財政再建に「フリーランチ」(ただ飯)は無い:1%ずつの段階的な増税を

経済学の格言に「ノー・フリーランチ」(ただ飯は無い)というものがあります。その意味で、本日の日経・経済教室「揺らぐ財政規律(下) 膨張した歳出正常化急げ 政府・日銀、債務削減へ連携」において、同志社大学教授の北坂真一氏が提案する「消費税率引き上げを1%ずつ4年連続で行う政策」は賛成ですが、以下の政策提案には留意が必要です。

日銀は大規模な量的緩和策により国債を400兆円以上、比率では発行残高の4割以上を保有している。この日銀が保有する国債の一部を会計上の操作により、政府が日銀に永久無利子の債務を負う形に置き換える
…(略)
いずれにせよ目的は政府債務の削減であり、その具体的方法について財務省が日銀に申し入れ、検討を始めることが有益だ。日銀にとっても、出口のリスクを協議する良い機会になる。

この提案は、日銀が保有する国債の一部を無利子の永久国債に変換し、日銀が保有する国債の一部を消却することを意味しますが、以前のYahoo!コラム(ヘリマネと預金封鎖)で説明した通り、これは”’一種の預金課税”’であるためです。すなわち、国民負担無しに財政再建することは不可能で、何らかのコストが発生します。

なお、経済成長で税収増を図り、財政再建と経済再生の両立を図るというのがアベノミクスの戦略の一つですが、2016年度決算における国の税収(55.5兆円)は当初予算の税収見積もりとの比較で2.1兆円下振れし、前年度比で0.8兆円落ち込み、7年振りのマイナスとなっています。これは、日本経済が景気の下降局面に向かい始めている一つの証拠かもしれません。

また、先般(2017年7月18日)、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」の改訂版を公表しました。この試算によると、2020年代初頭にかけて実質GDP成長率が2%程度まで上昇する高成長ケース(経済再生ケース)を達成し、2019年10月に予定している消費税率の引き上げを実行しても、2020年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支(PB)は8.2兆円の赤字となります。

実質GDP成長率が1%程度のケース(ベースラインケース)では、2020年度のPBは10.7兆円になり、”’これは消費税率で約4%分に相当”’します。

以上のような財政の現状のほか、財政再建は基本的に「ノー・フリーランチ」であるという格言も念頭に置きつつ、様々なリスクを冷静に考慮し、1%ずつの段階的な消費増税や社会保障の抜本改革を含め、財政再建の議論を真剣かつ早急に進めることが求められます。

(法政大学経済学部教授 小黒一正)