元トップCAに聞く!私がもっとも大切にしているもの

尾藤 克之

写真はインタビューに答える七條氏。

先週、アゴラにエントリーした「元トップCAに聞く!『3流』すぎる人の振る舞いとは」が、転載されたYAHOOニュースで、かなりアクセスを伸ばした。航空会社関連記事の関心が高いことに加えて、「ファーストクラス」「セレブ」「ステイタス」といった根拠のない荒唐無稽な内容に、読者が嫌気を感じているのだろうと推測した。

座席における乗客の優劣は存在しない

まず、基本的な主張として、すべての乗客に優劣が存在しないことを申し上げておきたい。エコノミー、ビジネス、ファーストの各クラスにおいて優劣は存在しない。なかには、ファーストクラスが成功者のステイタスと主張する人もいるだろう。エコノミーの数倍の運賃を支払う義務が発生するわけだから一概に否定するつもりはない。

現在、なんらかの成功をして搭乗している人もいれば、今はエコノミーでも、将来に成功を収めてたどり着く人もいるだろう。関心が無い人もいるだろう。そう考えれば人の評価は謙虚にすべきである。勘違いしてはいけないのが、ファーストクラスには運賃を支払えば誰でも搭乗できるということだ。座席のクラスで属人性が規定されるわけではない。

また、今回、取材をした七條千恵美(以下、七條氏)は、際立って影響力のあるCAが選ばれる「Dream Skyward優秀賞」を受賞している。皇室チャーターフライトの選抜メンバーにもアサインされ、社内考課ではS評価を獲得している(S評価は上位約5%)。その経験が評価され、サービス教官として1000人以上を指導した実績もある。

以上を踏まえて、七條氏が取材対象者として相応しいことを確認した。ファーストクラスの乗客に関する認識を是正したいという考えも理解できた。実際に、航空会社が乗客を差別していることを公表したことは無い。情報としての有用性があると判断し、アゴラに掲載したものである。今回も七條氏に取材した内容(最終回)を紹介したい。

乗客に「イエスかノー」で答えてはいけない

「お客さまからの質問に対して『イエス』or『ノー』で答えることは、好ましくありません。『イエス』か『ノー』としかお答えできないのは、人間としての機能をフル活用できていないことと同じです。接客の世界では、『一声多く言葉をかけて』といわれますが、これも本質を理解していないケースが少なくありません。」(七條氏)

次ぎのケースは非常にわかりやすい。「乗客がなぜそのような質問をしたのか」という部分に着眼すれば答えを導くことは容易である。

「例えば、お客さまの搭乗中、『CAさん、今日は満席ですか?』という質問を受けたとします。さて、この質問をなさったお客さまが本当に知りたいことは何でしょうか?。実際にこの質問はとても多いです。『席をかえてほしい』または、『自分の快適性について知りたい』というお気持ちをもっている方がほとんどです。」(七條氏)

「本当に知りたいことは、満席かどうかということではなく、『要望が叶えられるのか』『不安が解消されるのか』ということなのです。空席があるなら対応は簡単です。『本日は空席がございます』とお伝えし、ご希望の座席に案内をすれば済むことです。しかし、工夫が必要になるのは満席だったときです。」(同)

ビジネスマンや母親には次のような傾向が見られるようだ。問題解決や不安要素の払拭に効果のある「一声」をかけなければ意味が無い。

「このような質問をなさったのが、ビジネスマンのお客さまであれば、『会議やお仕事で急いでいて、すぐに降りられる通路側がよかった』と推測できます。その場合、気にするのは『時間』です。こまめに到着時刻をご案内したり、到着時の駐機場番号をお伝えすることで少しは不安の解消に繋がります。」(七條氏)

「赤ちゃん連れのお母さまであれば、子どもが泣いて近くに座る人に迷惑をかけたらどうしようという『不安』があります。不安を払拭するために『私たちCAがいつでもお手伝いしますよ』という気持ちを伝え、安心していただくことに努めます。」(同)

クレーム対応で接客の本領が発揮される

「さすがに、クレームの多いお客さまや気難しいお客さまの対応が大好きという方は少ないと思います。しかし、それでも『接客はおもしろい』と感じています。対応が難しいお客さまにも、接触を避けずに解決しようという気持ちが大切です。とはいえ、押しつけがましい接客は、お客さまに鬱陶しいと感じられてしまいます。」(七條氏)

「まずは、目の前にいるお客さまから情報を得ることが重要です。お客さまの表情や態度から、ご不満を抱えていらっしゃるのかどうかと、その原因を突きとめていきます。一見怒っているようにみえても、体調不良や旅のお疲れから、不機嫌であるだけということもありますので、注意してください。」(同)

視覚から情報を入手したあとは、相手のペースにあわせていけばスムーズである。なお、相手が発する情報で「疲れている」「眠い」の2つのサインは見逃してはいけない。

「以前、パリ便のファーストクラスにあるご夫婦がご搭乗になりました。お食事やワインもお楽しみいただきたいという想いから『お食事がまだのようですがおもちしましょうか?』と伺っても、おっしゃることは『じゃ、ペリエを』だけでした。本当にペリエだけでいいのかと内心ソワソワしたものです。」(七條氏)

「しかし、ペリエをひと口飲んですぐにお休みになったご様子から、ご夫婦のお望みは、『とにかく機内でゆっくり睡眠をとること』だったのだと気づきました。『お客さまのお望みが何かを知り、それをできる限り優先する。こちらの価値観を押しつけない』という意味で、このケースをご紹介させていただきました。」(同)

なお、好評をいただいた、七條氏のインタビュー記事は今回をもって一旦終了としたい。七條氏が勤務していた頃、JALはナショナル・フラッグ・キャリア(national flag carrier)だった。当時の「鶴丸ロゴ」は威厳があったように記憶している。人々の安全を守り、ハイレベルなサービスを提供する航空業界のノウハウは奥が深い。

参考書籍
接客の一流、二流、三流』(アスカビジネス)

さて、話は変わるが、3年半ぶりに出版をした。タイトルは、『007(ダブルオーセブン)に学ぶ仕事術』(同友館)になる。私にとっては9冊目の本になるが、社内の理不尽にジェームズ・ボンドが立ち向かう設定にした。ボンドなら社内の理不尽に対してどのように立ち向かい対峙するかをストーリー仕立てにした。

アゴラでは、「ビジネス著者養成セミナー」という著者希望者のためのセミナーを隔月で、「出版道場」という出版希望者のニーズに応えるための実践講座を年2回開催している。日頃、お世話になっている著者の方や出版社からのご協力もいただき、私も彼らが精魂込めて手がけた書籍紹介の記事を掲載している。

今回はそうしたなかで、記事や企画が編集者の目に留まり出版の実現にいたった。読者の皆さまへ感謝として報告を申し上げたい。

尾藤克之
コラムニスト

<アゴラ研究所からお知らせ>
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次回は、9月12日(火)夜に開催します。著者セミナー、並びに出版道場へのご関心が高いことから、ご優待キャンペーンとして定額5.000円のところを、今回はキャンペーン価格3,500円でご優待します。お申込みをお待ちしております。
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