『奥田民生になりたいボーイと出会う男全て狂わせるガール』の裏テーマ

常見 陽平

映画版『奥田民生になりたいボーイと出会う男全て狂わせるガール』を見る。『SPA!』に連載されていた頃から夫婦でハマっていた。すごい長いタイトルなので、さすがに映画版はオリジナルの名前に変わるだろうと思ったら、妻夫木聡の「このタイトル、いいじゃないですか」という鶴の一言で、ほぼオリジナルどおりのタイトルになったという(原作は前半と後半の間の「と」がない)。監督は『モテキ』『バクマン。』などで知られる大根仁、原作は『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(扶桑社)、『渋井直人の休日』(宝島社)などが話題の渋谷直角だ。サブカル好きなら唸ってしまう最強の布陣だ。

タイトルそのままの内容だ。妻夫木聡演じる奥田民生的なゆるさに憧れるオシャレ雑誌の編集者コーロキと、水原希子演じるアパレル企業のプレス担当とのラブコメディだ。あまりのドロドロした内容が衝撃すぎるのだが、要するに理想の自分と現実の自分のギャップがテーマだったりする。

ファン視点で言うならば、観に行くことに意味があり。大満足だった。もっとも、渋谷直角作品としても、大根仁作品としても、ナンバーワンではない。これはハッキリ言わせてもらおう。それぞれ、もっとよく出来ていて、面白い作品は、ある、と。

ただ、別の視点から言うと、これは男の夢、もっというと、フリーランスの夢、実現作品じゃないか、と。渋谷直角さんの本の中でも最も面白いわけでも、売れたわけでもない本が映画化され。いや、大根仁が監督した作品の中ではもっとも原作が売れていない作品ではないだろうか。そして、妻夫木聡や水原希子を起用してあんなシーンやこんなシーンも撮り、奥田民生の曲もがんがん流れ。なんというか、夢を叶えた感がある。

出版業界はずっと厳しいと言われている中、このような作品に光があたり、映画化されたことには夢を感じてしまう。文章を書いてお金をもらう仕事をしてもう11年になる。もろもろ自分の限界を感じていたが、もっと頑張ろうって思ったよ。


なお、単行本をすでに買った人も、映画発売を記念して新バージョンが出ているので、こちらを(こちらも)読むことをオススメする。ややネタバレだが、水原希子演じるヒロインや、コーロキの上司である編集長のことがよくわかり、たまらない。

そういえば、夫婦で渋谷直角さんのトークショーを2回観に行っているのだが・・・。あのとき、混んでいて行使しなかった「渋谷直角に似顔絵を描いてもらえる権」、家族でお願いできないかなあ。これもまた私の夢だ。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年10月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。