【GEPR】河野外相で日米原子力協定は変わるか(更新)

2017年08月04日 13:30

就任記者会見に望む河野外相(外務省サイト:編集部)

今度の改造で最大のサプライズは河野太郎外相だろう。世の中では「河野談話」が騒がれているが、あれは外交的には終わった話。きのうの記者会見では、河野氏は「日韓合意に尽きる」と明言している。それより問題は、日米原子力協定だ。彼はこう答えている。

原子力協定につきましては,来年の7月16日に30年の期間が終了するわけでございますが,これはそのまま失効するわけではなく,日米どちらかが終了を通告しないかぎりは続くわけでございます。原子力協定が今の我が国の原子力利用の一つの基盤であることを考えますと,政府内,あるいは日米の緊密な連携をしながら協定のあり方を含め考えていかなければならないと思っております。

従来の日本政府の方針は「無条件に延長」だが、「協定のあり方を含め考える」というのは、ここから少し踏み出した印象を受ける。産経によると「いろんな事を考えていかなければならない。使用目的のないプルトニウムは持たないというのが世界共通のことだ」とも言ったらしい。

日本から協定を破棄することはありえないが、「使用目的のないプルトニウムは持たない」という前提から考えると、高速増殖炉(FBR)が頓挫した日本で余剰プルトニウム47トンの使用目的を説明することは至難の業である。当面はプルサーマルしかないが、今はまったく稼働していない。これから3基稼働するとしても年間に消費できるのは1トン程度で、使用ずみ核燃料の増加に追いつかない。

さらに問題なのは、再処理のコストが直接処分より大きいことだ。これを電力会社(最終的には電力利用者)の負担に換算すると、次の表のように(FBRが予定どおり動くとして)全量再処理が約1.6円/kWhに対して全量直接処分が約1円/kWh。今後60年間に25兆kWh発電すると想定すると、全量再処理のコスト40兆円に対して全量直接処分が25兆円。その差は15兆円にのぼる。

使用ずみ核燃料のkWh単価(原子力委員会の試算 割引率2%)

プルトニウムが未来のFBRの燃料となるのなら、この15兆円は「投資」とみることもできるが、その道は絶たれた。それに代わる技術としては高速炉(IFRなど)があるが、まだ実験段階で、実用化するとしても2050年以降だろう。そこまで大量のプルトニウムを生産し続けた末に(FBRのように)頓挫したら、にっちもさっちも行かなくなる。ASTRIDのように使用ずみ核燃料の体積を減らすだけの技術は意味がない。最終処分地は十分あるからだ

考えられるもっとも簡単な解決策は、全量再処理の原則をやめて一部を直接処分することだ。使用目的のないプルトニウムはもたないのだから、いま保有しているプルトニウムのうち、海外にある37トンは回収せず、国内にある10トンはアメリカに引き取ってもらう。

六ヶ所村の再処理工場は動かしても採算がとれないので、凍結するしかない。関係者によると、今のままでも稼働は2年以上先で、無期延期になるおそれが強い。それを存続させているのは「資産」として保有している使用ずみ核燃料が「ゴミ」になると、電力会社の経営危機に発展するからだ。

いま日本にある使用ずみ核燃料1万7000トンの資産価値は約15兆円(2012年原油換算)だから、これがすべてゴミになると(使用ずみ核燃料を保有する)電力会社は大幅な減損処理が必要になり、弱小の会社は債務超過になる。これが関係者の最大の懸念だが、単なる会計処理の問題である。

全量再処理の原則をやめる場合には、使用ずみ核燃料を引き続き資産として計上しつつ毎年少しずつ分割償却する制度を導入すればよい。これは廃炉の処理で導入されたのと同じで、固定資産税は軽減され、法人税の支払いも減る。これによって電力会社の(将来にわたる)税負担は数兆円単位で軽減される。

いずれにせよキャッシュフローは今も大幅な赤字であり、核燃料サイクルに埋没した費用の大部分は救出不可能だというのが関係者のコンセンサスである。これは原発の是非とは別の問題であり、このまま「核のゴミ」について曖昧な方針を続けると「トイレなきマンション」といった誤解が蔓延し、原子力の利用そのものが行き詰まるおそれが強い。

「不良資産」になった使用ずみ核燃料に固定資産税を払い続けるのは、経営的にも不合理である。税の軽減については批判も予想されるが、原発の停止で経営の悪化している電力会社が過大な納税を続けることは好ましくない。負担を軽減するインセンティブを政府が与えれば、電力会社が合理的な処理方法を考えるだろう。

日米交渉の山場は、今年末である。今のところアメリカ側から協定を打ち切る意向はないようだが、余剰プルトニウムをどう処理するのか、合理的な説明を求められよう。現在の方針を長期にわたって維持することは困難であり、関係者が話し合ってソフトランディングの道をさぐるべきだ。この時期に原子力行政にくわしい河野外相が誕生したことは、事態打開のきっかけになるかもしれない。

追記:関係者の指摘を受けたので訂正し、会計処理の問題について大幅に補足した。六ヶ所村にある使用ずみ核燃料は電力会社の資産なので、日本原燃は債務超過にならないが、電力会社の資産が大幅に減価する。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑