検察は籠池氏を詐欺罪で起訴してはならない

2017年08月18日 23:00

FCCJ会見動画より(編集部)

大阪地検特捜部が籠池氏夫妻を逮捕した翌日に出した8月1日のブログ記事【検察はなぜ”常識外れの籠池夫妻逮捕”に至ったのか】は、その逮捕事実が、今年3月下旬に大阪地検が告発を受理した「補助金適正化法違反」の事実と同じで、森友学園が受給していた国土交通省の「サスティナブル建築物先導事業に対する補助金」の不正受給であったこと、大阪地検は、国の補助金の不正受給の事実を、「詐欺罪」に当たるとして逮捕したのだということを知り、それがいかに「検察実務の常識」に反するかを書いたものだった。

詐欺罪と補助金適正化法29条1項の「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受ける罪」(以下、「不正受交付罪」)は「一般法と特別法」の関係にあり、補助金適正化法が適用される事案について詐欺罪は適用されないというのが、従来の検察実務の常識であった。また、逮捕に至る経過からして、実質的に「罪証隠滅のおそれ」があるとも思えず、いずれの面からも、籠池夫妻の逮捕は、検察実務からすると「常識外れ」と思えた。

逮捕直後だったこともあり、このブログ記事に対しては大きな反応があった。ツイッター、ブログの閲覧数等のネットを通しての反響も非常に大きく、また、週刊誌メディアを中心に多数の取材・問合せを受け、可能な限り対応した。

こうした籠池夫妻逮捕について「検察実務の常識に反する」とする私のブログに対して、ツイッター等で、判例や学説を挙げて、「詐欺罪の適用もあり得るのではないか」との反論もあった。また、新聞記事には、「詐欺罪で逮捕した理由」についての検察サイドの説明も出ている。

こうした指摘を踏まえ、補助金適正化法の立法の経緯、裁判例、学説等も可能な限り調べた上で、国の補助金の不正受給の事案に詐欺罪を適用することの当否について再検討してみたが、国の補助金の不正受給に対して詐欺罪を適用することは、検察実務としてあり得ない、という結論に全く変わりはない。

籠池夫妻は、その後、逮捕事実と同じ事実で勾留され、勾留期間が延長されて、8月21日が勾留満期と報じられている。

2010年に、村木厚子氏の事件をめぐる大阪地検の不祥事等を受けて法務省に設置された「検察の在り方検討会議」に委員として加わって以降、検察改革の問題に私なりに関わり、国会の場も含め、様々な形で意見も述べてきた。しかし、検察の抜本改革は遅々として進んでおらず、社会的信頼が回復されたとは到底言えない状況にある。

籠池氏が理事長を務めていた森友学園の事件に関しては、近畿財務局側も森友学園に対する国有地売却をめぐる背任罪で告発されており、その捜査・処分の結果如何では、籠池夫妻逮捕・起訴に対して、重大かつ深刻な検察批判が起こりかねない。そのような状況において、その籠池氏に対して、敢えて、「検察の常識に反する起訴」を行うことは、致命的な事態になりかねない。検察にとって、本当の正念場である。

補助金適正化法の立法経緯と検察の実務

補助金適正化法(以下、「適化法」)は、昭和30年に制定されたものだが、国会審議でも、詐欺罪と同法29条1項違反の罪との関係についての質問に対して、政府委員の村上孝太郎大蔵省主計局法規課長は、

偽わりの手段によって相手を欺罔するということになると、刑法に規定してございます詐欺の要件と同じ要件を具備する場合があるかと存じます。しかしながら、この補助金に関して偽わりの手段によって相手を欺罔したという場合には、この29条が特別法になりまして、これが適用される結果になります。

と答弁しており、同氏が著した解説書でも、同法違反の「予定する犯罪定型は、補助金等に関して刑法詐欺罪の予定する定型を完全に包摂しており、又本条第1項において刑法詐欺罪より拡大された部分も、国家の財産的法益を主として保護法益とする意味において、詐欺罪の構成要件を量的に拡大したものであって、本条は補助金等の特殊性に鑑み刑法詐欺罪の特別規定を設けたものである」(同村上「補助金適正化法違反の解説」)とされるなど、立法経緯からは、適正化法違反が詐欺罪の特別規定で、同法違反が成立する場合には、詐欺罪は適用されないという趣旨であることは明らかだ。

同法制定後の検察の実務でも、国の補助金の不正受給の事案に対しては、詐欺罪は適用せず、適化法違反で起訴するという実務が定着してきた(一方、地方公共団体が交付する補助金には、「間接補助金」に該当しない限り補助金適正化法の適用はないので、詐欺罪が適用される。)。

私も、検事時代、検察の現場で補助金不正受給の事件を相当数担当した。特に、1990年代は、不況で民間建築をめぐる競争が激化し実勢単価が値下がりして、公共工事単価と同レベルに維持されていた補助金単価とは大きくかい離していたため、社会福祉施設の建設に対する補助金で、実勢価格に基づく安い代金で契約する一方で、補助金単価で算定した代金に水増しした虚偽の契約書を作成して国に提出し、補助金を不正受給する事件が多発していた。施設の建設費の大部分が補助の対象となる社会福祉施設をめぐる事件では不正受給額が数億円に上っていた。社会福祉法人の経営者が不正受給した補助金を私物化していたケースもあった。しかし、それでも、補助金の不正受給の事案に対しては、詐欺罪ではなく、適化法を適用するというのが、法律上当然との前提で捜査・処分を行っていた。国の補助金に関する事件であれば、詐欺罪を適用することはなかった。

大阪地検は、なぜ籠池夫妻を詐欺罪で逮捕したのか

このように、検察の実務では、国の補助金の不正受給は、適化法違反で捜査・処分するのが当然とされてきたのに、大阪地検が、今回の籠池夫妻の逮捕において詐欺罪を適用したのはなぜなのか、

籠池夫妻逮捕直後の朝日新聞の記事【籠池氏、告発より重い詐欺容疑 特捜部「もろもろ検討」】では、

逮捕後の7月31日夜、取材に応じた大阪地検の山本真千子特捜部長は、両容疑者の行為について「詐欺、適化法違反の両方が該当するが、もろもろを検討し、詐欺容疑が適切と考えた」と述べた。

とされており、特捜部長が籠池夫妻の行為について、「詐欺、適化法違反の両方に該当する」と明確に述べているようである。

昭和41年最高裁決定は詐欺罪適用の「根拠」にはならない

学説においても、ほとんどが不正受交付罪は詐欺罪の特別規定だとする「特別規定説」を支持しており、通説となっている。一方で、国の補助金の不正受給についても、適化法の不正受交付罪ではなく詐欺罪を適用できるとする少数説が一部にはある。佐伯仁志氏「補助金の不正受給と詐欺罪の関係について」(「研修」七〇〇号)、星周一郎氏「詐欺罪と『詐欺隣接罰則』の罪数関係」(法学会雑誌53巻2号)である。それらの学説が重視しているのが、昭和41年2月3日の最高裁決定(判時438号6頁)の中で、両罪の関係について、「犯人側の為した行為自体は同一であり、相手方のこれに対応する態度の如何を構成要件の中に包含する罪とこれを構成要件としない罪とがある場合、検察官は立証の有無難易等の点を考慮し或は訴因を前者とし或はこれを後者の罪として起訴することあるべく」と判示していることだ。これを根拠に、国の補助金の不正受給に関して、検察官は、詐欺罪と不正受交付罪のいずれで起訴することも判例上許容されているとしているようだ。

しかし、この最高裁決定は、適化法が施行される直前の昭和30年に、被告人ら3名が国庫補助金を不正に受給しようと「共謀」し、同31年に施行された後に、それを実行して不正受給を行った事実を、検察官が適化法違反で起訴したことが「刑罰の不遡及」を定める憲法39条に違反するのではないかが争われた事案であり 国の補助金の不正受給に対して詐欺罪を適用した事案に対して判断を示したものではない。

同決定でも判示しているように「偽りの手段により国庫補助金の交付を受けようという詐欺の共謀をなし、その共謀に基づきそのうちの二名がその後右目的達成のため必要な行為を実行し所期の目的を達した」というのであるから、適化法が施行されることがなければ、詐欺罪で起訴され有罪になっていたと考えられる事案だ。共謀の時点と実行の時点の中間に「適化法の施行」があったために、検察官は、詐欺罪ではなく同法違反で起訴したのである。もし、詐欺罪と適化法違反とが「一般法・特別法」の関係ではなく、同法違反が成立する場合でも、検察官の裁量で詐欺罪での起訴が可能だというのであれば、検察官は躊躇することなく、詐欺罪で起訴したであろう。それを行わず、不正受交付罪で起訴したのは、検察官が、適化法が施行され、それに該当すると判断される以上、詐欺罪での起訴はできないと判断したからだと考えられる。

しかも、上記最高裁決定の判示は、当該事件についての判断の根拠とされたものではない、単なる「傍論」に過ぎず、一般的な検察官の訴追裁量権をここで確認的に判示した程度の意味しかないと見るべきだろう。

「間接補助金」に関する主張に対する裁判所の判断

実際に、既に述べたように、その後の検察の実務では、一貫して、国の補助金の不正受給については、詐欺罪ではなく適化法違反を適用してきたのであり、両罪の関係について、不正受交付罪が成立する場合には詐欺罪は適用できないことを大前提にしてきたと考えられる。また、最高裁も含め、裁判所も、同様の見解をとってきたと考えられる。

その根拠となるのは、国以外の団体が交付し、国が一部その資金を負担している金員を不正に受給した事例で、検察官が詐欺罪で起訴したが、弁護人が「適化法の『間接補助金』に該当するので詐欺罪は成立しない」と主張したのに対して、裁判所が、「『間接補助金』には該当しない」との判断を示して弁護人の主張を排斥した「ハンナン食肉偽装事件」(大阪地判平成17年5月11日)がある。最近、上告審判決が出て確定した「小豆島バス事件」【補助金を不正受給 小豆島バスの元社長の実刑判決確定へ】)でも同様の弁護人の主張に対して裁判所は「間接補助金に該当しない」との判断を示している。

「間接補助金」というのは「国以外の者が相当の反対給付を受けないで交付する給付金で、補助金等を直接又は間接にその財源の全部又は一部とし、かつ、当該補助金等の交付の目的に従つて交付するもの」であり、補助金適化法29条1項の罰則は、間接補助金の不正受給に対しても適用される。そこで、弁護人は、詐欺罪と補助金不正受給罪とが「一般法・特別法」の関係にあるとの前提で、「騙し取ったとされるのが『間接補助金』に該当するので、詐欺罪ではなく補助金適化法違反となる」という主張をしたのである。

もし、適化法違反の成否とは無関係に詐欺罪が成立するのであれば、弁護人の主張するように「間接補助金」に該当したとても、詐欺罪の成立が否定されることはない。裁判所は、そう判示して弁護人の主張を排斥すればよいはずである。しかし、これらの事例においても、裁判所は、当該補助金が「間接補助金」に該当しない(「相当の反対給付を受けないで交付する給付金」ではないので、詐欺罪が適用される。)と認定・判示を行って弁護人の主張を退けており、上告審の最高裁でも支持されている。

このことからも、裁判所が、最高裁も含め、詐欺罪と補助金不正受給罪との関係について、補助金不正受給罪が成立する場合には、詐欺罪は成立しないと判断していることは明らかである。昭和41年2月3日の最高裁決定の「傍論」を持ち出して、判例上、国の補助金の不正受給についても詐欺罪が適用できるとされているというのは、全くの筋違いだ。

補助金適正化法の「立法事実」とその後の状況変化

昭和30年に、補助金適正化法が制定され、それまでであれば詐欺罪に当たるような補助金不正受給を、詐欺罪の「10年以下の懲役」より軽い「5年以下の懲役又は罰金」の法定刑を定めた理由は何だったのか。同法案の国会審議で、前記村上政府委員は、

ともすれば何か村のため、県のためであれば、補助⾦を多少ごまかしてもそれは許さるべき⾏為であるという、ような⾵潮の多い点にかんがみまして、税⾦その他の貴重な資⾦でまかなわれておりますこの補助⾦というものが、正しく使われなければならないという⼀つの社会道義と申しますか、そういう観念を植えつけていく

と述べている。その当時、地方自治体の財政が窮乏する中、少しでも多く国の補助金の交付を受けて、自治体の事業を実施しようとして、虚偽の書類を提出したりする行為が横行し、それは、個人的利得を得ようとするものではなく、やむを得ない事情がある場合もあるので、「詐欺罪としての処罰」を行うような行為ではない、という評価が一般的だったため、処罰はほとんど行われず、言わば「野放し」の状態になっていたのであろう。そうした中で、刑法犯としての処罰ではなく、国の補助金の不正受給に対しては、法定刑を軽くした特別の罰則を設け、実態に即した制裁を科して、補助金の交付の適正化を図っていこうとするのが、立法者の意図だったものと考えられる。

そのような「立法事実」は、現在の状況には適合しなくなっているということは少なからず言えるであろう。当時のような、虚偽の書面を提出して国から補助金の交付を受けるような行為は、その主体が地方自治体であれ公的団体であれ、詐欺罪と同程度に厳しく処罰すべきというのが、現在の一般的な認識であるように思える。また、【前記朝日記事】でも書かれているように、「国でなく自治体の補助金を不正受給した方がより罪が重くなる」という処罰の不均衡があることも事実である。

検察は、法に則った権限行使をしなければならない

私も、現職検事時代に、社会福祉法人の経営者が、施設の建設代金を水増しして補助金を不正受給し、それを私物化するというような事案を多数捜査・処理した経験から、国の補助金の不正受給事案に対して詐欺罪と同程度に重く処罰すべきであるという意見について、決して否定はしない。

しかし、それを行うのであれば、適化法違反の罰則の法定刑を引き上げるか、詐欺罪の適用を明文で認める立法が必要である。検察が、従来の罰則の運用の前提となっている解釈を勝手に変えて、厳しく処罰することなど許されない。それが、法治国家における刑罰の運用である。

実際、同じように詐欺罪との関係が問題になる所得税、法人税等の逋脱犯(脱税)については、もともと法定刑が「3年以下の懲役」だったのが、段階的に「5年以下の懲役」、そして詐欺罪と同じ「10年以下の懲役」に引き上げられている。

今回の籠池氏の事件が、過去の国の補助金不正受給事案と比較して著しく悪質であり、適化法違反による処罰では軽すぎるというのであれば、検察として、何とかして重く処罰しようとすることも理解できないではない。ところが、今回の森友学園の事件で不正受給が問題とされた国の補助金は総額でも約5640万円、正当な金額との差額の「不正受給額」は、そのうち3分の2程度と考えられるので2000万円にも達しておらず、しかも、全額返還済みである。

籠池氏の事件は、むしろ、適化法違反としての処罰にすら値しない程度の事案であるとしか考えられない。そうであれば、むしろ、「適化法違反で、罰金刑ないし起訴猶予」というのが、本来行われるべき適正な処分である。

「日本版司法取引」の導入、盗聴の範囲の拡大等を内容とする刑訴法改正、共謀罪の制定など、捜査機関や検察の権限が大幅に強化される中、検察には、法に則った権限行使がこれまで以上に厳格に求められる。

籠池氏に対して、「けしからん奴だ」「悪質だ」などという理由で、本来、適化法しか適用できない事案を、詐欺罪で起訴するなどということが行われるとすれば、「厳正中立・不偏不党」を旨としてきた検察の史上に重大な汚点となるものだと言わざるを得ない。


編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2017年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。

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