IPOの潜在投資家たちはアラムコの投資計画をどう評価するのだ

2017年07月11日 06:00

Bloombergが7月10日21:05に「サウジアラムコ社長が供給への懸念を表明し、3,000億ドルを投資すると発言(Aramco to spend $300bn, CEO warns on world supply)」という記事をupdateしていた。筆者は、向こう10年間で3,000億ドル投資する目的を「石油の余剰生産能力の維持と天然ガスの開発拡大」だとしている点に違和感を覚えた。天然ガスの開発拡大はいいだろう。だが、石油の余剰生産能力の維持は、利潤を追求する私企業が行うべきものだろうか。

余剰生産能力とは、いざ何かの理由で大幅な供給阻害が発生した場合に備えるものだ。供給量の急激な減少が、石油価格の上昇のみならず量的な不足などにより世界経済が混乱に陥ることを防ぐために、念の為に用意しておくもので、何も起こらなければ使用しない生産設備等のことだ。毎年巨額の投資をして、何も起こらなければ何のリターンも生まない。こんな投資を株主として看過することはできないだろう。それともCSR(企業の社会的責任)の一環として負担すべき費用、と割り切るのだろうか。

サウジアラムコの現在の業務には、本業であるエネルギーに関係がないばかりか、本来国家あるいは行政主体として行うべき社会インフラの建設、管理、運営なども含まれている。たとえば今年9月5日、Samurai Blueが乗り込んでワールドカップ・アジア最終予選の重要な試合を行うサウジアラビア・ジッダのキング・アブドゥラー・スポーツ・シティの競技場も、サウジアラムコが建設し、管理運営している施設である。

これらのエネルギーと無縁の社会インフラ建設業務などをIPO後のサウジアラムコが継続して行うのかどうかも、潜在投資家としては考慮に入れるのではないだろうか。

いや、サウジアラムコはサウジ国家そのものだ、投資家はサウジを買うかどうかの判断をするのだ、と、なるのだろうか。いやはや、難しい。

さて、記事の要点をスペースの許す限り紹介しておこう。

・サウジアラムコのCEOアミン・ナサールは、石油の生産余剰能力(spare oil-production capacity)維持と天然ガスの開発拡大のために、向こう10年間に3,000億ドル以上の投資する、と語った。価格下落が始まってから1兆ドルの投資が見送られ、新規埋蔵量の発見は少なく、将来の石油供給の懸念は高まるばかりだ、とイスタンブールでの会議で語った。また、ある予測によれば、需要増と生産油田の自然減退に対応するために、向こう5年間で2,000万BDの新規供給が必要だ、とも月曜日に語った。

・「確実で信頼できるエネルギーである石油とガスから離脱することが可能だという、思い込みが高まっているようだが、それは代替燃料が急激に使えるようになる、という誤った仮定に基づいているものだ」「石油産業はこれから何年も世界のエネルギーの中心で有り続けるし、代替燃料への移行には時間がかかるし、簡単なことではない」と。

・ナサールは記者団に、現在の価格環境がIPOに影響を与えることはない、と語った。

・「投資家たちは必要とされている石油探鉱、長期の開発、関連インフラへの投資を避けている」とスピーチの中で語った。「石油需要ピーク論と放置される資産(stranded resource)というミスリーディングな議論」に部分的に責任があるとも。

・たとえば、過去4年間に発見された在来型の石油は、その前の4年間の半分以下でしかなかったとも言った。

・「シェールオイルのようなわずかな投資増は役に立たない。ある程度の高い水準の投資が行われないと、エネルギーの移行、すなわちエネルギーの安全保障は致命的に損なわれる」と。

・ロンドンのBloomberg IntelligenceのエネルギーアナリストWill Hares曰く「サウジの予算を窮屈にしている現在の価格環境の中で、向こう10年間に3,000億ドル投資するというのは極めて強い声明だ」「2014年以来の業界全体の低水準の投資の結果おこってくる長期の供給不足への懸念への回答になるかも知れない」

・ナサールは、向こう10年間でガスの生産量を日量230億立方フィート(LNG換算1億7,600万トン/年)に倍増し、電源燃料の70%を占めるようになる、これはG20の中で最高水準のものだ、と語った。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年7月10日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。

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岩瀬 昇
エネルギーアナリスト

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