金融緩和で雇用が回復という理屈はおかしい

7月19、20日に開催された日銀の金融政策決定会合における主な意見が28日に公表された。このなかから気になったところをピックアップしてみた。

「現在の金融政策を続けていけば、失業率がさらに低下し、需給ギャップのプラス幅が拡大するもとで、物価は経験則に沿って上昇していく。需給ギャップと物価の関係には半年ほどのラグがあるので、需給ギャップの値が変わらなくても、物価は上がっていく。現実の物価が上昇すれば、予想物価上昇率が高まり、それがさらに現実の物価を上昇させるメカニズムも存在する。」

現在の金融政策が失業率を低下させているという前提であるが、緩和環境が雇用の改善に対して影響がないとまでは言わないまでも、金融政策によって雇用が改善しているわけではない。そもそも日銀の金融政策の目的には雇用はうたっておらず(FRBは目標に含む)、物価の安定が目的のはずであり、金融政策により物価目標を達成することで雇用の改善も図られるというものがシナリオではなかったのか。物価が上がらず雇用だけが回復するというのであれば、その要因としては金融政策以外の要因が大きいとみるのが妥当ではなかろうか。

物価の経験則も意味がわからない。需給ギャップと物価の関係には半年ほどのラグがあるというのも、元々は金融緩和と物価のギャップのはずであり、すでに異常な緩和を続けて4年経つが、どれだけラグがあるというのであろうか。

「物価が弱めの動きとなっている主因は、2014年の消費税率引き上げ後の消費の回復が弱いために、企業が、人手不足により人件費が増加する中でも、価格を引き上げることができずにいることである。2%の「物価安定の目標」の達成のためには、消費拡大により需給ギャップを改善し、企業の価格設定行動を強気化していく必要がある。」

消費の低迷を単純に2014年の消費税率引き上げによるものと決めつけるべきではないし、その影響がここまで継続するとみるのもおかしい。消費の伸びの鈍化も消費増税以外の要因によるものとみるのが普通ではなかろうか。そもそも消費増税で金融緩和の効果が削がれ、物価上昇も消費回復も阻害されたものの、雇用については金融緩和によって、まれにみる回復を遂げているとの認識は明らかにおかしい。

「「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」には、時間はかかるものの、需給ギャップを確実に改善し、消費も拡大させるメカニズムが組み込まれている。2%の「物価安定の目標」が持続的に達成されるまで、この政策を続けるべきである。」

すでに4年という月日が流れており、時間が掛かりすぎと言うより、異次元緩和にはそのようなメカニズムが組み込まれていないと見た方が素直ではなかろうか。あくまで非伝統的手段を含む異常ともいえる金融緩和は、物価対策などではなく、世界的な金融経済危機に対する市場の不安除去機能が重視されていたものであった。それを危機が後退するような時期にはじめてしまった日銀の異次元緩和は、むしろ金融緩和による直接的な効果に対し疑問を抱かせるものとなってしまっているようにもみえる。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年8月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。