教育の情報化は授業を受ける子ども目線で!(下)

2017年07月12日 08:00

対症療法の限界を露呈する文化庁報告書

自民党の小林史明議員(写真)は、 (上)で紹介した衆議院文部科学委員会での質問を以下のように総括した。

せっかく検討するんだったら、まずこの枠のあり方から検討するべきだと私は思うんですよ。許諾が不要になったとしても、さっきのiPadに配るかコピーを配るかという中で、コピーをiPadに配った瞬間からお金が発生します、これだけは残るわけですね。これはやはり、これを機に整理をしないと、現場でいろいろな権利者と意見交換をしながら調整をして、御苦労されているのは本当によくわかります。一歩一歩というのもわかるんですけれども、これまで一歩一歩の小出しをやってきた結果、この国の制度というのは前に進まないし、利活用が進まないまま終わってきているというのが、私は反省だと思うんですね。やれるときにはきっちり切って、しっかり整理をする。

 (略)

何にせよ、細かい運用で区切る法律はもう改めて、全体を包括的にどう考えるか、こういう制度でぜひお考え直しをいただいて、これからの法制度に進んでいただきたい。

確かに従来許諾が必要だった行為を許諾不要とする代わりに有償とするのは、遠隔教育推進の観点からは一歩前進だが、枠はそのまま残しているため、 (中)のとおり、①遠隔授業で、配信側に生徒がいる場合は無償なのに、いない場合は無償にならない ②対面の授業でも紙のコピーを配るのは無償だが、iPadに配信する場合は無償にならない などの問題は未解決のままなので、枠の在り方を含め全体を包括的に考える必要性は高い。

小出しの改革の失敗例

今回、衆参両院の委員会で質問され、政府内でも内閣府の規制改革推進会議が取り上げたのは、文化庁報告書(以下、「報告書」)の第2章「教育の情報化の推進等」についてだが、同じ報告書の第1章「新たな時代の時代のニーズに的確に対応した権利制限規定やライセンシング体制等の在り方」についても小出しの改革の限界が垣間見れられる。

「文化庁報告書に見る政府立法の限界」 (上)(下)で紹介したとおり、文化庁は知的財産推進計画2008および2009の提案を受けて、日本版フェアユースについて検討したが、小出しの改革に終わり、その後のIoTや第4次産業革命などデジタル・ネットワーク化の進展に追いつけなかった。このため、知的財産推進計画2016での再提案を受けて検討した結果が、今回の報告書の第1章である。

報告書は、柔軟な規定として条文化すべき6つの利用類型をあげている。6つの類型の2番目の「情報分析サービス」の具体例としてあげられている「論文剽窃検索サービス」がある。「論文剽窃検索サービス」は2014年、STAP細胞論文でコピペ疑惑が発覚した小保方事件をきっかけに日本でも脚光を浴びた。

日本にもサービスを提供する企業はあったが、日本の教育・研究機関は事件発生後、一斉に米Turnitin社のサービスを導入した。チェック対象論文数が桁違いであることが大きな理由だが、裁判でフェアユースが認められた米社は、学生の許諾なしに提出論文をデータベース化した。学生の許諾を得た論文しかデータベース化できないようでは、先輩の論文のコピペや学生同士の論文の見せ合いをチェックできず、論文剽窃検サービスとしては不十分なので、事件発生後、日本の大学や研究機関は一斉にTurnitin社のサービスに走った。

6つの利用類型の最初の「所在検索サービス」の具体例としてあげられているサービスのうち、「書籍検索サービス」についても米国ではフェアユースが認められた。このため、グーグルのサービスに筆者の名前を入れて検索すると、国会図書館の蔵書検索データベースNDL-OPACで検索した場合よりもはるかに多い件数がヒットする。書籍の全文を複製して検索データベースを作成しているグーグルと、現行法ではそれができない国会図書館の相違に起因するものと推測されるが、日本語の書籍ですら、母国語国の国立図書館よりも米国の一民間企業の方が網羅的に探してくれるわけである。

報告書は今回、これらのサービスについて、適切な柔軟性を備えた規定の整備を行うよう提案しているが、知的財産推進計画2008および2009の提案を受けて日本版フェアユースについて検討した結果、実現した2012年の著作権法改正が小出しの改革に終わらずに、こうしたサービスもカバーできるような柔軟な規定が導入されていれば、米企業に日本市場まで席巻される事態はある程度、回避できたかもしれない。

これらの例に見られるように技術イノベーションだけでなく、制度イノベーションでも、小出しの改革しかできないため、米国との差は開く一方で、米IT企業に日本市場まで制圧されてしまう事例が後を絶たない。

報告書の第1章のテーマ「イノベーション促進」、第2章のテーマ「教育の情報化推進」とも国の将来を決める重要な施策である。その分野で小出しの対症療法的対応に終始していては、小林史明議員の指摘するように、この国の制度は前に進まず、諸外国に遅れを取るだけなので、この機会に全体を包括的に見直す改革を進めるべきである。

城所岩生(国際大学客員教授・米国弁護士)

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