自分が自分に約束すること

脳神経研究で世界的に著名な医学者で第16代京大総長を務められた、平澤興さん(1900年-1989年)は、「人生で一番大事なことの一つは自分を騙(だま)さんということです。自分が自分に約束したことは、絶対に守る」と言われているようです。

之は端的に自分に噓を付かないということですが、では概して小学校の時の約束が50年先でも実際に通用すると言えるでしょうか。我々を取り巻くありとあらゆるものは変化して行くと言っても過言ではないでしょう。そうした環境変化に順応するためにも我々もまた自ら変化して行くよう天は我を創ってくれています。

また例えば法制度一つを挙げてみても、法的是非は時代と共に次々変わり得るものです。例えばエドゥアルト・フックスの『風俗の歴史』によると、ある国で戦争で男性が多く死んだため法律を変え、一夫一婦制から一夫多妻制にしたとのことです。

このように殆ど何もかも全てが変わり行く世界の中で、不変とされるのは唯一「人間性」だと思います。之は人間には人間としての天から与えられた生き方や役割があるということです。

そして王陽明が言うように、之を煎じ詰めれば「(天下の事、万変と雖も吾が之に応ずる所以は)喜怒哀楽(の四者を出でず)」になりますし、その煎じ詰めた所で如何なる人間になるのが望ましいかと言えば、此の喜怒哀楽のバランスを図って行き、「恒心…常に定まったぶれない正しい心」を養って行けたら最高でしょう。

ですから「人生で一番大事なことの一つ」は、人物を磨き続けて高め行くための絶えざる努力だと思います。人間力を高めるために事上磨錬(じじょうまれん)して行くのです。

「年五十にして四十九年の非を知る」(淮南子)、「行年六十にして六十化す」(荘子)という言葉もあるように、「化す」というのも人間としての在るべき姿です。我々人間は人物を高める努力を終生惜しむことなく、何歳になろうが常に変身し、日一日とより良きもの、より良き方向に前進して行くのが、天から課せられた使命だと思います。

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