EVの最大の問題はバッテリーじゃない

2017年08月17日 11:30

出典:Wikipedia 日産・リーフ

2017年の夏、EVに関するニュースが相次いでいる。7月6日にフランスのマクロン政権が2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止する方針を発表し、大国で初めて明確なガソリン車禁止を決めたと話題になった。

フランスに負けじとか、その直後にイギリス政府も2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止する方針を明らかにした。

このまま世界的にEVシフトが進んでいくとの論調が強い中、池田信夫氏が興味深い記事を掲載された。

電気自動車は「エコ」か「エコノミー」か(GEPR)

池田氏は記事の中で「今のところEVはガソリン車に比べてエコノミーではない」と書かれ、安易なEVシフトに警鐘を鳴らされている。

それに対して、「300km走行できれば十分実用的」「EVの方が環境に優しい」「バッテリー性能がUPすれば問題は解決」と反対する意見を見た。

私もバッテリーの技術革新にはまだまだ可能性があると思っているし、「電気」という汎用的なエネルギーで走行するEVの方があらゆるシーンで使い勝手が良いと思う。

しかし、EVの最大の問題はバッテリーの性能では無い。それは「充電」である。

バッテリーの性能がUPすればするほど、充電インフラ整備の問題が圧倒的な課題になって立ちはだかってくるだろう。

日本の自動車メーカーが惑う次世代自動車

EVシフトを鮮明にした欧州だけでなく、アメリカもEVには力を入れている。カリフォルニアでは排ガス規制を強化し、ガソリン車は苦境に立たされている。電気自動車メーカーのトップランナーであるテスラモーターズも絶好調であり、最新モデルのセダンタイプ・モデル3は普及価格帯と言える300万円台で販売している。

欧米を中心にEVシフトが明確になっていく中、自動車が最大の産業である日本の動向ははっきりとしない。トヨタはHV・PHVに力を入れながら、次世代の主力を燃料電池車(FCV)と位置付けてきたが、最近になってEV開発にも力を入れているようだ。

日産はリーフに代表されるようにEV開発で先行しているが、マツダは世界初の圧縮着火を実用化した次世代エンジン「SKYACTIV-X」を発表し、さらなる高効率ガソリンエンジンの開発に力を入れている。

では、日本に住むユーザー視点としてはどちらが有利だろう?

ユーザー視点では、EVのランニングコストは安い

池田氏が指摘するように、EV車の性能はまだまだガソリン車に及ばない。ガソリン自動車は燃費20km/Lとして走行距離800kmは可能だが、EVは日産・リーフの大容量モデルで走行距離280kmである。これでは長距離の旅行は心もとないし、日々の充電も面倒である。

だが、コスト視点ではかなりEVが有利だ。ガソリン車はガソリン価格を130円/Lとすると、6.5円/kmとなる。

EVは家庭で充電する場合、電気代は30円/kWhほどである。リーフの大容量モデルは30kWhのバッテリーである。そのため、80%充電としても720円。つまり、2.6円/kmとなる。

池田氏は「電池のコストを含む所有コストで考えると、EVは2倍以上である」と指摘されている。この計算は正しいが、現在、10万kmまではメーカーがバッテリーの無料交換を保証している場合が多く、ユーザーの負担は発生しない。

さらに、自動車販売店に備え付けの急速充電器を使用する場合は、充電器が無料になったりするサービスもある。現状、ユーザー視点でのランニングコストではかなりEVが有利と言って良い。

この数字を見ると、「やっぱりEVはエコじゃないか。このまま日本は全面的にEVシフトをするべきだ」と思った人もいるだろう。だが、私も池田氏と同じで、結論は「まだEVには課題が多く、普及にはハードルが高い」と考えている。

それは「充電」の問題である。

EVの充電はドライヤー60個に相当。発電所がダウンする?

EVの最大の問題は、充電のための負荷である。

日産・リーフの大容量モデルは30kWhのバッテリーを搭載している。これを家庭の100Vコンセントで充電する場合、1時間で充電できるのは1500Whが限界である。なぜなら、流せる電流が最大で15Aだからだ。これは安全上、絶対にこれ以上は上げられないし、上げたら一般家庭用ブレーカー(30A)がダウンする。

15Aといえば、ドライヤー(1000W)と電子レンジ(500W)を同時に動かしているのと同じだ。どれだけの負荷かわかるだろう。流石にこれは厳しいので、200Vの充電環境を導入するとしよう。それでも3000Whが限界であり、充電を11時間続けてようやく80%だ。

もっとも専用の急速充電ならば、30分で済む。しかし、これは6万W(200V・300A)の充電設備を必要とする。これは1000Wのドライヤー60個に相当する。「EVの充電設備が足りないなら、コンビニで充電すれば良いじゃない」と思った人もいるだろうが、そうホイホイと導入できるものじゃない。

さらに、仮に急速充電設備が普及したとして、みんながEVに乗り換えたらどうなるだろう?

現在の日本の自動車保有台数は約8000万台である。この半分の4000万台がEVにシフトしたとしよう。

年間の平均走行距離を5000kmとした場合、1年で約20回の充電が発生する。平均すると、1時間で9万台が充電している計算だ。

つまり、平均でも270万kWの電力消費がEVの充電で行われることになる。土日や行楽シーズンならば、さらに上回って1000万kWに達してもおかしく無い。そして、この電力需要の多くは首都圏や関西圏の都会で発生する。

この数字は圧倒的だ。2011年以降問題になっている電力需給の逼迫でも、ピークの最大電力需要は東京電力が約5000万kW、関西電力が約2000万kWである。

そのため、EVの普及は既存の発電所では対応できない可能性がある。原子力発電所が再稼働したとしても、1基の出力は100万kWがやっとだ。例えば、関東で全国平均の1/5、200万KWhの充電が発生したとすると、原子力発電所2基に相当する。

この数字は大きい。東京電力でも簡単に対応できる電気需要では無い。2011年に原子力発電所が停止し、電気が不足して輪番停電に追い込まれた事を思い出せばわかるだろう。

日本ではガソリン車が主役のままだろうが、技術革新には期待

このようにEVの普及の最大の壁はバッテリーではなく、充電設備である。

バッテリーならば、テスラが100kWhのバッテリーを搭載し、613kmの走行距離を達成している。また、トヨタが現行のリチウム電池の2倍の容量を備え、フル充電も数分で済む全固体電池搭載のEVを2022年に国内発売すると発表された。

しかし、いずれも充電の困難さは全く解決していない。

大容量のリチウム電池ができたとしても、巨大な電気需要を発生させた上で充電に30分以上掛かる。ガソリンのフル給油が数分で済む事を考えれば、まだ利便性に劣る。

全固体電池で数分で充電できたとしても、その充電設備は100万W以上の出力という非現実的な数値になってしまう。こんなものが一斉に稼働すれば、街ごと大停電になってしまう。

これを解決するためには、民間の対応では不可能である。原子力発電所を新設してさらなる電力供給力をUPしたり、送電設備を抜本から高性能なものに置き換える必要がある。

現状の日本の電力産業を見ると、しょぼい太陽光発電に注力した結果、買取価格がちょっと下がっただけで倒産が頻発したり、原子力発電所の再稼働も遅々として進まない。ちょっと非現実的に思える。

従って、私は日本の充電環境を考える限り、充電式のEVはそれ程普及しないと思う。どっちにしても、日本企業はそんなに簡単に方針転換できないものだし、ガソリン車の改善に賭けるのが正解に感じる。

もっともEVに技術革新の余地が大きいのは確かだ。モーター駆動はプログラムでの制御が容易であるため、自動運転との相性も高い。各社には是非とも革新的なEV・バッテリーの開発を進めて欲しいとも思う。

例えば、充電式ではなく、交換式のバッテリーが実用化したらどうだろう?充電残量が空になったら、ガソリンスタンドでバッテリーを丸ごと交換するのだ。こういった技術が可能になれば、充電の待ち時間や電力供給といった課題は解消されるかもしれない。

参照:Zuu online毎日新聞NewsweekAUTOCAR日産・リーフ自検協中日新聞

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宮寺達也 パテントマスター/アゴラ出版道場一期生
プロフィール
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。


編集部より:このエントリーは「パテントマスター・宮寺達也のブログ」2017年8月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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宮寺 達也
パテントマスター/アゴラ出版道場一期生

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