ガソリン車はガラパゴス化したくてもできない

2017年08月19日 11:30

出典:Wikipedia

「EVの最大の問題はバッテリーじゃない」の記事で「EVの課題はバッテリーでは無く、充電インフラである」と問題提起させていただいてから、私の記事も踏まえながらEVの未来について多くの方が活発に議論をしており、筆者冥利に尽きている。

アゴラでも池田信夫氏が

【GEPR】革命的な変化は「ガソリン車からEVへ」ではない

という記事を掲載され、「カーシェアでエネルギー効率は8倍になる。カーシェアの普及こそ、次世代の自動車の本命である」と書かれ、EVではなくガソリン車が普及したままエコを追求する未来を提案された。

この記事に、民進党を離党された長島昭久氏が感想を述べてツイートされていた。

それでもEV&シェアリング・エコノミーの奔流には抗い得ないと思う。いくら公共交通機関が発達し、EVインフラ整備コストが高いとはいえ、エンジン車に拘泥すれば、日本はまたぞろガラパゴス化するばかりではないだろうか?これって、ジェレミー・リフキンの読み過ぎでせうか?

確かに近年の日本企業は、携帯電話(ガラケー)に代表される日本独自の規格やニーズにこだわり過ぎた結果、グローバル市場で敗北してしまう事例が相次いでいる。これが「ガラパゴス化」と指摘されている。

果たして、ガソリン車は携帯電話のようにガラパゴス化してしまうのだろうか?

携帯電話、液晶テレビ、ガラパゴス化で敗北した日本企業の歴史

知っている人にとっては耳にタコであろうが、一応、ガラパゴス化について説明しておこう。

ガラパゴス化とは日本独自の規格を採用したり、日本固有のニーズに基づいて商品を開発したりすることで日本の消費者を囲い込み、日本国内だけでしか見られない製品の進化を遂げる事である。

これが、南アメリカ大陸からおよそ900km離れたガラパゴス諸島で独自の生態系が発達した事をなぞらえて、「ガラパゴス化」と呼ばれるようになった。

代表的な製品はやはり携帯電話であろう。日本の携帯電話は90年代後半~00年代に掛けて独自の、しかし圧倒的な進化を遂げてきた。単なる持ち運べる電話を超え、i-mode、絵文字、写メール、高画質カメラ等々、圧倒的な性能と人気を誇ってきた。

しかし、グローバルなニーズへの対応が遅れた結果、iPhoneに代表されるスマートフォンに駆逐されてしまった。今ではスマホ以外の携帯電話を「ガラケー」などと呼ばれてしまう有様だ。

液晶テレビもガラパゴス化で敗北した。ISDBという日本独自のデジタルテレビ規格を採用(日本人からも文句が出ているが)しただけでなく、MEPG2-TS、B-CAS、地上RMP方式といった「誰が興味あんねん」という最低な仕様をモリモリした。その結果、「シンプルに安くて大画面な映像を観たい」というグローバルな需要に対応できず、世界での競争に敗北した。

しかも、液晶テレビの場合はシャープが潰れて鴻海に買収されるという、悲劇的な結末になってしまった。

自動車メーカーにおいても、グローバルなニーズは環境に優しいEVであり、日本企業がガソリン車に拘っていると携帯電話のように世界に置いて行かれてしまうという懸念の声は強い。これは本当であろうか?

ガソリン車はガラパゴス化する様子も無い、というかできない

私も日本企業の保守的な考えは、実際に11年働いていたのでよ~~~く知っている。日本は世界第3位の経済規模を誇る大国であり、人口も1億人を超える。よくわからない海外の需要を気にするより、勝手知ったる日本で売れる製品を考えればしばらくは安心だという発想は本当に根強い。

しかし、ガソリン車についてガラパゴス化を心配するのは違うと思う。それはEVのシェアが小さすぎるからだ。

2016年の世界の自動車販売は9,369万台であるが、その中でEVは約47万台、シェアで言うと0.5%である。もちろん、今後はさらに伸びていくのは確実だ。2035年には600万台を超えるという予測もある。

しかし600万台でも6%強であり、9,000万台近いガソリン車(HV、PHVを含む)の需要が残っている。日本の自動車メーカーが1年に販売する自動車の合計が約3,000万台であるので、仮に予想通りにEVが普及していったとしても、世界中のガソリン車の需要だけで日本の自動車メーカーはやっていける計算だ。

「EVは予想を超えて、爆発的に普及するかも」と思う人もいるだろうが、様々な制約から現実的では無い。

まず、前回の記事にも書いたように、充電に問題が多い。家庭用充電は一軒家以外には導入が難しい上、11時間掛かる。急速充電設備でも30分必要であるのに、普及には電力インフラへの負担が大きすぎる。

フランスの様に官民一体となって充電インフラの発展に力を入れる国は出てくるだろう。それでもEVはリチウムの資源制約から、グローバルで大きなシェアを取る事は現実的ではない。

EV用のバッテリーは、1kWhあたり0.26kgのリチウムが必要とされる。EVのバッテリーを30kWhとすると、1台で7.9kgのリチウムが必要だ。

世界のリチウムの生産量が3万4千トンであるので、その全てをEVに回したとしても430万台が限界である。もちろんリチウムの需要は他にも存在するので、実際はその1/3、100万台強が限界であろう。今後、リチウムの生産量を増加したとしても200万台が限界では。

さらにリチウムの埋蔵量が1,300万トンと言われているが、その1/3をEVに回したとして限界生産台数が約5.5億台である。現在の世界の自動車保有台数は12億6千万台であるので、その半分も置き換えることができない。

このようにEVが世界の主流になるには、まずリチウムの生産量の制約という致命的な問題がある。実際、テスラのモデル3が32万台を受注しただけで、リチウム価格が高騰している。

現在のリチウムの資源制約では、EVの普及は年間200万台、世界シェアの2%が限界である。残りの98%はこれからもガソリン車(PHV、HVのシェアは伸びるかもしれないが)だ。

つまり、これからもグローバルな自動車産業の中心はガソリン車であり続ける。ガソリン車のガラパゴス化は、したくてもできないのである。


(※ 8/19 1:07 池田氏の指摘を受けて追記)
(※ 8/19 2:45 内山氏の指摘を受けて修正)

もっとも海水中のリチウムなど、非在来型のリチウム資源も確認されており、埋蔵量は2億トンに上るとの試算もある。しかし、採算ベースに乗るかと思うと、かなり疑問である。現在でもEVの価格の20%がリチウム電池であり、非在来型でコストが高騰した場合、ガソリン車とは価格で勝負にならない可能性がある。また、リチウム電池に使用するレアメタルの埋蔵量も心配である。

もちろん、低コストで大量にリチウムを生成する技術革新が起きれば私の心配は杞憂で終わる。今後のリチウム採掘技術には注目していきたい。

ガラパゴス化が心配なのは、むしろEV

私は決してEVの普及や開発に反対しているわけではない。EVには技術革新の余地が大きいし、自動運転との相性も高い。未来の車は、CO2やNOxを輩出せずエコであり、維持費も安く、自動運転で寝ながら目的地に到着といった、夢のような車であって欲しい。

しかし、それを生産する自動車メーカーには冷静に現実を分析して、経営資源を効率良く使って欲しいと思っているのだ。電機メーカーが苦戦している現在、自動車メーカーまでグローバル競争に敗れると、日本全体のピンチである。

もちろんEVは限界があるとはいえ、今後伸びていくのは間違いない。現在の47万台から、4倍以上の200万台までは行くだろう。そのEV競争の中で、日本の自動車メーカにーは是非とも勝ち残って欲しい。

しかし、このEVの開発競争こそガラパゴス化に注意して欲しい。

ガラパゴス化の兆候は、まず「独自規格」の採用である。そして、EVには様々な未策定の規格が存在する。

既に問題になっているが、充電方式で日本の標準規格「チャデモ方式」と欧米の標準規格「コンボ方式」で争いになっている。その争いが決着する前に、10分で充電可能な急速充電の規格がアップデートされたりと、なかなかのガラパゴス臭である。

さらには、ワイヤレス充電方式であったり、自動運転のソフトウェアであったりと、EVはまだまだ未完成のために様々な規格争いの火種を抱えている。

日本の自動車メーカーは、ガラパゴス化で敗れた他の企業を反面教師に、ガラパゴス化に注意しながらEV競争を勝ち残って欲しい。

参照:Wikipedia ガラパゴス化FOURIN富士経済科学技術動向研究センター日本自動車工業会JCnet日経新聞Economist

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宮寺達也 パテントマスター/アゴラ出版道場一期生
プロフィール
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。


編集部より:このエントリーは「パテントマスター・宮寺達也のブログ」2017年8月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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宮寺 達也
パテントマスター/アゴラ出版道場一期生

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