井口選手、有終の美!スター選手は記者も育てる

2017年09月25日 06:00

引退試合の9回、同点弾を放ちガッツポーズの井口選手(ロッテ球団Facebookより引用)

プロ野球ロッテの井口資仁内野手(42)の引退試合(日本ハム戦)が24日、ZOZOマリンスタジアムで行われた。井口選手はこの日、1か月ぶりに一軍登録し、「6番DH」で先発出場。第1打席で左前打を放つと、2点ビハインドで迎えた9回には、現役最終打席になるかと思いきや、バックスクリーン右横へ叩き込む劇的な同点2ラン。チームは延長の末、サヨナラ勝ちを収め、勝利に貢献。現役最後まで「役者が違う」(伊東勤監督)と思わせる活躍ぶりだった。

井口選手とは、たまたま彼がメジャーから日本復帰・ロッテに入団した2009年から2年間、試合を取材させてもらった。私は読売新聞運動部の記者だったが、当時入社9年目の中堅とはいえ、プロ野球の番記者は初めて。翌年、私は記者を辞めたので、結果的には、最初で最後のプロ野球番記者経験になってしまったが、2010年の下克上日本一をはじめ、いまでも井口選手が活躍した試合で思い出深いシーンがいくつかがある。

ただ、その中でもっとも忘れられないのが、2009年4月16日の楽天戦。7-7の延長10回、一死満塁からレフトスタンドに叩き込むサヨナラ満塁弾をかっ飛ばした試合だった(YouTube参照;3:09頃)。

この試合はナイターだったが、プロ野球の担当記者にとってデイゲームよりも筆力の見せ所は、ナイターにある。というのも、記事の締め切りギリギリに大活躍や大記録が生まれてしまうと、それなりの中身とボリュームのある記事を限られた時間で出稿することを要求されるからだ。

読売の朝刊は、地方で配る12版、首都圏配布の13版、そして都心部などの最終14版と3回の版立てがある。12版の締め切りは20時台なので、試合中盤までのヤマ場で書いてしのぐが、難しいのはゲームセットの時間帯と微妙にかぶることも多い13版。メジャーから日本に復帰して初のサヨナラ、それもグランドスラムとなると、ニュース性もある。打った場面と、本人のヒーローインタビューでのコメントを付け足した短い雑感原稿で13版をしのぐことも考えられたが、本社で待機するデスクからは「締め切りまで10分待ってやるからな」と鬼司令!

プロ野球担当として初めての試練、さあどうしようと思ったところだったが、ちょうど試合前にロッカールーム前で、井口選手と他社の番記者仲間数人と雑談したときのコメントが脳裏に浮かんだ。

「あれはイチローさんらしいホームランでしたね」。

ちょうどその日の午前中(日本時間)、当時シアトルマリナーズにいたイチロー選手が日米通算3085本目となるヒットを満塁本塁打で飾った。野球ファンにはおなじみだが、「3085」とは張本勲さんの持つ日本プロ野球の歴代通算最多安打数。日米の違いはあるとはいえ、大記録に並んだメモリアルアーチについて、メジャー経験者の井口選手とそのことを振り返っていたのだ。

奇しくも海を隔てて半日差で日米で打ち上げられたグランドスラム。ドラマ性のところで共通の話題が記事化の取っ掛かりになった。井口選手も自分の試合前、まさかイチローと同じく劇的な満塁ホームランをその夜に放つとは思わなかっただろう。そんな自分の推測を書き出しに頭はフル回転。10分ほどで400字弱のコラムを書き上げた。

速筆力が凄まじい百戦錬磨のスポーツ紙の野球記者の方々には笑われてしまうが、プロ野球取材初心者の私にとっては無我夢中だった。結局、朝日や毎日などは13版は短い雑感記事でしのいだが、読売は全国紙で唯一13版の時点で「井口サヨナラ満塁弾」のコラムを掲載できた。ロッテの本拠地、千葉県は13版なので、地元のロッテファンにはそれなりの記事をお届けできたことが嬉しかった。そして、自分自身がそのとき、プロ野球担当記者として「真のデビュー」ができたと手応えを得た出来事だった。

文春オンラインで連載中の球団広報、梶原紀章氏のコラムでは、キャプテンの鈴木大地選手が新人の頃、デッドボールの満身創痍になっても井口選手が平然とプレーしてみせる姿に、プロの姿勢を教えてもらったといおうエピソードを紹介している。

【ロッテ】今季で引退 井口資仁のすごさは死球の数にあり(文春オンライン)

ただ、それは若手の記者たちも同じことだ。いま思えば、野球記者として当時の私も井口選手にワンステップ引き上げていただいたと感じている。

地方支局時代、本社から出張してきたデスクに「事件が記者を育てる」と言われたことがある。野球記者も目の前のスター選手たちの大活躍を、限られた時間と格闘しながらそれまでの取材の成果をぶつけ、できる限り面白い記事をお届けする。そういう意味では、サツ回りの記者が事件に育てられるのと同じく、スポーツ記者もアスリート、特に注目度の高いスター選手に育ててもらうようなものだ。

スポーツ紙によると、来シーズン、指導者経験なしでいきなり監督就任の予定という。同じパターンで引退後すぐに指揮をとることになった巨人の高橋由伸監督は、2年目の今季は球団ワーストの13連敗を喫するなど苦闘している。日米での豊富な選手経験がある井口さんといえども、ロッテファンとしては、ちょっと心配なところもあるが、球団も今度こそ相応の補強をして、日本人メジャー経験者として初の一軍監督をしっかりサポートしてほしい。

ただ、今はひとまず。。。

井口選手、お疲れ様でした。そして、ロッテファン、元担当記者として、数々の感動を見せていただきました。
ありがとうございました!


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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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