膵がんのリキッドバイオプシーは難しい?

2017年09月10日 11:30

テキサスを襲った台風の傷が癒える間もなく、強烈な台風がフロリダ半島に迫っている。この台風は、カリブ海の国々に大きな傷跡を残し、米国に迫っている。日本からは遠く離れているが、是非、復旧の支援をして欲しいと願っている。

そして、フロリダでは、トランプ大統領が安倍総理を招いた別荘のあたりにも避難勧告が出ているようだ。そのような中で、マイアミからアリゾナに向かう飛行機のチケットを547ドルから3200ドル強に値上げした航空会社が顰蹙を買っている。避難しようとする人たちの足元を見て、考えられないような高い価格設定となっているのだ。人の弱みに付け込んだ許しがたい行為だと思う。このような状況でも金儲けが優先されるような卑しい国だったのかと、がっくりだ。日本であれば、人の安全と命を救うことが優先されるはずだと信じたい。

そして、標題の話題に移りたい。ジョンス・ホプキンス大学のグループが、膵がんのリキッドバイオプシー研究の結果を発表した。膵がんI/II期の患者を対象として、リキッドバイオプシー検査で、どの程度のがん患者のがんが検出できるかを試みたものだが、私が期待していた結果よりも、かなり厳しかった。

KRAS遺伝子は、膵がんの95%以上の症例で異常を起こしていることが知られている。この遺伝子を調べたところ、陽性の結果であったのは、2センチ以下36例中7例(19%)、2センチより大きい腫瘍185例中59例(32%)でKRAS異常が血漿DNA中で見出されている。全体を合わせると30%の検出率だ。p53遺伝子の変異の起こりやすい部分に関しても、152名の腫瘍で調べられ、64の腫瘍で遺伝子異常が検出された。そのうち、13名(20%)がリキッドバイオプシー陽性であった。しかし、13名中12名はKRAS遺伝子異常が見いだされているため、KRASとp53遺伝子を組み合わせてもがんの検出率はほとんど変わらないと述べられていた。

そこで、著者らは、いくつかの腫瘍マーカーも調べて、がんの検出率が向上できるかどうかを検討した。最も検出率が高くなるのは、KRASのリキッドバイオプシーと腫瘍マーカーCA19-9の組み合わせで検出率は60%だった。これに、3つのバイオマーカーCEA・HGF・OPNを組み合わせると64%になる。上述したようにKRASとp53遺伝子変異が見つかるケースはほぼ重複しているが、興味深いことに、バイオマーカーとの比較では、67例はCA19-9陽性でKRAS陰性、24例はKRAS陽性でCA19-9陰性、両方が陽性が42例という結果だ。したがって、KRASリキッドバイプシーと腫瘍マーカーCA19-9検査は、かなり相補的な関係になり、検出率向上につながると考えられる。

しかし、問題は、KRASやCA19-9は膵がんに特異的ではないことである。膵がん患者の血液を用いて調べれば60%の症例では陽性だ。しかし、KRASやCA19-9が陽性であっても、膵臓にがんがあることを意味するわけではない。KRASやCA19-9は他のがんでも異常を示すので、異常があっても、大腸にがんがあるのか、卵巣にがんがあるのか、膵臓にがんがあるのか、を特定できるわけではない。

また、リキッドバイオプシーが保険でカバーされていないのは当然ながら、健康診断でも自分でお金を払わない限り、腫瘍マーカー検査を受けることができない。リキッドバイオプシーが陽性であることを理由に、どこにがんがあるのかをPET/MRI/CTなどの内視鏡や画像診断が保険でカバーされるわけでもない。技術の進歩を医療保険制度の中にどのように組み入れていくのかは難しい課題だ。特に、医療費の増大によって、医療保険制度の維持そのものが危機的な状況では、革新的な技術を保険で賄うと、保険制度破綻の引き金となってしまいかねない。

私は個人的には、早期発見・早期治療は治癒率を高め、全体的に見れば医療費削減につながると直感的に思うのだが、医療経済学的な専門的な精査が不可欠だ。医療費増大に対する抑制策は必要だが、目の前のミクロな観点ではなく、将来を見据えたマクロな観点で考えて欲しいものだ。医療産業が日本経済の牽引役となるための方策も含めることも肝要だ。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年9月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
シカゴ大学医学部 内科教授、外科教授

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