【映画評】ボブという名の猫 幸せのハイタッチ

2017年08月31日 11:30
「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」オリジナル・サウンドトラック

ロンドンでホームレス生活を送るジェームズは、ギターを片手にストリートミュージシャンとして日銭を稼ぐ日々。ドラッグ依存から抜け出せない彼は、家族からも見捨てられていた。ドン底の人生にあえいでいたある日、ジェームズは、迷い込んできた一匹の茶トラの野良猫を助けることに。以来、ボブと名付けたその猫とジェームズは、どこに行くにも一緒で、演奏もビッグイシュー(ホームレスに仕事を提供することで自立を支援しようという目的で作られた雑誌)販売も、ボブと一緒だと不思議なほどうまくいった。さまざまなトラブルを経て、思いを寄せていたベティの協力で薬物依存を克服したジェームズに、ボブとの物語を綴ってほしいと出版社から依頼がくる…。

薬物依存でホームレスのストリートミュージシャンが一匹の野良猫を助けたことで再生していく姿を描く「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」。ほっこりと心が温まる感動のヒューマンドラマは、何と実話だ。プロのミュージシャンになる夢は破れ、家もなく、ドラッグ中毒の主人公ジェームズの人生は、まさにドン底である。ただ、自分の方が助けを必要としている状態なのに、ケガをした野良猫という、自分よりもっと弱いものを助ける優しさが彼にはあった。誰かを助けたつもりが助けられたのは自分だった…という流れは、よくある話には違いないが、ジェームズの相棒である猫のボブは、基本的には何もしない。副題にあるハイタッチも芸というよりちょっとした可愛い仕草で、ボブはただ黙ってジェームズに寄り添うことで、彼を癒し、強くしていくのだ。自分は一人ではない。その事実がこんなにも人間を強くするとは。

今や世の中は空前の猫ブーム。完全に時流に乗った感がある本作だが、原作本がベストセラーになったのは2012年のことなので、猫ブームとは関係なく、普遍的に心を打つ物語なのである。しかもただの猫映画にはとどまらない。華やかに見える大都会ロンドンの、失業、ホームレス、薬物依存などダークな側面も描き、社会派映画の趣も垣間見える。特筆なのは、映画に登場するボブを演じているのが、ボブ本人(本猫)で、素晴らしくナチュラルな演技を披露していることだ。大勢の人間に囲まれても委縮せず、可愛くて頼もしいボブ。恐るべき“新人”の魅力で、心温まる、リアルな猫映画が誕生した。ちなみに私は自他ともに認める大の猫好きで、猫愛に満ちた映画にはどうしても点が甘くなってしまうのだが、本作のことは、問答無用で応援すると決めている。
【70点】
(原題「A STREET CAT NAMED BOB」)
(イギリス/ロジャー・スポティスウッド監督/ルーク・トラッダウェイ、ジョアンヌ・フロガット、ルタ・ゲドミンタス、他)
(猫愛度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年8月30日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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