ウィーンで米朝首脳会談を

先月31日午後1時からオーストリア国営ラジオ放送で1時間、北朝鮮の現状に関してウィーン大学東アジア研究所のルーディガー・フランク教授と国営放送の元モスクワ、北京特派員だった放送ジャーナリスト、ライムンド・レーブ氏の2人が語り合う番組を聞いた。
両者とも米朝間の軍事衝突というシナリオには懐疑的だ。特に、旧東独出身で平壌で語学留学をしたフランク教授は根っからの太陽政策の信望者であり、日本に対してはかなり批判的な歴史認識を有する人物だ。

同教授によれば、故金正日総書記時代、北は多数の自由貿易地帯を設置し、積極的に経済刷新を実施してきたという。それが「国際社会が核問題で制裁を実施してから難しくなった」と指摘。
フランク教授は、「北朝鮮の核実験はサプライズではない。当然予想されたことだ。韓国が太陽政策をもっと徹底的に実施していたならば、北は核開発を放棄していたかもしれない。主因は太陽政策の不徹底さにある」と言い切ったことがある。一理はあるが、かなり親北的な発言だ。

▲ウィーンの「米ソ首脳会談」(ウィキぺディアから)

▲ウィーンの「米ソ首脳会談」(ウィキぺディアから)

興味深い点は、レーブ氏が、「ウィーンで米朝首脳会談を開いたらどうか」と提案したことだ。ウィーンで1961年6月3から4日まで、ジョン・F・ケネディ米大統領とニキータ・フルシチョフ・ソ連共産党第1書記の米ソ頂上会談が開催されたことがある。その歴史的首脳会談に倣い、米朝首脳会談を開いたらどうか、というのだ。少々唐突だが、面白いアイデアだ。

レーブ氏は、「トランプ氏は『金正恩氏とハンバーガーを食べながら話し合おう』と語ったことがあったが、ウィ―ンではハンバーガーではなく、ヴィ―ナー・シュ二ッツェルを食べながら話し合ったらどうか」と、かなり具体的に説明する。シュ二ッツェルはオーストリア国民が大好きな肉料理で、日本のとんかつに似ているが、肉はそれより薄い。イスラム系住民が増えたこともあって、豚肉ではなく、鶏肉を利用するレストランが多い。

ところで、当方はこのコラム欄で 「金正恩氏が首脳外交できない理由」(2015年9月28日参考)を書いたことがある。金正恩氏の父親、故金正日労働党総書記が飛行機嫌いで、訪中でも特別列車で北京まで行った。幸い、その息子の金正恩氏は父親のような飛行機恐怖症はなく、戦闘機にも搭乗している。だから、金正恩氏には国内の政情が落ちつけば、活発な首脳外交が展開されるだろうといった淡い期待があったが、首脳外交のニュースは平壌から流れてこない。そこで金正恩氏がなぜ首脳外交を躊躇するのか、というテーマだった。答えは、金正恩氏の“増え続ける体重”(推定130キロ)が同氏の首脳外交デビューを妨げる最大の障害となっていると書いた。

北から流れてくる映像を得る限り、増え続ける体重問題はここにきて落ち着いてきているから、トランプ氏との歴史的首脳会談のためにウィ―ンまで来れるだろう。オーストリアはスイス留学を体験した金正恩氏にとって見知らぬ外国の地ではないはずだ。

トランプ氏と金正恩氏の首脳会談が実現すれば、イタリアのタオルミーナで今年5月末に開催された先進国首脳会議(G7)を凌ぐ今年最大の政治イベントとなることは間違いない。その上、モデル出身のメラニア夫人と銀河水管弦楽団で歌手を務めた李雪主夫人のファースト・レディ―の出会い、という話題が出てくる。カメラマンにとってぜひとも撮影したい組み合わせだろう。

いずれにしても、「音楽の都ウィ―ン」、大統領就任以来話題を提供し続ける「トランプ大統領夫妻」、そして朝鮮半島の独裁者「金正恩夫妻」という3者の組み合わせは最高の書割だろう。ひょっとしたら、ウィ―ン首脳会議は凍結してきた米朝関係の雪解けのきっかけととなるかもしれない。トランプ氏も金正恩氏もその言動は事前には予想できない政治家だ。サプライズが生じないはずがない。

レーブ氏は、「ウィ―ンの外務省は米朝首脳会談の開催地として積極的に誘致すべきだ」と述べていた。少なくとも、同氏は真剣だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。