急性骨髄性白血病の新薬エナシデニブ+融合細胞を利用した免疫療法

トランプ政権は、相も変わらず、理解不能だ。10日前に任命された広報部長が辞任した(というより、解任された)。下品な言葉で他人を罵倒していたので、解任される可能性を前回のブログで指摘したが、思いの他、解任まで短かった。有事の際、米国がまともな対応ができるのかどうか、はなはだ疑問だ。

…..と政治ネタはこのくらいにして、医学の話題を提供したい。

8月1日に、急性骨髄性白血病に対する分子標的治療薬エナシデニブが米国FDAによって承認された。対象となるのはイソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(isocitrate dehydrogenase-2、IDH2)と呼ばれる遺伝子に異常を持つ白血病患者である。イソクエン酸デヒドロゲナーゼ2は細胞内のエネルギー産生に重要な役割を果たしており、この遺伝子異常ががん細胞が必要とする大量のエネルギー産生に重要な役割を果たしていると考えられる。

再発もしくは薬剤耐性で、かつ、IDH2遺伝子に異常を持つ、急性骨髄性白血病患者199名に対する臨床試験の結果、この薬剤が承認された。白血病細胞が消失し、血液学的検査でも完全に回復したと考えられる 場合(complete remission or CR)と白血病細胞が消失しが、血液の成分が完全には回復していないと考えられる場合 (complete remission with partial hematologic recovery or CRh)が評価された。

少なくとも6カ月治療を受けた患者の19%がCRとなり(CR期間の中央値8.2ヶ月)、4%がCRhと判定された(中央値9.6ヶ月)。治療開始時までに、全血輸血や血小板輸血を必要とされた 157名の患者の内、34%は治療開始後輸血を必要としなくなったと述べられていた(期間は不明)。頻度の高かった副作用は、吐気、嘔吐、下痢、ビリルビン値の上昇、食欲低下であった。

新薬開発の流れは続く。

そして、今日は、「がん細胞と樹状細胞を融合した細胞を利用した免疫療法」に関するセミナーがあった。私はこのアプローチに対しては懐疑的であるが、示された結果は興味深かった。結果は結果として、客観的に評価すれば将来性は高い。しかし、科学的、理論的に腑に落ちない部分は消え去らない。がん細胞を丸ごと飲み込んだ樹状細胞の表面に提示されるがん特異的抗原の数が限られるからだ。

がん細胞の中では1万種類以上の遺伝子からたんぱく質(100億分子程度?自信はない)が存在している。これがプロテオソームで分解され、膨大な数のペプチドが生じ、その内、HLA分子と結合力の高い分子が表面に抗原として提示される。したがって、運よく、がん特異的抗原が樹状細胞表面に提示される可能性は、限りなく低い気がするのである。気がするというのは科学的ではなく、科学的に考えるという前提とは矛盾するが。もちろん、ネオアンチゲンやオンコアンチゲンなど、ひとつひとつが抗原として提示される数は少なくとも、すべてを合計するとたくさんの抗原が提示され、多種類の細胞傷害性リンパ球が誘導され、がんを攻撃するリンパ球が十分な数まで増えている可能性は否定できない。

しかし、可能性が広がる事はいいことだ。演者が最後に「がん患者の延命ではなく、治癒を目指すためには、いろいろな手段を組み合わせる必要がある」と言っていたが、その通りだ。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年8月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。