ニカラグアがロシアの諜報基地として米国の脅威に

白石 和幸

ロシア・プーチン大統領とニカラグアのオルテガ大統領(infobae.comより引用)

米国が開発を進めた「全地球測位システム(GPS)」に対抗して、旧ソ連そしてロシアが開発した「衛星測位システム・グロナス(GLONASS)」が2011年から全世界で実用可能となっている。この両システムはもともと軍事用に開発されたものであるが、現在では民間用としても使用されている。

ロシアはグロナスの基地を中米のニカラグアに今年4月6日に開設した。この基地開設の狙いはラテンアメリカ及び米国を牽制する為であり、諜報基地として情報を収集する為でもある。ロシアは現在まで世界8か所にグロナスの基地を開設している。ブラジルに4か所、南極に3か所、南アに1か所となっている。

特に、米国を牽制する意味でニカラグアを選んだのは1980年代に旧ソ連の支援を受けてニカラグア革命を推進したダニエル・オルテガが2007年よりまた大統領としてニカラグア政治の表舞台に復帰したからである。そして、現在まで彼の政権が続いている。2016年の大統領選挙では彼の夫人を副大統領候補として選挙に臨み73%の支持を得て当選。2022年まで彼の政権が続くことになる。議会も彼の政党が大勝している。即ち、彼の独裁政治体制が確立されているのである。

ロシアは旧ソ連時代から関係を持っていたダニエル・オルテガが支配するニカラグアは米国を牽制するには最適な国としてとして関心を示したのである。

ロシアは2007年に最初の資金支援を実行。2009年にはオルテガの方からロシアに積極的に接近した。そして2010年からまたロシアからの資金支援が再開されるのである。2007年から2016年までの支援金総額は凡そ1億4000万ユーロ(168億円)相当になるという。

また、2009年から2014年まで年度によって寄贈内容は異なるが小麦20万トン、更にラーダ・カリーナのタクシー550台とバス520台を提供して古くなっていた米国製の乗り物と取り換えることが出来るようにした。バスは1台につき3万ユーロ(360万円)、タクシーは8000ユーロ(96万円)をダニエル・オルテガファミリーがコントロールしている国民金庫(Caruna)を介して業者に販売されたという。

しかし、タクシーもバスも使っている間に運転手が気いたのは、それが寒冷地用に生産されていたということで、ニカラグアのように熱い気候での使用はトラブルが出たそうだ。

処が、2016年からはロシアからの支援が軍需品に変化して行くのであった。戦車T-72が50台、哨戒艇ミラージュ1430を5隻、ミサイル艦モルニア1241は2隻、高等練習機Y-130などである。これらの兵器のそれぞれ単価は戦車100-200万ドル(1億1000万円)、哨戒艇500万ドル(5億5000万円)、ミサイル艦4500万ドル(49億5000万円)、高等練習機1500万ドル(16億5000万円)。

ニカラグアはラテンアメリカでハイチに次ぐ2番目の貧困国である。しかも、ニカラグアは近隣諸国との紛争もなく、脅威に晒されている訳でもない。それが何故、このように兵器を求めるのであろうか。

2012年11月に国際司法裁判所はカリブ海の9万平方キロメートルがニカラグアの領海であると認定された。この領海を防衛する手段がニカラグアには不足していた。ロシアからの軍需品の提供はその防衛が目的であるとされている。

しかし、その領海を防衛するのに戦車は必要でない。真の狙いは米国を牽制する意味で、ロシアがそれを望んでいるからだと専門家の間で指摘されている。と同時にニカラグアは中米の隣国ホンジュラスなどにも影響力を行使できるようになるとしている。

それは同時にダニエル・オルテガの夫人が副大統領になっている独裁オルテガ家の長期政権の継続をロシアが望み、国家の武装はそれを容易にさせる為の手段のひとつなのであるとされている。

それにさらにくさびを打ち込む形で、米国への牽制に選ばれたのがグロナス基地のニカラグアでの開設である。首都マナグアの火山の麓のラグナ・デ・ナハパに開設した。この基地名を「チャイカ(Chaika)」と命名した。それは旧ソ連の女性初の宇宙飛行士ワレンチナ・テレシュコワ の認証名から取ったものだという。

2014年にプーチン大統領がニカラグアを初めて訪問した時に、ダニエル・オルテガは「貴方の訪問は光線だ」と言って彼を丁重に迎えたという。それから3年経過した今、ニカラグアはロシアが望む通り、米国にとって脅威の国になりつつある。