トランプ訪仏に見るマクロンの外交力(特別寄稿)

2017年07月22日 14:30

安倍内閣支持率低下はマクロン仏大統領が原因?

安倍首相の支持率が低迷している理由のひとつは、外交での得点が一時ほど上がらないことだ。ETPの妥結というホームランもあったのだが、ちょっと地味すぎると言うよりは、対EU問題についは、イギリスが離脱したこともあって、日本のマスコミは興味が薄く良く理解すら出来てないと思う。

世界における自由貿易退潮を止めるホームランであるETP妥結は、ヨーロッパだけでなく、アメリカでも大ニュース扱いだった。

ヨーロッパの報道でも大々的に取り上げられている。フランスのテレビでは「自由貿易反対派は不意を突かれてこの重大は協定の合意に慌てている」といっているし、アメリカのマスコミはこれで世界貿易でアメリカが不利になると大騒ぎ。トランプの暴走に防衛を頼っている以上は日本がそれを非難するのは難しい。こういう形で反撃するのがもっとも賢い方法だ。

日本のマスコミがしっかり報道しないのはいろいろ理由があるが、ロンドンを中心にヨーロッパを見ている歪みも原因だ。各社とも欧州総局をパリかブリュッセルに移すべきだ。
北朝鮮について劇的な展開はないが、そんな簡単なものでないのだから、G20の声明に盛り込まれなかったからといって騒ぐほどのことでない。

各国とのバイの会談もロシアやトルコのテレビでも大きく取り上げられていた。日本のテレビはNHKを筆頭に本当に安倍首相と外国首脳の会談を報道することを意図的に避けているとしか思えない。

トランプとは日米韓だけでなく日米で単独対談をしっかり時間を掛けてできたのは、トランプとマルチの会議のたびに会うといち早く約束しておいた成果だ。オバマにならスルーされかねないところだった。

それから、安倍訪欧とは関係ないが、沖ノ島の世界遺産指定が宗像神社なども含めた一体としての指定に逆転して成功したのは外交的成功。うまく行かなかったときだけ外務省を非難してうまく行ったら誉めないのはおかしい。

ところで、安倍外交が冴えない印象なのは、実はマクロン仏大統領の登場があると思う。マクロンが出てくる前のオランド大統領は地味だし、国内での不人気がたたって国際舞台でも無能ではなかったが主導権がとれなかった。

また、ヨーロッパとアメリカが対立すると、安倍首相がちょうどいい場所にいて主導権を取れた。ところが、マクロン大統領の登場で、状況は一変した。

まず、メルケル首相とは蜜月だ。大統領選挙で社民党のシュルツ代表は、社会党公認のアモン候補を支持したものだから、せっかくの中道左派の勝利を自分たちのために生かせなかった。マクロンはなにごとにもドイツがフランスにとって第一順位であることを態度で示したし、メルケルはマクロン夫人より一歳年下。ひとことでいって、この年配の女性の扱いに慣れているということでもある。

そして、トルドー・カナダ首相とは同世代の連帯をことあることに強調している。

トランプ大統領の手を腫れ上がるほど強く握ったマクロン

満面の笑みで撮影に応じる両首脳(トランプ氏Facebookより:編集部)

そして、トランプ大統領とは考え方の違いは強調しつつ、トランプの面子を潰すような愚かな真似はしない。パリ協定からの離脱については、英語で『偉大なアメリカ』についてのトランプの言葉をもじって『偉大な惑星』の建設を呼びかけたり、アメリカの有権者への約束は尊重するとトランプを追い込まない。

BBCニュース – トランプ氏の「握手外交」 マクロン氏は放さず

エマニュエル・マクロン仏大統領は28日、ドナルド・トランプ米大統領と交わした強力な握手は「罪のない」ものではなく、決定的な正念場を意味する「真実の瞬間」だったと述べ、意図的な「握手合戦」だったと示唆した。

両大統領は5月25日にブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の前に会談し、固い握手を交わした。

トランプは相手を屈服させるかのような手荒い握手をするが、マクロンは関節が白くなるほど思い切り力を込めて、トランプが先に手を離そう落としても離さなかった。2人の指の関節が白くなり、首脳外交版のデスマッチだといわれた。のちに、マクロンは、意図的に全力で握り、ただの無邪気な握手ではなかったことを明らかにしている。

マクロンが対等な立場にあるぞとトランプにアピールし、それを世界に対しても可視化して見せたのである。

しかし、マクロンは実業界にいたことがあるので、現実主義者である。その点でトランプとは「合う」要素があるとみられてきたし、これまでの経歴からしても「おじいちゃん殺し」といわれていたが、そのとおりになっている。

マクロンは突然、7月14日のフランス革命記念日にトランプを呼んだのである。

このパリでのもてなしは、外交の教科書のようだ。威厳を示しつつ相手を喜ばせることに全力を挙げている。

マクロンはトランプとの会談の直前にメルケル独首相及び閣僚たちと会談。ドイツとの固い絆を背景にトランプと相対することを演出。

トランプもマクロンも何かと言えばナポレオンにたとえられるからアンバリッドのナポレオン廟詣りで始めた。BBCは「民衆主義の限界にも思いをはせただろうか」と皮肉。パリでモデルをしていたこともあるメラニア夫人をノートルダムやネッケル小児科病院(うちの子も何かとお世話になっていた)に案内して「凱旋」を演出する心配り。メラニアさんもちょっとフランス語を披露。

パリ協定では「選挙公約だから仕方ない」としつつも「話し合いは続けよう」と現実的対応したり、アサド政権を排除しないことを言明して現実政治家ぶりを演出し、トランプの外交的成果を与える。

エッフェル塔のレストランで世界一のシェフがトランプ好みの夕食

そして、エッフェル塔三階『ジュール・ヴェルヌ』でのディナーのシェフは現代最高峰のアラン・デュカス(彼が初めて三つ星を採った1990年にモナコのレストランに行ったときは半分イタリア料理のようだったのを憶えている)。

メニューは英語のを掲げておく。アメリカ人にも分かりやすい献立のようだ。また、アルコールを嗜まないトランプに合わせているようでもある。

アラン・デュカスはいろんなタイプのレストランを経営して、なかには、ダイアナが最後の夜を過ごそうとしながらパパラッチが来てたのでキャンセルした『ブノワ』のような古いビストロまであって、クラシックなメニューをモダンな味付けでというのも得意だからそういうことらしい。

•Selection of pate
•Tomato, eggplant, zucchini
•Dover sole, spinach, Hollandaise
•Filet of beef, brioche with foie, souffle potato, truffle sauce
•Warm strawberry with yogurt sorbet
•Hot chocolate souffle with chocolate ice cream

革命記念日祝典でのトランプ

フランス革命記念日のパレードとセレモニーを本当にはじめてインターネットを通じたテレビ中継で最初から最後まで見た。私自身は1980、81、90、91、92年はシャンゼリゼで見またが、テレビでは初めてというわけだ。行進は凱旋門から始まってコンコルド広場で終わる。

トランプ大統領を招いてもうひたすら仏米の絆を強調。パレードの先頭は、いつもは、ポリテクニーク(国防省理工科学校)の学生がナポレオン風の制服で行進するが、今年はアメリカ軍のカンサスの部隊。百年前の第一次世界大戦のときに参加した部隊だそうだ。

最後には、アメリカ国歌とラマルセイエーズが演奏され、巨大なsoerni三色旗と星条旗がコンコルド広場に広げられ、マクロンが第一次世界大戦でのアメリカ軍の参戦を感謝する大演説。そして、フランス人と世界に向けてフランス革命の理念を高らかに宣言しトランプは引き立て役とまあよくやるといったところ。

それにしてもマクロンのボディー・ランゲージは凄い。トランプの背中に手を回し、ポンポンと叩きながら、威厳を崩さない。 桂太郎のニコポン(にこにこと笑いながら背中にてをまわしてぽんと叩き人たらしをした)そのものでもある。

客をもてなしながら、世界に朝貢してきた、あるいは、ベルサイユを訪れて圧倒されてとまどうヨーロッパの君主のごとく見せてしまうイメージ。このイメージが、各国、とくにヨーロッパ各国で大きく扱われ、いかなる演説より、いまやマクロンがヨーロッパを代表する政治家であることを印象づけた。

トランプのツイッターからもフランス訪問についてのいくつかの投稿を見ることが出来る。革命記念日を英語ではバスティーユ・デーというようだ。料理の内容は何も書かれてない。やっぱりケチャップかけないとダメなのか?

Honored to serve as Commander-in-Chief to the courageous men and women of our U.S. Armed Forces. A grateful nation thanks you!

Thank you for inviting Melania and myself to such a historic celebration in France. #BastilleDay

Just landed from Paris, France. It was an incredible visit with President @EmmanuelMacron. A lot discussed and accomplished in two days!

Left Paris for U.S.A. Will be heading to New Jersey and attending the
#USWomensOpen, their most important tournament, this afternoon.

Great conversations with President @EmmanuelMacron and his representatives on trade, military and security.

The United States mourns for the victims of Nice, France. We pledge our solidarity with France against terror.

It was a great honor to represent the United States at the magnificent #BastilleDay parade. Congratulations President @EmmanuelMacron!

Great evening with President @EmmanuelMacron & Mrs. Macron. Went to Eiffel Tower for dinner. Relationship with France stronger than ever.

Great bilateral meetings at Élysée Palace w/ President @EmmanuelMacron. The friendship between our two nations and ourselves is unbreakable.

President @EmmanuelMacron,
Thank you for the beautiful welcome ceremony at Les Invalides today!

Melania and I were thrilled to join the dedicated men and women of the @USEmbassyFrance, members of the U.S. Military and their families.

Just landed in Paris, France with @FLOTUS Melania

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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