マスメディア報道の内閣支持率への影響を定量分析する

藤原 かずえ

森友・加計問題は、政権に瑕疵の証拠が存在しないにも拘わらず、国民の負託を受けていないマスメディアが連日の【印象報道】をベースに国民の負託を受けている政権に【悪魔の証明】を求め続けた明確な倒閣運動であったと考えます。自説に好都合な情報を大々的に繰り返し報じると同時に自説に不都合な情報を一切報じないという異常な【確証バイアス】が支配する【情報操作】によって「安倍首相を信じることができない」という印象を多くの国民に植え付け、内閣支持率を急落させることに成功しました。とりわけ政局巷談家伊藤惇夫氏に代表される「アマチュア玄人」と政権クレイマー室井佑月氏に代表される「プロ素人」を擁するテレビワイドショーは、行政の業務遂行の論理を知らない視聴者の意思決定に多大な影響を与えたものと考えます。政権の情報操作を暴く姿勢を見せているワイドショーが実際には白昼堂々と視聴者に対してあからさまな情報操作を行っているという状況は不合理そのものですが、深刻なのは、このような番組が一定の視聴率を稼いで朝から昼間の時間帯に乱立していることです。

一般に、新聞・テレビといったメインストリームメディアインターネットメディアの論調には大きな乖離があります。これは、大資本が運営する新聞・テレビが、検閲済みの一部情報のみをベースとして事案を評価しているのに対して、ネットメディア・SNSは、検閲されることのない多角的な情報をベースにして自由に事案を評価しているためと言えます。ここに【情報格差 digital divide】が発生し、インターネットを閲覧しない【情報弱者】は、新聞・テレビを通して情報操作・心理操作・倫理操作を行うマスメディアの支配を受けることになります。

ところで、マスメディアによる【偏向報道】のキャンペインが国民の意思決定に大きな影響を受けることは、細川連立政権・小泉郵政選挙・民主党政権交代などの事例で定性的に認識されていますが、その影響度合を定量的に認識できるような数値データは意外にもほとんど存在しません。これは世論調査の実施主体であるマスメディアが、自らの存在を脅かすような調査を実施しないことに起因していると考えます。そこで、この記事では、マスメディアとの接し方が大きく異なると同時に政治選択の傾向が大きく異なる【世代 generation】【性 gender】をパラメータにして異なる世論調査によって得られたデータを関連づけることで、メディアの利用時間と内閣支持率の関係について分析を試みました。

分析データ

人間の年齢に基づいてグルーピングされた【世代】は、ほぼ同一のマクロな社会環境を経験している集団であると言えます。このため、各種性向が異なることが知られており、各種メディアとの接し方や政治選択の傾向が大きく異なることが知られています。大きな傾向としては、高齢世代は若年世代と比較して、インターネットよりも新聞・テレビメディアを選好し、政治的には現政権に対して厳しい評価をする割合が高くなります。一方、【性】は、ほぼ同一の社会的学習とスキーマを身につけている集団であり、同様に各種性向が異なることが知られています。

この記事では、このような【世代】【性】の違いによるメディアに対する親和度ならびに政治的選択の違いを関連付けて分析することで、両者の因果関係を推定することを試みました。具体的には、各【世代】【性】をパラメータにして、「各種メディアの利用時間」NHK)のデータと「内閣支持率」FNN・産経)のデータを関連付けることによって分析を行いました。データの出典は次の通りです。

[NHK 国民生活時間調査(2015年10月)]
[FNN産経 性別・年代別の内閣支持率推移(2017年5月・6月・7月)]

これらは約2年弱のタイムラグがある調査データですが、NHKの過去にわたる同様の調査の結果を見る限り、2年程度では生活時間の傾向にドラスティックな変化は認められないものと推定され、得られる分析結果にはそれなりの信憑性があると考えました。

ここで、当然のことながら、世代別の政治選択の傾向はマスメディアのみの影響とは限りません。現政権の社会保障や就職率などの政策が及ぼす受益の差や年齢に起因する社会的経験・社会的偏見の差なども当然影響を与えるものと考えられます。しかしながら、情報(メディア利用時間)と選択(内閣支持率)という直接の因果関係があっても不思議ではない変数間に高い相関性が存在する場合には、その変数間に有意な因果関係が存在する蓋然性はむしろ高いと言えます。後述しますが、特定の変数間には実際に高い相関性が認められます。

今回の分析で設定した世代は、「20代」「30代」「40代」「50代」「60代以上」の5種類であり、これを「男」「女」別に分けた計10種類のデータを分析しました。なお、厳密にはFNN産経の「20代」のデータは18歳・19歳を含んでいます。ちなみに対応するNHKの調査結果を見る限り、「10代」と「20代」の調査結果は概ね類似した値を示しているので、結果に及ぼす影響は大きくないものと考えられます。また、NHKの「60代以上」のデータについては、オリジナルの調査結果の「60代」と「70代以上」のデータを平均しました。これらの値も概ね類似した傾向を示しています。

分析においては、「テレビ視聴時間」「新聞閲覧時間」「インターネット閲覧時間」と同時に他者との「会話・交際時間」「在宅時間」を分析の説明変数として設定しました。これらの時間データは、いずれも「平日」「土曜」「日曜」とカテゴリー区分されていますが、これらを重み付平均(平日の重みを5倍)することで日平均データを算出しました。このようにして得られたデータの一覧は次のとおりです。

この表を見ると、5月から7月にかけて内閣支持率が顕著に減少していることが認められます。マスメディアによる大規模な政権批判キャンペインが行われたのは6月であり、この意味から5月は平常時、7月はマスメディアの一大キャンペインの影響が反映された値であると考えらえます。今回の分析では両時期に得られた「5月内閣支持率」「7月内閣支持率」の値を目的変数として用いることにします。なお、表中の「5月-7月減少量」とは「5月内閣支持率」と「7月内閣支持率」の差であり、「5月-7月変更率」とは5月に内閣を支持した人のうち7月に不支持に態度変更した人の割合です。これらについても分析の目的変数として用います。

なお、FNN産経の内閣支持率データは報道各社平均に最も近いという中庸な特徴を示します。基本的に公正に得られている不偏な調査結果であると考えます[記事]

内閣支持率に及ぼすメディアの影響(平常時)

マスメディア報道は常に異常であるとも言えなくはありませんが(笑)、内閣支持率がボックス相場を維持していた2017年5月における内閣支持率を用いて、平常時における内閣支持率に及ぼすメディアの影響を分析します。

「テレビ視聴時間」「新聞閲覧時間」「インターネット閲覧時間」「会話・交際時間」「在宅時間」と「5月内閣支持率」の関係を示したものが次の図です。

図を見ると、「テレビ視聴時間」「新聞閲覧時間」が多くなるほど内閣支持率が低くなるという逆相関を呈し、「インターネット閲覧時間」が多くなるほど内閣支持率が高くなるという正の相関を呈しています。このことは、テレビ視聴および新聞閲覧という行為が内閣支持率を低下させる可能性があり、インターネット閲覧という行為が内閣支持率を上昇させる可能性があるということです。ここで、当然のことながら政権が関係する事象を国民がすべて把握した上で政権を評価するというのが公正であると言えます。先述したようにテレビ・新聞が自説に不都合な情報を報道しない受動的メディアであるのに対して、インターネットでは情報操作されていない環境下で情報を能動的に収集することができます。このような所与の環境から現状を推察すれば、テレビ・新聞の情報操作によって不当に内閣支持率が低下する中で、インターネットを閲覧した人がそのバイアスを解消しているという構造を導くことができます。

実際、インターネットを閲覧している人の中には、このような理不尽な情報流通メカニズムを実感されている人も多いと推察します。インターネットを閲覧すれば簡単に得られる情報が、報道しない自由の行使によってマスメディアでまったく報道されないという事態も頻繁に認められます。例えば、加計問題における民進党高井崇志議員の新設要請、民進党玉木雄一郎議員の獣医師会との極めて深い繋がり、石破4条件を出した自民党石破茂議員の獣医師会からの献金、準備不足を明言した京産大黒坂光副学長の記者発表、前川前事務次官の証言を覆す加戸守行愛媛県知事・国家戦略特区諮問会議八田達夫氏・原英史氏の国会証言、自民党小野寺五典議員の理路整然と事態を解明した国会質疑等は、事案の解明にあたって極めて重要な情報であるにも拘わらず、地上波テレビではほとんど触れられていません。したがって、加計問題の問題の所在を把握するにあたっては、不都合な情報だけを見事にフィルタリングにしているマスメディア報道だけでは全く不十分であり、インターネットによる情報収集が不可欠であると考えられます。

ここで、テレビ視聴時間が短くインターネット閲覧時間が長い20代男性・30代男性・20代女性に着目すると、内閣支持率は70%前後です。インターネット投票による内閣支持率が60%~70%なる[結果]も信用できないとは言えないレベルであると考えられます。いずれにしても、国民の負託を受けていないマスメディアの報道のネガティヴな影響が、平常時から【情報弱者】を蝕んでいるとすれば、民主主義社会にとって極めて危険な状況にあると言えるかと思います。

次に「会話・交際時間」と「5月内閣支持率」の関係には明瞭な相関性はなく、口コミが効いていないことがわかります。これは、自分の生活に忙しい一般国民が平常時に政治を議論することは多くないことによるものと考えられます。また、「在宅時間」と「5月内閣支持率」の関係には負の相関性が認められます。在宅時間が長いということは、通常のビジネスタイムに在宅している確率が高くなると考えられます。この時間にテレビをつけると、真っ先に目に入るのがワイドショーであると言えます。つまり、在宅時間が長い程、ワイドショーの影響を受けて支持率が低下するというメカニズムが推測されます。

なお、「テレビの視聴時間」と「新聞の閲覧時間」には高い相関性が認められます。これは世代が履歴した社会習慣の違いによるものと考えます。

また20代・30代は新聞をほとんど読むことがなく、1日5分以下であることがわかります。新聞社の将来の経営が危機にあることがわかります。斜陽産業となったマスコミが「数字の取れるネタ」に走っているという池田信夫さんの[指摘]は極めて論理的であると考えます。個人的な希望ですが、東スポだけは絶対に生き残ってもらいたいですね(笑)

内閣支持率に及ぼすメディアの影響(異常報道時)

安倍首相の改憲発言に危機感を抱いたのかどうかはわかりませんが、東京都議会選前後にマスメディアは、加計問題とともに自民党議員のスキャンダルや発言を徹底的に問題視し、ワイドショーを中心として連日長時間にわたってヒステリックに自民党議員の人格批判を繰り返す一大キャンペインを展開しました。その結果、都議選で自民党は当初の世論調査結果を大きく下回る惨敗を喫し、安倍政権の内閣支持率は急落して最低値を更新しました。ここでは5月から7月にかけて支持率の形成メカニズムにどのような変化があったかを分析します。

「テレビ視聴時間」「インターネット閲覧時間」と「7月内閣支持率」の関係を「5月内閣支持率」を交えて示したものが次の図です。

まず「テレビ視聴時間」と「7月内閣支持率」の関係については、「5月内閣支持率」と比較して各世代とも大きく落ち込んでいるのがわかります。その中で、30代の男性と60代の女性の低下がやや少なくなっていますが、全体的に見ると支持率30%前後に下値支持線のようなものがあります。、おそらくこのあたりがこの時点での世代を問わない現政権支持のハードコア層の割合であると考えられます。まら、支持率の下降度合はテレビ視聴時間とは無関係であると考えられます。

一方、「インターネット閲覧時間」と「7月内閣支持率」の関係も同様な傾向が認められますが、「テレビ視聴時間」と異なるのは、下落後も「内閣支持率」との間に線形的な相関性をある程度保持していることです。このことは、インターネットから得られる情報量に比例してテレビの偏向報道による情報操作に抵抗しているものと考えられます。

下図は「会話・交際時間」「在宅時間」と「5月-7月態度変更率」の関係を示したものです。

まず「会話・交際時間」と「5月-7月態度変更率」の関係には弱い正の相関性が認められます。このことから、普段テレビ・新聞を視聴しない層が口コミの影響を受けて態度変更している可能性が推察されます。一方、「在宅時間」と「5月-7月態度変更率」の関係については、女性では明瞭な関係が認められないものの男性の20代から50代の場合は在宅時間と比例して不支持に回る率が多くなっています。これは、報道が過熱して政治問題のカヴァレッジが増加したことにより、在宅時間が短くても偏向報道に接する確率が高くなったことが考えられます。

ここで重回帰分析により「テレビ視聴時間」「インターネット閲覧時間」「会話・交際時間」「在宅時間」がそれぞれ「5月内閣支持率」、「7月内閣支持率」、「5月-7月支持率減少量」、「5月-7月態度変更率」に対してどのような寄与度合があるかを分析した結果が次の表です。ちなみに、「新聞閲覧時間」は「テレビ視聴時間」と相関性が高く、共線性の問題が発生するため、分析から除外しています(「テレビ視聴時間」の寄与と概ね同じ傾向を持つと考えてください)。

まず「5月内閣支持率」については「テレビ視聴時間」と「在宅時間」がマイナスの寄与を示し、「インターネット閲覧時間」がプラスの寄与を示します。これは前節で述べた平常時の世論形成メカニズムと一致します。これが「7月内閣支持率」になるとインターネットが大きなプラスの寄与を示すとともに「会話・交際時間」がマイナスの寄与を示します。これはインターネットを閲覧している人がテレビ・新聞の大キャンペインに対して抵抗力を持つ一方で、口コミが不支持の同調圧力となっていることがわかります。

この傾向は「5月-7月支持率減少量」、「5月-7月態度変更率」に対する寄与からも読み取ることができます。「会話・交際時間」が多い20代の「5月-7月態度変更率」が高いのはこのためと理解することができます。一方で「在宅時間」がプラスの寄与になっているのは、「在宅時間」が長い層は、一大キャンペインが行われる前から既に情報操作されていたために、キャンペインによる影響はむしろ少なかったというメカニズムが推定されます。既に絞ってある雑巾をさらに絞っても出てくる水の量は少ないと言えます。60代以上の女性の「5月-7月態度変更率」が低いのはこのためと理解することができます。

ここで勘違いしやすいことですが、「テレビ視聴時間」の寄与が低く出ていることでテレビの影響が小さくなったと考えるのは不合理です。むしろ「テレビ視聴時間」に関係なくテレビが支持率の絶対的な低下に大きな影響を与えていると考えるのが合理的です。ネガティヴな情報なく、国民の支持率が低下することは考えられません。

以上、マスメディアが政権批判の一大キャンペインを展開するとき、偏向報道は特定の層だけでなくすべての層に影響を与え、これに対する抵抗に有効なのはインターネットだけであると言えます。さらに一大キャンペインによって政権批判自体が社会的な話題になると、口コミの影響が極めて強くなるものと考えられます。センセーショナルな豊田真由子議員のパワー・ハラスメントは職場や学校の話題を独占したものと考えられます。こうなるとインターネットの抵抗力も限定的となり、世論はマスメディアの論調に完全に支配されることになります。極めて恐ろしいことです。

テレビの支配とインターネットの反抗

今回の分析の結果、テレビ視聴時間・新聞閲覧時間が長い程、内閣支持率が低くなり、インターネット閲覧時間が長い程、テレビ・新聞の影響は低下するという定性的な仮説が一定の仮定条件の下で定量的に証明されたと言えます。特に在宅時間が長く昼間のワイドショーを視聴する機会が多い層ほどマスメディアの影響を受けやすいことが判明しました。さらにマスメディアが一大キャンペインを繰り広げる場合には、口コミによる同調圧力の影響が強くなることも判明しました。マスメディアの長時間にわたる繰り返し報道によって、通常には話題にならない政治問題がクローズアップされて事案の正確な評価が行われないままに国民の同調が進んだものと考えられます。深刻なのは、このような場合にはインターネットが口コミの影響に敗れてしまうということです。

残念なことに、日本は新聞・テレビ報道に対する世界有数の崇拝国です[記事]。このような歪んだ情報伝達空間を解消するにあたっては、新聞閲覧者およびテレビ視聴者、特にワイドショー視聴者に新聞・テレビ報道の偏向や危険性を[実例]をもって認識してもらうことが極めて重要であると考えます。

新聞・テレビからインターネットへの[過渡期]の今、私達に求められるのは、マスメディアが情報操作・心理操作・倫理操作に用いるあらゆる[論理的誤謬]に対して【論理】で対抗することであると考えます。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2017年8月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。