【映画評】パッション・フラメンコ

現代フラメンコ界最高のダンサー、サラ・バラス。革新的な舞台演出やパフォーマンスで絶賛される彼女が、フラメンコの巨匠たちに捧げる新作公演「ボセス フラメンコ組曲」の初演までの3週間と、フランス、メキシコ、アメリカ、日本、母国スペインを回る世界ツアーに密着し、フラメンコへの情熱と、家族を愛する一人の女性としての姿に迫っていく…。

スペイン出身で、現代最高峰のフラメンコダンサー、サラ・バラスを追ったドキュメンタリー「パッション・フラメンコ」。サラが率いる舞踏団の新作は、フラメンコ界の巨匠6人に捧げる舞台だ。6人のマエストロは、パコ・デ・ルシア、アントニオ・ガデス、カルメン・アマジャ、カマロン・デ・ラ・イスラ、エンリケ・モレンテ、モライート・チーコ。ギタリスト、ダンサー、歌手である彼らは皆、故人だが、中にはサラと親交があった巨匠もいる。サラ自身、天才肌の上に努力家で、既存のルールを打ち破るチャレンジャーでもあり、6人の巨匠たちと共通する部分が非常に多い。

短い期間で新作を仕上げるまでのプロセスはもちろん、サラの素晴らしすぎるダンス、彼女と一緒に舞台を作り上げるメンバーのパフォーマンスに、たっぷり酔いしれることができる。驚いたのは、サラがプロのダンサーとして覚醒した原点ともいえる場所が、日本だということ。それから、一度は子どもを持つことをあきらめかけたのに、幸いなことに母となったサラの母性も印象的だ。天才ダンサーであると同時に、母であり妻でり、何よりも女性である。さらに、若くして自分の舞踏団を率い、男性が躍ることが通例だったジャンルのダンスにも挑戦するなど、男社会で一流の仕事を続けてきた“キャリアウーマン”でもあるのだ。高い目標をかかげ、リスクを恐れず、絶えず努力を惜しまない女性サラ。フラメンコに興味がある人はその超絶技巧のダンスをたっぷり楽しむことができるし、フラメンコに詳しくない人も、彼女の情熱的な生きざまに魅了されるだろう。本作に興味を持ったら、併せてカルロス・サウラ監督の「フラメンコ・フラメンコ」「イベリア 魂のフラメンコ」もぜひ観てほしい。
【60点】
(原題「SARA BARAS. TODAS LAS VOCES」)
(スペイン/ラファ・モレス、ペペ・アンドレウ監督/サラ・バラス、ホセ・セラーノ、ティム・リース、他)
(女性映画度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年9月28日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。