トルコがNATO加盟なのに“敵”ロシアからミサイルシステム購入

ロシアのプーチン大統領と握手するトルコのエルドアン大統領(AFPより引用:編集部)

1952年からNATO加盟のトルコがNATOの敵と見做されているロシアからミサイルシステムS-400の購入を決めた。トルコのエルドアン大統領は以前よりユーラシア経済圏への接近に関心を示していた。トルコにとって文化面そして宗教面において中央アジア圏はEUよりも共通のものがあるからである。

ソ連が崩壊するまで、黒海を囲む大半の国がワルシャワ条約機構に加盟していた。それに唯一くさびを打ち込むかのようにNATO加盟国としてトルコが存在していた。しかし、ソ連が崩壊すると嘗てワルシャワ条約機構に加盟していた国々がNATOに鞍替えした。

処が、今度はトルコがNATOを脱退してロシア圏の影響下に入るのではないかという懸念が生まれている。その最初の具体化がロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスで構成されているユーラシア経済連合(EEU)へのトルコの加盟と、それを更に発展させて軍事目的も含めて中国とロシアの主導で創設された上海協力機構(SCO)に加わることである。SCO加盟国は中国、ロシア、キルギス、カザフスタン、タジキスタン、ウズベキシタン、インド、パキスタンの8カ国に加え、イランもオブザーバーとして関係している。

先ず、EEUはトルコの加盟を誘っている。それにトルコは乗り気であることをゼイベクジ経済相が表明している。但し、それがEUとの関係悪化に繋がらない範囲内であることに念を押しているという。何しろ、現在トルコの輸出の44.5%はEU向けであるという理由からである。

EEUへのトルコの加盟を誘っている背景にはロシアが地政学的にカスピ海と黒海を囲んでロシアの勢力圏にしたいというのがプーチン大統領の野望である。この目的達成にはトルコが加わることが必要なのである。軍事面では、つい最近トルコとイランが軍事協力を結んだことから、ロシアーイラン―トルコの軍事協力が実現されたも同然となっている。

9月3日、メルケル独首相が総選挙のテレビ討論で「トルコがEUに加盟すべきでない」と発言した。それも要因となったのか、エルドアン大統領は6日後の9月9日、カザフスタン訪問を決めた。同週末に同国の首都アスタナで開催されたイスラム協力機構(OCI)への出席と合わせての訪問になった。主催国カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領と会談した。両国の貿易取引の伸展やシリア問題などについて会談したという。

昨年7月にトルコでクーデター未遂があった後に、エルドアン大統領を支持すべく最初に同国を訪問した元首がナザルバエフ大統領であった。しかも、トルコがロシアの戦闘機を撃墜した後に、ロシアとトルコの関係回復の仲介を努めたのも同氏であった。その関係からエルドアンにとってナザルバエフはEEUへの接近の為の最初の入り口なのである。

カザフスタンから帰国途中の機内でエルドアン大統領は同行していた記者団にS-400の購入が既に決定しているということを仄めかすかのように、「プーチン大統領と私はこの件について前進することを決めた」「我が国の独立の為の決定をした。我が国の防衛安全の為の手段を選ぶことは我々の義務である」と述べたのである。

そして、9月12日に世界の各紙がトルコのS-400の購入を報じたのである。購入費用は25億ドル(2750億円)以上と推測されている。ロシアからその支払いの為の融資もあるとされている。しかし、トルコへの納入は2019年まで待たねばならないであろうというのが大方の予測である。

トルコがNATOから脱退するようになれば、それはプーチン大統領にとって大勝利となる。その第一歩が踏み出されたのである。トルコがロシアと同盟関係を結ぶようになれば、中東における地政学の均衡は完全に崩れることになる。特に、ロシアーイラン―トルコの同盟ラインは中東情勢がロシアを完全に有利にさせるものとなる。

ロシア製のS-300の旧型はギリシャが既に保有している。ギリシャはNATOに加盟しているが、歴史的にも宗教的にもロシアと深い関係にあることからギリシャはこれまでもロシアから武器の購入をしている。しかし、トルコはNATOにとって2番目の軍事力を持っている国である。そのトルコがNATOを離脱するような事態になるとNATOの屋台骨が一挙に崩れる可能性もある。

しかも、現在トランプ大統領の政権下では米国はNATOのリーダーとしての役目を果たしていない。その代りに、ドイツが指導的な役目をこれまで以上に担う方向に向かっている。それを邪魔しようとするであろう英国はEUから離脱することになり、NATOでの存在感も自然と後退している。

NATOのリーダー国に成ろうとしているドイツは最近トルコに武器の供給を凍結させることを決めた。ガブリエル外相は両国の関係悪化が理由だとしている。凍結する以前から武器の一部部品がトルコへの輸出で禁止されていたことから、例えばトルコで生産する戦車の生産に支障をきたしたという事態になっていた。

即ち、NATOのリーダー国になるドイツがトルコと疎遠になっているというのは、トルコをEEUへの加盟に誘発し、そして将来的にはNATO を脱退してSCO加盟に向かわせるようになるという推測も生まれる来るのである。