Tビル利回り上昇、債務上限引き上げ交渉失敗を先取り?

2017年07月23日 13:30

バロンズ誌、今週のカバーは金融規制改革を取り上げる。トランプ米大統領は2月3日に米大統領令で金融規制改革を促し、下院は6月8日、金融規制改革案である金融選択法案(CHOICE)を可決、財務省は2月の米大統領令に合わせドッド・フランク法廃止を求める提示案を送付した。7月10日に、トランプ米大統領は銀行規制担当の米連邦準備制度理事会(FRB)副議長を指名。金融規制の緩和に向け、トランプ政権は着実にステップを踏んでいるように見える。規制緩和に向けたトランプ米大統領の目的は、中小企業への融資促進だ。銀行融資と米国の国内総生産(GDP)は高い相関関係があるため、融資が伸びれば成長加速も夢ではない。カンファレンス・ボードの予想では2017〜18年の成長率は2%付近に過ぎないが、フーバー・インスティチューションが公表したFRB議長候補3人による成長率3%説にも、現実味が帯びて来る。あとは金融機関のボーナス制度を変更すれば、さらに成長を押し上げる可能性が高まるだろう。カバーの一連の内容は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラム・アップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は債務上限引き上げ交渉を前に上昇するTビル(米国財務省短期証券)に注目する。抄訳は、以下の通り。

Tビル利回り上昇、債務上限引き上げ交渉の懸念で—T-Bill Yields Edge Up on Debt-Ceiling Anxieties

交通事故現場の傍で脇見運転するドライバーのように、米株相場は米政府の債務動向を無視している。ただし、金融市場の一角は反応し始めた。

トランプ米大統領は任期6ヵ月を経て何の政策も打ち出せていないが、米株相場は過去最高値を更新した。トランプ米大統領がロシアゲートをめぐる捜査から身を引いたセッションズ司法長官に異例の苦言を呈しようが、モラー特別捜査官がトランプ米大統領のビジネスを始め、クシュナー上級顧問など周辺の人物についてロシア政府との関与を捜査する見通しと報じられようが、どこ吹く風。ヘッジファンド創業者のスカムラーチ氏の報道官就任が内定し、別の職務を提示されたスパイサー報道官が辞任を決意したとのニュースにも、反応薄だ。

トランプ米大統領は、自身が就任してからの米株高をニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで誇らしげに語っているが、海外株のパフォーマンスを見てほしい。欧州やアジアでは、高値を更新してきた。例えば日経225は2016年8月から25%も上昇し、52週平均に近い(ただし、1989年につけた最高値からは依然として48%下回る)。インドのSENSEXも前週に過去最高値を達成した。上海総合のみ2016年8月の安値から9.6%上昇した程度にとどまるが、それでも過去5週間で3.7%上昇している。エマージング株も急伸中で、独DAXや仏CAC、英FTSE100などの欧州株は今年の春に高値をつけ、その後も高値圏を保つ。

”米国を再び偉大な国に(Make America Great Again)”と題したスローガンが奏功しただけでなく、低金利と世界成長の回復、緩和的な金融政策、そしてドル高が世界全体の株式市場を支えたに違いない。インフレ鈍化を受け、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測が再び後退し、米国の指導力低下もドル安に拍車を掛けているのだろう。

ドル売りの動きに合わせ、Tビルから資金が流出しつつある。10月半ばから後半に償還を迎えるTビルの利回りは、その他と比較し大幅に上昇中だ。マネーマーケットは債務上限引き上げだけでなく予算でも交渉の決裂を予想、10月1日の政府機関閉鎖を見越して資金を引き揚げつつある。2011年の債務上限引き上げ交渉の膠着と、S&Pによる格下げが脳裏に浮かんでいるに違いない。当時との違いを挙げるなら、上下院の議席数だ。2011年は民主党が上院を、下院を共和党が多数を握るねじれが生じていたところ、今は共和党が両院で過半数を握る。

Tビルの利回り、トランプ政権発足前から株高を受けて上昇気流に乗る。
Tbill
(出所:Federal Reserve of St. Louis)

しかし医療保険制度改革(オバマケア)の代替案が進展しない状況をみれば、債務上限交渉の決着は困難と市場が判断してもおかしくない。JPモルガンは、レポートでこう指摘する——「米議会は債務上限引き上げ交渉を休会明けの9月に始める見通しだが、Tビルが既に技術的な債務不履行を予想している状況は異例だ」。3ヵ月物のTビルが1.172%と、6ヵ月物を6.9bp上回る水準で推移しているのは、確かに異例と言えよう。

ホライゾン・インベストメンツで主席グローバル・ストラテジストを務めるグレッグ・バリエール氏は、付帯条件を求めない上院と歳出削減や均衡予算などの付帯条件を求める下院とで衝突し、土壇場での打ち切りを見込む。仮に合意に到達しても、例えばライアン下院議長がペロシ下院院内総務に支援を求めれば、前任のベーナー下院議員のように批判の矛先を向けられ右派との対立を招く可能性が高い。

来週は、25〜26日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を控える。モルガン・スタンレーによると、3月以降の米株高やドル安などは金融市場に125bpの利下げ効果を与えた。確かにiシェアーズ iBoxx 米ドル建てハイイールド社債 ETF(HYG)は52週高値を更新。VIX指数も9.31で前週末を終え、1993年12月22日以来の低水準を記録した。

その一方で、インフレはFedの目標値である2%を下回り続けている。2017年末の利上げ織り込み度も、39.2%に過ぎない。米株や米債の価格動向を踏まえれば、違った数字になっていたに違いない。いずれにしても、今回のFOMCでトランプ米大統領が指名する後任者が入ってくる2018年2月以前にどんな道筋を整えるのかを示す可能性は低い。


コラム執筆者のランダル・フォーサイス氏、今回はTビルに視点を変えて米株高の不当性を突いてきました。確かにTビルは直近の米債利回りとは逆に上昇傾向を続け、市場でも話題になっています。本来はリスク回避相場で現金の役割を果たし資金が流入しがちですが、債務上限引き上げ交渉で決裂となれば短期証券の支払いに支障が出ること必至ですから、想定内の成り行きですよね。2011年8月の債務上限引き上げ交渉決裂直前の時、あるいは2013年10月の政府機関閉鎖が決定する直前にも、Tビル利回りは確かイン上昇していました。ただし共に直前の1週間で上昇が顕著となっており、交渉前の段階での利回り上昇は、JPモルガンが指摘するように確かに”異例”と言えます。米株相場をはじめリスク資産は過剰流動性を手掛かりに調整の兆しを見せていないものの、Tビルの動きをみると足の早い短期資金が流入しているに過ぎないと考えられる。相場が崩れる時には、ハリケーンより一気に時価総額を吹き飛ばす勢いで資金を流出させかねません。

(出所:Misha Popovikj/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年7月22日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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