ダウ、100年後の100万ドル乗せは悲観的な予想?

2017年09月25日 06:00

今週のバロンズ誌、カバーに遺伝子治療を掲げる。研究開発から何十年を経て、遂に遺伝子治療はバイオテクノロジー領域で日の目を見ようとしている。2018年1月にも米食品医薬品局(FDA)が承認する可能性が取り沙汰されている会社こそ、スパーク・セラピューティックスで、失明リスクのある先天的な眼疾患患者に1回の治療で視力回復が期待されている。 また、AveXisは乳児の脊髄性筋萎縮症に対する治療を開発し、期待通りの臨床結果を報告してきた。そのほか、遺伝子治療で台頭しつつある企業など詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは100年後のダウに焦点をあてる。抄訳は、以下の通り。

ダウ、100万ドル—Dow 1,000,000.

メジャーリーグの名選手で知られるヨギ・ベラ氏は、かつて「予想するのは難しい、特に未来については」と語ったものだ。しかし、聖書数秘学者で天体観測家のデビッド・ミード氏は、9月23日に地球が滅亡すると大胆な予想を展開した。投資の神様、ウォーレン・バフェット氏も23日に「1世紀を経てダウは100万ドルに達する」との見通しを描き、世間をアッと言わせた。アインシュタインは「複利は世界の7不思議の次の不思議だ」との名言を残したとされるが、100年後に100万ドルを達成するには毎年3.87%上昇すれば可能だ。バロンズ誌のラウンド・テーブル常連のマリオ・ガベリ氏をして「バフェット氏は、弱気派に転じたのか」との疑問を抱かせても不思議ではない。

100万ドルのインパクトに騙されるべからず。
mario
(出所:CNBC/Twitter)

ダウは1916年の95から今年1月の100年間に20,069ドルまで上昇し、年間リターンは平均して5.5%高である。もちろん、この数字にインフレの影響は考慮されていない。Rストリート・インスティチュートによると平均でインフレ率は3.1%だっただけに、ダウのリターンは2.3%高に縮小するという。

「2117年にダウが100万ドルに到達する」というリターンでみれば控え目ながら数字でみると突拍子もない予想は、しばしば相場のピークで登場してきた。例えば、ITバブル崩壊直前の1999年には、”ダウ36,000:米株相場の上昇で利益を得る新しい戦略”が発行された(CEA委員長に就任したケビン・ハセット氏の著書)。2004年までにダウは36,000ドル超えを目指すと予想しただけでなく、米株は米国債のように安全資産でありリスク・プレミアムの必要性はないと指摘していた。その後、2000年1月にダウが11,722.98ドルで天井を打ち、2002年10月に7,286.27ドルへ下落、2000年1月の水準へ戻すには2006年10月まで待たねばならなかったことは言うまでもない。

バフェット氏の予想「2117年にダウ100万ドル突破」は年間リターンで控え目だが、果たして現実的だろうか。米株は企業業績に連動し、企業業績は米成長に追随する。仮にインフレが2%で実質成長率が2%ならば、名目成長率は4%だ。一方で出生率は2.1程度で、移民なしでは労働人口が十分拡大する見通しにはない。労働生産性で言えば、2011年以降で年間0.6%の上昇にとどまる。著名なエコノミストであるロバート・ゴードン氏は労働生産性について2012年のレポートで1.3%の上昇を予想、1891〜2007年の平均2%を下回る水準を見込む。同氏はまた2014年のレポートにて、米経済が4つの向かい風要因、即ち1)人口(ベビーブーマー世代の引退、働き盛り世代における労働参加率の低下)、2)教育の頭打ち、3)所得格差の拡大、4)債務増加——に直面し、結果的に増税や社会保障費の削減を余儀なくされるとの見通しを示した。

人口と株価との関係でみるなら、日本が良いお手本だ。日経平均は1989年に39,000円手前でピークを打った。1980年代、多くの人々は日本が世界経済を支配すると考えていたものの、そうはなっておらず当時の株価水準を回復できていない。債務での観点で言えば、覇権を握ると予想される中国に対して、格付け会社S&Pは格付けを従来の”AA-”から”A+”に引き下げたところである。

バフェット氏は、米国に投資に賭けないことは愚かだと指摘した。しかし、彼は幸いにも米経済の黄金期に生きた投資家である。将来、米国がより良い投資先になるかどうかは、分からない。名目成長4%とダウ100万ドルの達成は手に届く目標に見えるが、現状で達成できていない点を忘れるべきではないだろう。

米連邦公開市場委員会(FOMC)は19〜21日の会合で、10月から4.5兆ドルの保有資産を圧縮すると決めた。Fedは米国債などの資産を買い入れ終了後も償還された証券の元本を再投資してきたが、今後は米国債や政府機関債、住宅ローン担保証券(MBS)が償還される。従って、米国債を発行する財務省やフレディマック、ファニーメイは金融市場に頼らなければならない。超過準備預金の動向も、今後注目されるだろう。

しかしヒルトップ・セキュリティーズのマーク・グラント氏いわく、FRBだけが世界の主要プレーヤーではない。同氏ががヤルデニ・リサーチの数字を基に指摘したところ、中国人民銀行の保有資産は5.2兆ドルで、欧州中央銀行(ECB)も5.1兆ドル、日銀は4.7兆ドルで、FRBが創造したマネーは日銀、ECB、そしてスイス国立銀行と変わらないという。その上で「Fedが保有資産を年間3,000億ドルさせても、他の中銀が3,000億ドルの資産を取得する」、「米国の国債や社債の利回りの上昇を受け海外投資家は米国への投資を拡大させる」と予想する。

JPモルガンのニコラス・パニグリゾグロウ氏も、グラント氏と同じくFedの保有資産圧縮について大きな影響を予想していない。パニグリゾグロウ氏は2021年までにFedが保有資産を3兆ドルへ縮小させると試算すると同時に、ECBの資産買入額を2018年上半期で毎月400億ユーロ、同年下半期で200億ユーロと見込む。日銀に対しては、年間で60兆円の買い入れを行うと予想する。

米連邦準備制度理事会(FRB)の議長であるイエレン氏本人も、FOMC後の記者会見で保有資産の圧縮がペンキが乾くのと同様に無難に終わると発言していた。海外中銀が資産買入を継続するなかでは、Fedの資産圧縮は大勢に影響を与える可能性は低い。

経済・金利見通しでは、FF金利について12月の利上げの予想が優勢だった。2018年は3回の利上げが見込まれたが、同年に誰がFF金利予想を提示するか不確実だ。フィッシャーFRB副議長は今年10月13日頃に退任予定で、イエレンFRB議長は2018年2月3日に任期切れを迎える。銀行監督担当のFRB副議長として指名されたクオールズ氏が入るまで、FRB理事の空席はフィッシャー氏の分を合わせ4つとなる。

一つ明白なのは、長期見通しが25bp引き下げら2.75%となったことだ。海外中銀が資産買入を継続させると同時に、米国債の利回りに下方圧力を加え、金利は長きにわたり低い水準に抑えられるのだろう。米国で低成長が続くとの見方と整合的である。

——ダウが100年後に100万ドルに達するかどうかは別として、労働人口や成長動向を踏まえれば少なくとも向こう数年間の米株のリターンに勢いが乏しくなるのは理に適うように見えます。特に働き盛りで言えば、こちらで指摘したように男性の労働参加率は改善にブレーキが掛かる状況。また労働市場のシェアにも構造変化の波が襲い、サービス部門は足元で過去最高の71%であるのに対し財部門は過去最低に近い13.7%に過ぎません。財部門に至っては2000年の19%から大幅に低下し、サービス部門にパイを奪われた格好です。サービス部門と言えばもちろん会計士や弁護士、ITエンジニアなど専門サービスが入りますが、娯楽・宿泊など低賃金もひしめき2017年8月時点で生産労働者・非管理職の時給は平均で22ドルに対し財部門の25ドル以下です。トランプ米大統領がどう抗おうにもグローバリゼーションやオートメーション、並びにテクノロジーの進化の波を止めることは不可能に近い。100年後のダウ100万ドル乗せを夢想するより、ダウの存在自体がなくならないよう新たな時代の成長モデルを見つけることが先決のような気がします。

(カバー写真:BrainMaY/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年9月24日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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