情報通信の利活用に後ろ向きなのは国民性が原因か

スマートフォン経済を特集した今年の「情報通信白書」は、ネット活用ビジネスの普及について各国比較を行っている。ネットショッピング、FinTech、シェアリング・エコノミーのいずれについてもわが国は遅れが目立っているが、わが国では利用率だけでなく利用意向自体が低いという調査結果は興味深い。たとえば「投資や保険等の資産運用について提案を行うサービス」の利用率は米国28%・日本4%であるが、利用したいという意向についても米国の45%に対してわが国は26%と浸透が遅れている。「個人の資産状況等のデータをもとに金融機関の 融資審査を行うサービス」では利用率が米国33%・日本4%で、利用意向は米国47%・日本23%と同様である。

政府はFinTechを推進する方向に動いていない。今年3月の金融審議会では、FinTechについて「継続的な取組みの重要性」「足下の問題への機動的な対応」「あるべき法制度の全体像を踏まえた対応」というごく当たり前な方針が「今後の取組みにあたっての問題意識」として事務局から開陳されたにとどまっている。

利活用に後ろ向きなのは健康・医療についても同様である。糖尿病患者の血糖値を継続的に測定し、それをネット経由で病院に送り医師がアドバイスするという応用例に代表される、健康状態の遠隔モニタが各国に普及し始めている。ところが、Connected Health Alliance(CHA)が行った調査によると、遠隔モニタを現在利用している、あるいは過去に利用したことがあるとの割合は、米国では回答した市民の31%に達するのに対してわが国では8%にとどまっている。利用意向は米国37%に対してわが国は13%である。

厚生労働省が遠隔医療に長い期間後ろ向きだったことはよく知られている。塩崎前大臣の指示で「データヘルス改革」に動き出したのはつい最近である。糖尿病患者の遠隔モニタは2018年度の診療報酬改定で採用される予定で、他の遠隔モニタについても有効性・安全性等に関する知見を集積したうえで2020年度以降の改定に反映させるという。

わが国にはネット活用ビジネスを利用したこともないし、利用したこともないという傾向が強い。これは国民性が原因なのだろうか。それとも紹介した事例でわかるように政府による後ろ向きの規制が影響を与えているだろうか。利用意向があってもサービスが提供されなければ利用できないから、ネット活用ビジネスを普及させるためには規制緩和が一丁目一番地である。記事『情報通信政策をお貸しします』では、だから「関連規制の改革」を提案した。