安倍退陣が切迫する“大誤算解散”

記者会見で解散理由を説明する安倍首相(首相官邸サイト:編集部)

自民党政権は継続する

衆院が解散され、自公政権と小池新党が激突することになりました。最大の焦点は、解散、総選挙という選択が大誤算となり、「安倍首相の退陣」を自ら招き寄せる結果を招くのではないか、です。小池氏側は「安倍退陣」を最大の標的にしていますから、政策調整の不備は後回しでいいと考えているのでしょう。

安倍首相に対しては「大義なき解散」という批判が多く聞かれます。政権党は「有利な選挙情勢の時を狙って解散する」というのが常道です。争点、つまり「大義」は後から用意することが多く、「大義のある解散」でないことは少なくないのです。安倍政権存続、継続のために、野党の態勢が整わないタイミングを狙ったということでしょう。政治ではよくあることです。問題はそれが正しい読みだったのか、です。

「北朝鮮が核ミサイル実験を繰り返し、国際的な批判が高まっている今だ」、「民進党が腰砕けの今だ」という読みです。北朝鮮問題では、米朝間の挑発政治の道具にされているとの批判が聞かれることが多くなりました。また、腰砕けになった民進党は希望の党との合流に駆け込んでしまいました。解散がなければ、そこまで急進展しなかったでしょう。読みは狂ってきたのです。

小池氏側に対しては、「実現可能で、具体的な政権公約を早急に示すことだ」、「首相指名では誰にするのか示していないのは無責任だ」との批判が聞かれます。小池氏にとっては、安倍首相を退陣に追い込むのが最大の狙いでしょうから、そんな批判は覚悟の上のことでしょう。国民にとっても小池首相では不安一杯なのです。

小池氏は首相になったら逆に困る

安倍政権が衆院選で大敗しても、過半数は取り、第一党の座は守るでしょう。逆に希望の党が第一党となり、しかも過半数をとるということはまずないでしょう。希望の党が第一党となり、小池氏(衆院選に出馬が条件)が首相に指名されたら、逆に困るのです。選挙対策上は、小池氏は「政権奪取の意欲」を示しています。実際は政治的な能力がないまま、政権党なってしまったらかれら自身も困るのです。

政治経験が少ない小池チルドレン、政治、経済、外交を大混乱に陥れた民主党の残党が今、政権を担えるはずはありません。担ったら第二の民主党となることは間違いありません。野党第一党として、経験を重ね、党としてのまとまりもつけていき、次のチャンス狙う。小池氏の考えはそんなところでしょう。

では安倍氏がそのまま総理総裁の座に居続けてたらどうなるか。選挙で大敗した安倍氏が首相を続けたら支持率はどんど落ちるでしょう。ですから首相交代は必至です。次の首相は誰か。岸田、石破、野田氏らが総裁選を戦い、後継者を決めることになるのでしょう。強権的な安倍氏と肌合いが違いますから、変化は起きます。

国難突破とは苦しい言い回し

安倍首相の解散表明の記者会見は相当、おかしかったですね。「国難突破解散」という位置づけは、感覚がずれていました。諸悪の根源は北朝鮮にあり、圧力をかけることは必要でも、「北朝鮮情勢は国難である」との発言は奇妙でした。「国難」とは、北朝鮮が攻撃を仕掛けてきたといった戦争状態などを指します。そんな段階ではありません。「国民の声を(選挙で)聞かなければならない」も、相当に苦しい言い回しです。

少子高齢化問題も北朝鮮情勢と並列して「国難」扱いをし、「自ら先頭に立って、国難に立ち向かっていく」も、首を傾げるような取り合わせです。「私は全身全霊を傾け、国民の皆様とともに突破していく」は、恐らく首相自らが直接、書き加えたに違いない。これもちぐはぐな表現で、無理して解散したなという印象です。

消費税率10%(2019年10月)の際には、「高等教育、幼児教育の無償化を進める」というのはどうでしょうか。2年先のことをなぜ今、持ち出すのか、必然性は感じられません。選挙の目的は政権継続にあり、野党の準備が進まないうちにうってでる。政治はそういうものですから、間違いだというつもりはありません。

こう考えると、首相が選んだタイミングの適否が、最大の問題だと思いますね。後世、今回の総選挙が論じられるとすると、「大誤算解散」という視点から評価されるのでしょうね。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年9月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。