会社に労働者の権利を主張するとリスクが高くなる理由

2017年07月11日 06:00

写真はwikipediaより引用。日産争議


NHKなどによれば、電通の違法残業事件で、東京地検は「36協定」が労基法の要件を満たさず違法であることを発表した(電通 月50時間までの残業認めた労使協定は無効)。電通は東証1部上場の大企業だから手厚い対応がされるだろう。では、中小零細企業の会社員に、同じことがあった場合のケースを考えてみたい。

会社と闘うことは簡単ではない

「残業代が未払い。休日出勤や風呂敷残業はあたり前」。たしかに悔しいのはわかる。上司に仕返しをしたいという気持ちも理解できる。しかし、ドラマのように嫌いな上司に「一泡吹かせる」というわけにはいかない。まず上司は立場が上だから、人事権を行使することができる。目をつけられれば評価がどうなるかは言うまでもない。

さらに問いたい。会社にとって必要な人材は、「あなた」か、それとも「上司」だろうか。なかには、泣き寝入りをしたくないからと労働基準監督署(労基署)に行く人がいる。厚労省によれば、相談件数は8年連続で100万件を超えている。しかし、労基署が問題を解決してくれるわけではない。つまり労働者の駆け込み寺ではない。

たとえば、労基署に「残業代が出ない」ことを相談したと仮定しよう。証拠としてタイムカードや出勤簿などを持参した。監督官に事情を説明したら、このように言われるはずだ。「まずは自分で話してみてください」。もしくは、違法性が高いなら次のように言われるだろう。「会社に連絡しますが、あなたの名前を話しても構いませんよね」。

労基署に通報するというのは「会社が労基法に違反しています」とタレこむことと同じ。「名前は伏せてください」は通じない。次ぎに、あなたが通報したことが会社に知られたとしよう。労基署への申告を理由に、不利益を与えることはできないが、そのまま平穏に済むとは思わないほうがいい。会社にとって、あなたは裏切り者だからだ。

労働者にとって最も重要な賃金は簡単には下げられない。しかし、異動や昇進昇格・降格は会社の裁量だ。普通に考えれば、重要なポスト、重要な仕事からは外される。労組を通じて団体交渉をしようが、労働委員会に上訴しようが時間が経過するなかで疲弊し居場所が無くなっていくだろう。あなたが圧倒的に有利な状況なら、より顕著になるだろう。

参考までに、「東京都労働委員会」がデータを公開しているので参考にされたい。ここからは、一定の判断がでるまで1年以上かかることがわかる。救済措置が出たとしても残業代が獲得できるわけではない。不当労働行為が認定されたとしても、会社には指導がはいるだけだから過度な期待は禁物だ。

会社が交渉にのらない場合、労組は実力行使として、スト、ビラまき、街宣活動などの争議をおこなう。損失を与えても「正当」であれば、民事上・刑事上の責任を問われない。しかし、あなたは、自分の名前がはいったビラをまき、会社のまわりをシュプレヒコールしながら街宣活動することができるだろうか。かなりの勇気が必要になる。

労働審判という手段もあるが

労働審判は、解雇や給料の不払などの労働関係に関するトラブルを、迅速に解決する手段である。しかし、これも異議申立てがあれば訴訟に移行する。和解できなければ、地裁で1~2年、高裁に移行すればさらに1年。結構な時間がかかる。和解ではなく判決であなたが勝ったとしても、民事では「支払わないことに対する罰則」は存在しない。

つまり、相手が一枚上手ならまったく回収ができない。銀行口座を差し押さえることはできるが、口座がわからなければ差し押さえはできない。用意周到に預金を他に移されていたら「THE END」だ。では、運よく、労働審判3回でケリがついたとしよう。詳細なデータはないが次のようなシミュレーションになるだろう。

あくまでも相場だが、和解金は月収の3~5ヶ月程度だ。あなたの月収が40万円と仮定すれば、120~200万円が和解金の範囲である。ここから、裁判費用や弁護士報酬を引かなければいけない。大きなストレスを抱えながら手にする金額としては割りに合わないのではないか。会社と闘う手段はいくつかあるが、抗戦することはあまりおすすめはしない。

まず、大きなストレスが生じる。私なら、人生の時間のムダと考えて、自分に問題があったとあきらめて環境をかえる。同時に弁護士を通じて交渉を依頼するが、これも長期化するようだったら事を荒立てない。結局、「会社に雇われるか」「自分で始めるか」しかない。これが結論になる。どうするかはあなた次第だが、熟慮が必要になる。

尾藤克之
コラムニスト

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