後の利上げは”measured pace(慎重なペース)”にとどまったため住宅バブルを煽ったものだ。

アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)のデズモンド・ラックマン氏に言わせれば、イエレンFRB議長の金融危機を予想しない見通しは1938年のネビル・チェンバレン英首相がナチス・ドイツによるズデーデン併合を追認したミュンヘン会談で「我々の時代における平和」と発言したことを思い出させるという。大袈裟かもしれないが、その通りだろう。

前週はイエレンFRB議長のほか、同じ時に先進国の中央銀行当局者が相次いで発言した。資産価格が上昇し、金利の正常化するなかで、過去の例が示す通り中銀による引き締めは時に危険であり得る

NY連銀のダドリー総裁は前週、米株高やクレジット・スプレッドの縮小など金融緩和の状態を打ち消す上で利上げが必要だと述べた。ダドリー発言より、金融市場を動かしたのは、緩和政策が永遠に続かないと示唆した欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁だ。資産買入縮小を連想させたおかげで、欧州債だけでなく米国債の利回りが急騰した。翌日にECB関係者は火消しにまわったが、時既に遅しで米10年債利回りは前週に15.2bp上昇し2.298%をつけた。米株も、テクノロジー株を中心に下落してしまう。

米10年債利回り、低下トレンドから一転して上昇。
10y
(出所:Stockcharts

国際決済銀行(BIS)の金融・経済部門の主任であるクローディオ・ボリス氏は、前週公表した年次レポートに寄せたコメントで金融市場に対し2016年の悲観的な見方が急激に上振れしたのかと疑問を投げかける。とはいえ、政治的な不確定要素を抱えながら米株高と米債高が共存し、ボラティリティが低下する状況だ。

アップルのiPhoneが誕生して10年を迎えるなかテクノロジーが進化し、債務は過剰に積み上がり、高齢化が進み、デフレ圧力をもたらした。中銀はデフレの戦いを余儀なくされ、ゼロ金利の導入や流動性供給を決断することになる。その結果、デフレ資産——国債や投資適格級の債券、S&P500の一般消費財、高利回り債の上昇を招いた。逆にインフレ資産である商品先物、物価連動国債、米国を除く先進国株式相場、銀行株、バリュー株は、こうしたデフレ資産を下回るパフォーマンスにとどまった。こうした環境を踏まえ、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのマイケル・ハートネット氏とジャレッド・ウッダード氏は「中銀の過剰な流動性はウォール街にインフレを、メインストリートにデフレをもたらした」と指摘。もはや「ウォール街にバブルを与えるのは容認できない」と語る。

中銀がどう考えているかは定かではないが、少なくとも「あらゆる手段を講じる(whatever it takes)」姿勢を崩し始めた。市場関係者の間では、遅きに失するとの見方もある。グラスキン・シェフのデビッド・ローゼンバーグ氏は過去を振り返り、1987年10月にはブラック・マンデーの引き金を引き、1990年には商業不動産の急落につながり、1999〜2000年に利上げはITバブル崩壊を、2004〜06年の利上げ後に金融危機が招いた指摘していた。エディソン・インベストメント・リサーチのアラステア・ジョージ氏は、金融政策の正常化に動く中銀当局者の発言を受け「金融市場が不安定化しないよう、注意を払った」と予想する。しかし、こうした警告は時に別の方向へ動くものだ。


上半期が終了し、ダウは8.03%高、S&P500は年初来で9.34%高、テクノロジー株を数多く有するナスダックは14.07%高を遂げました。トランプ政権発足を受けたラリーを追い風に、米大統領選後に3回、それ以前と合わせ4回の利上げがまるでなかったかのような好調ぶりです。ただ、ドラギECB総裁の発言前からテクノロジー株に変調をきたしたことは事実。単なるアロケーションの変更と一蹴する市場関係者もいらっしゃいますが、①Fedのバランスシート縮小、②ECBの資産買入縮小、③イングランド銀行やカナダ銀行の利上げの可能性ーーをにらみ、金融市場のボラティリティが遂に目を覚ましてもおかしくありません。上半期末のドレッシング買いを終え、下半期にかけポジション調整の売りが仕掛けられるリスクにも、注意したい。NY市場関係者と面談した折に、米財務省が米株高を懸念してヒアリングを行っていたとも聞いています。パーティーは必ず終幕するもので、下半期のスタートは調整入りを迎える可能性を見込んでおきたいところです。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年7月2日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑